銀桂の薫りはあなたの気を惹く -Exhibition -
「お腹空いたからなんか作って」
「唐突すぎない? いつもウーバーじゃん」
「君たちの食費をいつも負担するなんて思わないでよ」
突然の正論に言い訳する暇もなく、真山宅から追い出され昼食のための買い出しに向かわされる。
今日は一日マヤセンの家で時間を潰す予定だった。なぜかと言えば、今日家には弟のいつメンが遊びに来るという事前リークを聞いたからである。そのリークを東條くんから聞いた薫ちゃんも今日はバイトで半日大学にいるため、俺は避難所にここを選んだ。
「真山先生どったの?」
「俺らに料理させてるところを写真撮って漫画の参考にするらしい」
「なるほど」
俺と同じく水元もこの場所を避難所に使っているので同じ理由で追い出された。
「水元料理できんの?」
「乾麺茹でるとか、レタス千切るとか」
期待できないってことな。
「おい! …ッチ、とりあえず買い出し行くぞ。昼には銀木も来るんだろ」
「ああ。あ、昼どうするか聞いてなかったから聞いとくわ」
昼にはバイトを終えて合流する薫ちゃんにメッセージを送って、ひとまず俺らは最寄りのスーパーに向かった。
「戻ったぞー。ん、薫ちゃんの靴だ」
買い出しだけとはいえ結構な時間が掛かってしまった。水元があれこれ文句言うからだぞ。
「うっせ」
俺たちの帰宅を薫ちゃんが出迎えてくれた。流石マイエンジェル。昼前の混雑と戦った甲斐があった。
「おかえり〜。真山くんから聞いたよ二人が料理してくれるんだってね、楽しみ〜」
「任せて」
そりゃあもう薫ちゃんのために腕を振るっちゃうから。
(買い物中何回も怠い連呼してたやつがなんか言ってる)
と言うわけでいざ料理開始である(水元の言わんとすることは無視)
真山に料理中の様子を撮られることより、正直薫ちゃんに見られて作る方がちょっと緊張するが、まあなるようにしかならん。
「水元、これ微塵切りして」
「お、おう」
俺が皮を剥いたにんじんを渡すと、辿々しくはあるが微塵切りにしていく。
本当に大丈夫かコイツ。一人暮らししてるし金持ちウーバー外食上等のマヤセンよりは料理してるだろうけどこのポンコツイケメンに料理が出来るイメージが湧かなすぎる。
その横で俺は玉ねぎの皮を剥いて、それも終わればそれとセロリを同じように微塵切り。
「銀木さんから聞いてたけど上手いねえ」
「どーも…」
まあ俺が料理出来るって言うのは薫ちゃんから聞いていたんだろうと察していた。出来ると言っても母の手伝いとかで作ったことあるものとか、あとはつまみとかだが。
…よし全部切れたな。
フライパン準備して、バター溶かしてから切った三種類の野菜を入れてしんなりするまで炒める。
しばらく炒めて野菜もしなって来たら一旦さらに避けて牛挽肉投入、焦げ目が付くまで焼けたら野菜を戻して赤ワインを加える。このワイン、元からこの家にあったやつで値段聞いてないけど水元の反応的に滅茶苦茶高そうなんだよな、勿体無いかもしれん。
「ねえ、このソース結構多めに残るよね?」
「そうだね6人前ぐらいあるかも」
牛挽肉の売られていたサイズが俺らがスーパーに行ったタイミングで大きいサイズしかなく、四人で食べるには多すぎた。大の大人四人いるので消費には困らないだろうし買って来たのだが。
「夕飯に使いたいから残しといて」
薫ちゃんの料理まで食べられるんですか??
撮影中の真山の方へ視線を向けると、スマホを片手で持ちながら空いた片手でサムズアップした。やったぜ。
「お皿に避けた方がいい?」
「うん。お願い」
まだソースは完成ではないのであとで分けるとして、煮立ち始めたのでトマト缶一缶、ケチャップ、砂糖、塩、黒胡椒をそれぞれ…適当に目分量で良いか。
「適当かよ」
「んじゃ水元味見して」
更に十五分ほど煮詰める時間があるのでその間にパスタを茹でないとな。
「パスタ茹でて、7分」
「これ8分って書いてるぞ」
「和えるからそれ差し引いて7分」
「分かった」
というかなんで料理しないのに調理器具は揃ってるんだよこの家。パスタを折ることなく茹でられるデカい鍋とか不要だろ。
そしてなんだかんた十五分経過。最後にガーリックパウダーを振ってソースは完成。薫ちゃんに言われた通り二人前分のソースを取り分ける。
水元に味見をしてもらうためにスプーンを渡すと、なぜかここで真山に静止された。
「味見といえばスプーンで“あーん”でしょうが!」
「絶対嫌だね。はい薫ちゃんあーん」
「あ、あーん…? ん、美味しい」
水元相手なんて絶対するわけないキモい。本人も気持ち悪って顔してる。まあ薫ちゃんにはするけどな。
困惑しながらも上目遣いで俺が持ったスプーンを加える薫ちゃんが可愛い。何かしらの法に触れそう。死ぬ。
「米津⚫︎師かよ。キモいぞお前」
「はいはい皿出して」
「え、上目遣いが可愛くて溺れ死にそうって?」
「?」
もう五月蝿い真山と水元は放置して仕上げだ。
水と醤油で少しソースを溶き伸ばしながら茹でたパスタを投入、和えてボロネーゼの完成である。
おら、パセリと粉チーズは好みでかけろ。水元にその二つを渡した。
四人がソファーに座って食卓を囲む。
「…凝ったものがいいとは思ってたけど、結構普通に作り始めて困惑した。スープまであるし」
「真山が言い出したんだろ」
ソースを煮詰める十五分があまりに手持ち無沙汰なので水元にスープもお願いしたのだが、これはパスタの味が薄かった時用に買ったコンソメで卵スープか。まあ薫ちゃんにアドバイスもらってたのは見てたので水元のアイデアではないがな。…睨むな事実だろ。こっちを見るな無心で食え。
「君〜、フラグが立たないように云々言ってる割に料理上手は属性盛ってるよ」
「えぇ…家事・料理は出来た方が良いに決まってんじゃん。飲食バイトとか親の手伝いとかしてたら誰だって身につく程度の範疇だぞ」
元々家の手伝い程度のことはするようにしていたが、ここ暫くは今後の人生設計を見据えて料理も多少するようにはしていた。離婚の要因第一位は性格の不一致だが、その中には家事への非協力的な態度などが含まれるからな。
「美味しい?」
「うん、美味しい」
俺と真山が喋っている間にも淡々と食事をしている薫ちゃんに話しかける。
笑顔でそう言ってくれると作った甲斐があった。
「理由は兎も角、旨い」
「まーねえ? 美味しいよボロネーゼ。水元くんの作ったスープも」
「そりゃどーも」
「ああ…」
打算的だろうがなんだろうが良いんだよ、結果的に愛想尽かされなければな。
「そういえば取っておいたソースで銀木さんは何を作るの?」
真山の質問に薫ちゃんは答える。
「アッシ・マルマンティエもどき」
聞いたことない横文字きた。
俺と水元は首を傾げたが真山は「あー!」と知っている反応をしている。
「ようは牛挽肉をマッシュポテトで覆ったグラタンだね」
言われた料理名を調べてみると確かに出てきた。詳細は違うが確かに中身の牛挽肉の部分はボロネーゼのソースで代用出来そうだ。
「じゃあピザ用チーズとジャガイモ買ってこないとね」
「うん、食べ終わったら買い物行こ」
今度は四人で買い物でも行くか。
酒買ってm…いや、つまみとかも買うだろうし。
