銀桂の薫りはあなたの気を惹く -Exhibition -


 親からデパ地下のスイーツコーナで手頃だがセンスのいい茶菓子を買って来いとの命を受諾した。
 センスのかけらもない男子大学生に選ばせていいものではないが、実家暮らしちゃらんぽらん学生が親のおつかいを断ることは出来ないので仕方がない。今度コピペ顔の親戚が訪ねてくるということでそれ用だろうし、適当に選んでしまおう。まだ日があるので日持ちする焼き菓子あたりが無難か。
 それにしたって種類が多すぎて絞れない。
 適当に物色して値段も高すぎない個包装になっている焼き菓子詰め合わせセットを購入。普段来ることもないし結構時間が掛かってしまった。
 エレベーターで上層に上がる。
 このデパートは立体駐車場と道路上の陸橋で繋がっている。なので立体駐車場全ての階層が連結しているわけではなく、室内移動をしようと思うと特定の階まで上がらなければならないのだ。
「ん、」
 陸橋のある階層まで登り、行きとは違う道のりでテナント街を歩いていると女性向けの美容系を販売しているショップが目に入った。
 そういえばつい先日、薫ちゃんが新しく買い直したいと言っていたもののことを思い出した。詳しくないが多分売ってそう。

「…というわけでこれプレゼント」
「唐突〜。でもありがとう、嬉しい」
 翌日のお家デートで買ったものをプレゼントした。
 自宅用かプレゼント用かと問われてプレゼントと答えたら大仰なラッピングをされてしまったそれを薫ちゃんに手渡す。
 彼女の手に収まるサイズの箱を開封していくと、出てきたのはヘアブラシである。詳しくないがなんだっけ、パッケージの商品名を見て思い出す。あぁそうタング⚪︎ティーザーだったか。ブラシに保護カバーが付いていて持ち歩きしやすいとか買いてある。
「今まで使ってたやつブラシ部分が曲がっちゃってたんだ。よく覚えてたね」
「薫ちゃんとの会話ですし?」
 まあショップを見つけるまでは忘れてたし、見つけたのも偶然だが。
 薫ちゃんに感謝されるのはとても気分がいい。
 元々ソファーに並んで腰掛けていたが、少し腰をあげてもっと彼女に近く座り直す。
「それっていいの?」
「うん。技術面は詳しくないけど。適当に通しても綺麗になるよ」
「へ〜〜やってみてもいい?」
「いいよ? ──くん髪短いか、ら…」
 受け取ったブラシで彼女の髪を梳いてみる。途中で切られた言葉から薫ちゃんは俺の言葉を受け取り間違えていたようで、じわじわと頬を染めていた。
 元々絡まりがないこともあって楽にブラシが通っていく。しかしこれで撫でていけば確かに他の梳く前の髪とは感触が違う気がする。
 それにしても。
「真っ赤。かわい」
「いや、だって…もーっ」
 可愛い。愛らしい。彼女の中では結構な不意打ちだったらしい。
 全く痛くない拳が肩にぐりぐりと押し付けられて、肩は痛くないが心臓はキュンとしすぎて痛い。
 ブラシを薫ちゃんに返して、今度は手で彼女の髪に触れて撫でる。
「…なんか、ブラシ関係なくない?」
「そんなことないよ」
 唸っても撫でる手から逃げようとはしない。
 ゴロゴロ唸っても撫で続けろと主張する猫みたいである。
 詰めた距離から、距離感はゼロになる。ピッタリとくっついた肩とは反対の肩に触れて引き寄せた。
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