銀桂の薫りはあなたの気を惹く -Exhibition -
以前、うちに遊びにきていた東條くんと、同じタイミングでうちにやってきた薫ちゃんがこんな会話をしていた。
『そういえば薫さんって髪伸びましたよね』
『うん。最近ちょっと伸ばしてた』
『暫く伸ばすんですか?』
『う〜ん実は最近切ろうかなって思ってて』
という会話である。
この世界はBL漫画の世界だ。そして俺は以前自分に降りかかった悲劇により唐突に属性を変える行為に髪色を変えることが該当するのだと理解した。
その後に色々あり三郷くんが髪を切っていたが、男の毛先数センチと女子の数センチではだいぶ内容が変わってくるのは言うまでも無い。
詰まるところ問題は、場合によっては薫ちゃんの属性に何らかの変化があるかもしれない、という点である。
推しの熱愛で激痩せ激変した細田、フラグ成立によって顔面の描き込みが加筆された弟の友人など、この世界での属性変化は次のフラグへの前振り、またはフラグの作用結果なのだ。
で、今日。真山宅での飲みに薫ちゃんは遅れてやってくる。理由は美容院に行くから、だ。
「そんなに気することかよ」
「まあ普通に美容院に行って数ミリ切るぐらいなら属性なんて変わんないけど、セミロングからボブとかショートになったら変わるでしょ」
「女子の髪型がよく変わる漫画、おしゃれだし好きだけど描き分けが大変なんだよね…」
真山の悩みの方向はちょっと違うだろ。
「ショート同士のカップってそんなないだろ」
「じゃあ君が伸ばしたら?」
「俺は絶対世界に剪定されるから。あと似合わん、いけても愚弟の2P感が増す」
「難儀」
まあしかし薫ちゃんのショート自体は物凄く生で見てみたい。昔の写真とかはみたことがあるが、実物も絶対可愛い。
とはいえ、ここまで事前のお膳立てがあってもどこかの小僧のように切ってこない場合もある。思い切り良いくせに切ってこなかったのは未だ謎だが最早どうでも良いことだ。切ってこなくてもいつも通り可愛い。切ってきたらきっと可愛い。ハッピー。
「…あ、来たみたい」
チャイムが鳴った。
「いらっしゃーい、部屋の鍵は開いてるから上がっておいで〜」
オートロックの解除のため、真山が壁に設置されたミニディスプレイを覗き込み、やってきた薫ちゃんに声をかけつつ開錠のボタンを押す。
「とりあえず今手に持ってるビール、テーブルに置きなよ」
こちらに向き直り発した第一声がそれか。え、なになに怖い。そんなに? そんなに可愛い??
「まだ真山ビール置けしか言ってねえよ」
「でもそういうことじゃん??」
逆に置けない。とりあえずこれ飲み切っていいか。
やば、滅茶苦茶ソワソワする。…おいバカを見るような顔すんな水元。
「お邪魔します〜」
薫ちゃんご到着。
ビール缶を握りしめたまま俺は玄関に向かった。リビングへのドアは閉めておく。
俺が玄関に行くと薫ちゃんはちょうど、ドアの鍵を閉めるために後ろを向いていた。
「もう飲んでるの?」
「うっ…!」
ネットでよく見る担架と救急車で運ばれる人間になるかと思った。
「え」
振り向いた薫ちゃんをみて不整脈になるかと思った。俺の心臓はマシンガンか?
肩にギリ当たらない長さに毛先がカットされているが、以前と同じように後ろ髪がくびれた形になっている。内巻き気味の横髪を耳にかける仕草が良い。薫ちゃんが顔を動かすたび毛先と同じ高さで揺れるピアスが輝いて見えた。
真山が言った通り缶置けばよかった邪魔すぎ。
「可愛すぎてびっくりした…滅茶苦茶似合ってるぅ」
「ありがと…?」
あ〜〜〜〜可愛い〜〜〜〜〜俺のリアクションがきしょ過ぎて疑問系になってるのも含め愛らしいがすぎる。
属性が云々とかどうでもいい、可愛いからな!
「毛先、ちょっと触っていい?」
「?? いいけど」
え、やわ、なに。いや触ったことあるから知ってたけど! ふわふわじゃん、んも〜〜〜〜!
「マジで、えー、可愛い…」
「…褒めちぎってくれるのは嬉しいんだけど、ここ真山くん家だし水元くんに筒抜けだし、滅茶苦茶見られてるよ」
この情緒のまま抱きしめようとすると手を前に出され静止された。
そして言われて正気に戻る。
「あ゛ー……ッチ」
「舌打ちするなら帰って〜ここ僕の家だよ」
「銀木、そいつ五月蝿いから叩き出せ」
「言われてるけど」
「何言ってんだ宅飲みはこれからだろーが」
あ、属性の話? 傍目クール系美女が、キュート全振り美人になりましたね。何も問題はなかった。いいな?