銀桂の薫りはあなたの気を惹く -Exhibition -
「今日は彼氏の迎えないの?」
「うんバイトだって」
「そうなんだ。お疲れ〜気をつけて〜」
「そっちもね、おつかれ〜」
ゼミの友達と一緒に飲んでいた。
複数の駅から近い飲み屋街で、私以外のメンバーは、自分とは別の駅の方面へ歩いていく。
スマホを見たら時間は21時。女友達だと時計を見ないからすぐ時間を忘れる。彼と飲みにいく時はあっちも飲みたいだろうに私の帰宅時間を気にしてくれている。
カバンからイヤホンを取り出して付けようとしたところでまた彼の言葉を思い出す。『夜道のイヤホンとか、飲み屋街とか特に危ないからね』過保護といえばそうなんだけど、正論には違いない。
最近配信された好きなアーティストの曲は聴きたいけど電車に乗るまでは我慢しよう。そう思って無心で駅まで歩き出して少しした時、見知った声が聞こえてきた。
「いや〜僕は別にいいかなぁ」
「そういうなよ〜」
「俺ら二人だとつまんねえじゃん?」
真山くんだ。
他は知らない金髪と黒髪の男二人と一緒に喋ってる。大学では見たことがないけど、彼も結構交友関係広いし私が知らないだけかもしれない。
それにしては真山くん顔真っ赤だ。彼を囲うようにして二人が立って肩に触れている。
会話的にはn次会に誘ってるって感じだけど流石に真山くんは帰ったほうがいいレベルだと思うな。
「真山くんこんばんは飲み会帰り?」
「…銀木さん?」
ひとまず普通に声をかけてみる。
声をかけただけだと誰か分からなかったみたいで私の顔を見て漸く分かったみたい。やっぱり結構酔ってる。
「へえ真山くんっていうんだ」
ん? 名前知らない?
「おねえさん彼と知り合い? よかったら俺らと飲もうよ、いい店知ってるからさ」
「あっ、彼女は、」
黒髪の方に肩を掴まれた。力が強い。酔った真山くんが私と相手の間に入ろうとするけど千鳥足で危ない。
キョロキョロと焦ったように視線を泳がす真山くんと目を合わせる。微かに目が左右に揺れたかと思えば首も微かに左右に動かした。
「行きません。離してください」
「一杯だけだから、ねっ?」
「行きません」
肩を回すように動かして、相手の手を振り払う。
すると黙っていたもう一人が私の後ろに移動してきたから身体の向きを変える。
「いいじゃん。二人ずつでしょ?」
「こんなベロベロの人間誘ってる時点で下心見え見えですけど」
「言うじゃん。オレおねえさんみたいな強気な女、すげー好み」
ニヤニヤと一歩詰めて顔を近づけてくる。
「すみません私は貴方たちみたいな軟派な男はまーったく好みじゃないです」
後ろに手を回し真山くんの腕を掴む。彼の肩はまだ金髪に掴まれているけど、見た感じ強くは掴まれていない。
いざとなったら私が腕を引っ張って走って逃げる。
こういう人種は睨みつけるだけ加虐心を産むから挑発したらダメって彼が言ってた。けど、こんな、水元くんじゃなくても分かるレベルの下心丸出しで醜悪な表情してる男に嫌悪感を抱かない方が無理だ。
「あぁそっかあ、こんな酔った相手しかナンパ出来ないから好みの人に相手にされないんだ、ダッサ」
……。
流石に言いすぎた。夜風が涼しいどころか肌寒い。金髪が顔を伏せてわなわなと震えている。手が来るか、それとも足? 大丈夫、ちゃんと見たら避けられるはず。
「────ぷっ、あはははははお前言われてんぞ!」
出てきたのは大爆笑だった。金髪が腹を抱え、その後にもう一人の黒髪に対して指差して笑い泣きしている。
「笑うな馬鹿! だいたいお前がこいつに声かけろって唆したんだろーが! …ッチ、もういい帰る!」
不貞腐れた黒髪の後を金髪が追いかけていく。
なんだかよくわかんないけど、あれだ。彼がよくカップル♂に言ってるやつ。お幸せに…?
「た、すかった?」
「多分…って真山くん大丈夫だった?!」
ベロベロよろよろの彼を歩道の端に寄せる。ここら辺公園もないしベンチとか駅まで行かないとないんだよなあ。タクシー呼ぼうかな。
「うん……あんなあっさり帰るなら漫画の参考に話ききたかった…」
「いやいやあのままだったら普通に危なかったから」
私も棚上げではあるんだけど、呑気なこと言っている彼にはちゃんと言っておかなければ。
BL漫画の世界なんだから私より真山くんの方が危険だった、で間違いないはず。
「あー…うん。助かったよありがとね」
「どういたしまして」
二人でタクシーで帰ることにした。
後日、真山くんからお礼にシャインマスカットをもらった。とても美味しかった。
彼には口酸っぱく「ほんとに危ないからもうしないで」と叱られたけど、後悔はしてない。
