銀桂の薫りはあなたの気を惹く -Exhibition -


(あ、水元くんだ今日もかっこいい〜)
(合コン誘っても来てくれないし、どうしよっかなあ)
 あ゛〜頭痛いぃ本当に全員一回黙れ。
 今日は今朝からいつもより人の心の声がよく聞こえる。目が覚めた時から若干気だるい気もするし、体調が悪い日はいつもスピーカーが全開になるし、今日はダメかもしれない。
 だがもう大学まで来ちまったし、選択授業のグループ発表もあるし、休むに休めない。
「ねえねえ水元くん今度なんだけど──」
(講義に関係あることだったら二人きりになれるはず!)
 キンキンと高い声と心の声が混ざって、実際の声は聞き取れねえし、頭痛は悪化する。
「…悪い、パス」
 何か言い返される前に足早に逃げる。
 急に競歩に切り替えたら気持ち悪くなってきた。
 なんとか教室にたどり着く。まだ人は少なく、グループ発表で一緒に組んだ相手は珍しくまだ来ていないようだ。
 絡まれないように机に突っ伏して寝るか。目を閉じて顔を隠すふりをして耳を塞いでも心の声は脳に直接流れ込んでくる。痛い。こんな能力、本当にいらない。無くなれ!
 …痛いとはいえ目を瞑っているとうとうとしてたのか、揺さぶられて始業時間であることに気がついた。
「時間だよ、水元くん」
「…ああ」
(一限目は眠たいもんね)
 暗い視界から光が入って目が眩む。余計に気持ち悪さが増した気がする。
 自然と睨むようになりながらも隣に座る女に顔を向ける。
(…いやこれ眠いんじゃなくて)
「だ、大丈夫? 滅茶苦茶顔色悪いけど」
 声の音量を抑えて、小さい囁き声で囁くような声質で喋りかけられる。けど、気遣いのおかげで逆に周りの心にかき消されて声が聞こえない。
 痛い。痛い、痛い! 頭割れる…!
 頭を振って腕も一緒になって動くと伸ばされていた手を弾いてしまった。
「ぁ…」
 顔を上げると、驚いたように目を丸くしている銀木が見える。
 手をはらいたくてそうしたわけじゃない。謝ろうと思ったが言葉が出てこなかった。
「わ、」
「鎮痛剤あるよ。効くかな?」
(気にしてないよ)
 鞄の中から常備薬を取り出して、俺の目の前においた。
「…怒んないのかよ」
「なんで?」
(頭が痛くて辛い人になんで怒るの? 私は偏頭痛持ちとかでもないし、頭痛の辛さは熱出た時ぐらいしか分かんないけど、辛い時に他人を気遣えなんて無理なんだからさ。水元くんが私に何か言うなら謝罪じゃなくてお礼がいいかな)
 はらってしまった手がまた近づいてくる。額と前髪の間に入り込んで発熱の有無を確認している。
 手が冷たい。
 アイツが、安心する落ち着くって言うのがよく分かった。
「熱はないみたい」
(発表は私がメインで喋るから、水元くんはパワポ動かしてね。薬効かなかったら早退でもいいかも)
 優しい。いいやつだって、前から知っていたが深く実感する。
 他の奴らは話しかけて顔を見ても表情なんてろくに見ないし気づきもしないのに。
(友達なんだから頼ってね)
 最初から最後まで他意がない。
 友達なら誰だって銀木はこの程度のことをする。この距離感が勘違いを生むことに気がついていない。
 だが俺は勘違いしない。誰でも平等に優しい銀木に”特別”があることを知っているからだ。
 他の誰よりも。特別である本人よりも、俺は聞いているから。


 *


「昨日は助かった。これお礼」
「えっ本当にもらってもいいの!?」
 銀木はフルーツならマスカットが好きだが、菓子ならサブレが好きだ。デフォルメされた鳥の形のサブレを渡すと銀木はとても喜んだ。
(結構いいお店ので高かっただろうし、お礼なんて言葉だけで十分だったのに)
「……」
(薫ちゃんがまた水元の好感度稼いでる…コミュ虫なんだからすぐ上がっちゃいそ)
 銀木の”特別”な男が睨みつけてくる。慣れているので気にしない。少し前までは少し喋るだけでだいぶ煩かった。
 このおしゃべり野郎の心配は杞憂でしかない。『俺と水元だったらモブの俺負けるじゃん』など考えていたりもするが、それは絶対にない。コイツ風に言うなら銀木に俺への好感度はない。真山風に言うならバロメータ? がない。明確にコイツかそれ以外に分類されている。
 そんな人間を好きになることなんてありえない。
「…お前が言ったんだろ」
「何が?」
 男同士が恋をする世界なら、男女の友情は成立するんじゃないか。ってな。
「俺と銀木は友達だからな」
 優しくしてくれる友達には、同じように優しくするべきだろ?

VS友達③
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