銀桂の薫りはあなたの気を惹く -Exhibition -
「桜…の神? 的な存在が俗世の穢れを? を纏わない清い供物を? を欲してるから…?」
と、真山に『お前が桜に攫われるかと思った…』、通称桜攫われイベントをご説明いただいた。これは専門家に聞いてもふわっとした土着信仰であると言うことしか分からなかったわけであるが、俺は今、目の前で桜による拉致未遂を目撃する。
「みんなー! こっち空いてるよー!」
俺たちが桜攫われイベントについてくっちゃべっている間に薫ちゃんが先行して空いている場所を探してくれていた。
彼女が振り向くと風が強く吹き抜けていく。髪が乱れ目を細める薫ちゃんの姿が逆光と桜の花弁によって視界が悪くなり、霞む。
「……、」
拉致はあくまで気のせいである。
輪郭がぼやけたのは俺が眩しさで目を細めた一瞬で、薫ちゃんはずっと目の前にいた。
俺は桜の恐ろしさを知ったのだ。俺はてっきり攫われイベントが起こるのは”攫われそうな儚さ”がある相手だと思っていたのだが、どうやらそうではないらしい。
決して薫ちゃんに儚さが無いとは言わない。が、少なくとも儚い属性とは遠い位置にいると思っている。それが今、属性が付与されたように思ったのだ。
「どうしたの?」
「あー…いや、なんでもない」
「見た? 水元くん」
「見た。くっそほどたらたらたらたら御託並べてるが、結局今、銀木に”お前が桜に攫われるかと思った…”って言いそうになってただけだぞ」
「だよねだよね! いや〜見たいとは思ったけどまさか友人がやってくるとはな〜〜〜〜〜」
うるさい。
だが、お前らのおかげで傾きかけた思考が正常に戻った。薫ちゃんは確かに目の前にいる。溌剌と笑い、急に黙った俺を首を傾げ見つめている。
「桜攫われイベント?」
「今彼が銀木さんにしたみたいなリアクションのこと」
「ふ〜ん?」
あまり分かっていないようだ。分からなくていい。
「大丈夫。もし攫われようが、床が抜けてボッシュートされようが絶対戻ってくるよ」
「え、好き」
好き。
