銀桂の薫りはあなたの気を惹く -Exhibition -
「四人で花火しようよ!」
真山先生の召集令状により近所の河川敷に集合した。
BL漫画の河川敷では、以前見かけたようなヤンキーの抗争など行われたり、夜だと橋の下などで青姦も極たまに見かけたりするが、やはり夏の時期になると花火をしている集団をよく見かけるようになる。
「もしかしたら小学生の林間学校以来かも」
「友達だけでキャンプとかなかった?」
「長期休暇はバレー漬けバレー合宿」
「じゃあないかあ」
マヤセンが大量に買ってきた花火お得セットの中身を適当に四人で分配してどんどん着火していっている。
友達の多い薫ちゃんだが中高と部活一筋だったのは聞いているのでイメージがつきやすい。花火してる暇があったら練習してそう。
で、今回マヤセンがこんなBLフラグが発展しそうなエモいシチュに選りすぐりのイケメンではなく俺らを呼んだのは、参考資料を撮るためらしい。
「いいね〜いいよ〜二人とも見つめ合って〜」
「なんで俺とコイツなんだよ」
「銀木さんだと体格の問題があってね…」
「真山くん、手筒したい」
「じゃんじゃんしちゃって! もう少し彼氏借りるね!」
借りるねじゃないんだが。俺の意思は無視か。
まあ今日も懐柔のために酒まで奢ってもらっているし、写真がそのまま漫画になるわけでもなし、協力してやらんこともない。
ああ、ちょっと離れたところで薫ちゃんが一人で花火してる。俺も早くそっち行きてぇ。
「…キミさあ、せめて手元の花火見てよ。視線が大事なんだからさ」
数枚写真を撮ったかと思えば、手元のスマホを下げて俺に対してリテイクを要求する。
「マヤセンなら多少資料と違っても脳内補完して描けるじゃん。プロでしょ」
「まーね?? でもそうじゃない」
そこからまた別角度から数度撮影してようやく俺と水元は解放された。
手筒を十分楽しんだ薫ちゃんは次に火花が四方に呼ぶスパークに点火していた。かなり勢いが激しいが薫ちゃんは物怖じせず淡々を様子を見つめている。
「火、ちょうだい」
「終わったの?」
「うん」
俺が選んだのはススキ。薫ちゃんがライターをポケットから出す前に、彼女の花火に俺の花火の先をくっつけて点火した。
細く長い筒の先からまっすぐ花火は噴き出す。枝分かれのように細かい火花が色を次々に変えていく。
「次、線香花火しようよ」
両方の花火が終わって、次に薫ちゃんが手に取ったのが線香花火だった。
薫ちゃんからライターを受け取って二本に点火。
静かに火が小さい玉状になって、少しずつ火花が大きくなっていく。
「…」
線香花火ももちろん綺麗だが、オレンジの光に照らされた薫ちゃんの横顔が綺麗すぎる。
勉強をしている時とも違う、魅入っていると表すのがきっと適切。
「…どうかした?」
見すぎた。視線に気が付いた薫ちゃんが俺の方を見て首を傾げた。
花火を見つめていた真剣な横顔とは違い、目を細めた微笑み。
横から見た薫ちゃんはとても綺麗なのに正面から見た彼女は可愛く見えるのは、表情に差があるからなんだろうか。
「ん、なんでもない」
「“花火より、薫ちゃんの方が綺麗だな“ってか。くぅ〜滅茶苦茶くさいけど王道〜見せつけてくれちゃってぇ〜」
聞こえてんだよ。
いや、わざとか、わざと聞かせてんのか。
ふざけるなよ。意地でもお前らの方見ないからな。
カシャッ
「あ゛」
前言撤回、流石に振り返ざるを得ない。
写真撮った? 真山お前写真撮った??
「真山くん、あとでそれ送って」
隣にいる薫ちゃんは動じず盗撮写真を貰おうとしている。
「いいよー」
「うるさ」
え、今俺そんなに煩くしてないよな。
ニヤけ面の真山から視線を隣にいる薫ちゃんに戻すと、彼女は俺の方の花火の方の見ていない。そっぽを向かれているが、髪から微かに出た耳が赤くなっている気がする。
晩夏の涼しくなってきた夜の河川敷で、友人が見ている前だというのに口角の抑えが効かなくなった。
