銀桂の薫りはあなたの気を惹く -Exhibition -


 自室でするキスは緊張感が違う。
 しかし漸くまともに見れた薫ちゃんの表情に俺は自然に感想が口から出た。
「……可愛い」
 痛いぐらいに早まる鼓動をかき消すぐらい、降り始めた雨の勢いが強まってきた。
 つい先ほど、今目の前にいる薫ちゃんにこの世界がBL漫画の世界であることを暴露した。それに付随する俺が彼女に隠してきたこと、少なからず彼女からの好意を利用しようとしていたことも全てだ。
 客観視して馬鹿げた頭イカれ野郎の妄言と今はちゃんと彼女を好きであると言うことを信じてくれた。
 そうしてやっとなんの罪悪感もなく、薫ちゃんに触れていられる。
「可愛い…? 私が?」
 キスを終えて少しぼーっとしていた彼女の顔に驚きが浮かぶ。丸くなった瞳は赤みのある綺麗な黄色をしていた。
「うん」
 今までは声でと身振り手振りでしか分からなかった彼女の感情の機微が良くわかる。
「初めて言われたかも」
「えぇ本当に? 滅茶苦茶可愛いのに」
 恋愛初期に恋人の全てが5割り増しに見えるというありがちなことを差し引いたとしても、薫ちゃんは可愛いと思う。いや明確に言えば彼女は美人の部類で、釣り上がった目尻なんかは、きっと真顔の時などは鋭い印象になるのだろう。だが彼女の表情はとても愛らしい。
 ツリ目なのに、笑うと下がる眉。今不思議そうに俺を見つめているなんとも言えない表情。
 今までは表情という情報がないが故に、彼女の内面の良さを無駄なノイズもなく感じれていたのだが、この容姿の良さに加えて火の打ちどころのない性格は、モテるのも良くわかる。何をどうしたらこんな良い子に育つのだろうか。甚だ疑問である。
「格好良いとかは言われたことあるけど」
「あー…」
 背も高いし、気配りの速度とか思考に妙なかっこよさもあるので同性に言われてそうなイメージは確かにある。
「嫌だったら言わないけど」
「ううん。格好良いはあんまり嬉しくなかったけど…可愛いは、結構嬉しいかも。──くんに言われたから、かもしれないけど」
 そういうところだぞ薫ちゃん可愛いなあ〜〜〜〜〜〜〜〜〜!
 首を横に振ったあと、満面の笑みで応える彼女を強く、勢いのまま抱きしめてしまう。はーーーーー良い香りがする。
「キスしても良い?」
「いいよ」
 ちゃんと顔を見て、話をして落ち着いていた緊張をまた感じ始める。
 さっきもキスしたのに、何回キスしていいか確認するんだよ俺は。 毎回聞かねーと嫌がられないか心配になんだよ童貞だから。
 俺の部屋だし、今は床に座ってるけど後ろベッドなんだよな。
 え、ワンチャン狙いすぎてキモ。でもずっと床は座ってて痛いよな。だからってベッドは狙いすぎだ馬鹿野郎。
「……」
 アッすっごい見られてる。キス終わったら何か言いたげに見つめられてる。落ち着け、呼吸しろ、深呼吸。
「…」
「…………薫ちゃん?」
「…言わせたいの?」
 まっすぐ俺を見ていた頭が傾けられながら上目遣いで見つめられる。計算してやっているわけではないのだろうが、結果として照れながらも僅かに鋭く、なのに全く怖くないむしろ可愛い視線が俺の心を貫いた。心臓もげる。
 これが小悪魔系???? え、は、可愛すぎるんだが。
「女にしてよ。私のこと」
 はい。
 俺も男になります。
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