銀桂の薫りはあなたの気を惹く -Exhibition -
「バイトで遅くなっちゃったお待たせ〜…って何してるの?」
「薫ちゃんいらっしゃい。バイトお疲れ様」
真山の家でいつもの如く四人で集まる約束をしていた。俺含めすでに三人集まり、薫ちゃんは大学図書館でのバイトを終えて現着した。
俺や水元とは違い、気遣いのできる偉い彼女の手にはお土産らしき手提げの箱がある。
「いらっしゃいって僕のセリフなんだけど…いま瓶の蓋を開けようとしてお湯沸かしてるところ」
「そうなんだ。っていつも真山くんちでごめんね? はい、お土産のスコーン」
「良いよいいよ。あの無銭飲食どもと違って銀木さんはお土産くれるし」
無銭飲食は事実なので撤回は不可能である。薫ちゃんに愛想を尽かされない程度に俺も真山にお土産とか買ってるんだけどな。
というか、薫ちゃんが持ってきたのスコーンって言った?
「スコーンって最近出店が来たっていう有名なお店の?」
「そうそう、良く分かったね」
開封された箱の中には八つのスコーンが詰められていた。
「ごめん、さっきうちに来てた東條くんから一個貰った…」
「えっこっちこそごめんね? あぁでもプレーンと紅茶味あるから…!」
薫ちゃんと東條くんはマンションのお隣だ。お土産に買ってくるお菓子も、情報交換が盛んなのか一緒なことが多い。
そのことを考慮すれば家で居座ってスコーンをもらう必要はあまり無かったな。俺の選択ミスだ。
「今度から伊織くんとお土産の打ち合わせしないと…」
「いやいや、気にしないで本当に。二つとも美味しく食べるから」
このように人の良い彼女に無駄に気を使わせるのは気が引ける。
「でも丁度よかったんじゃねーの?」
水元がジャム瓶を薫ちゃんに見せた。
家で高校生のガキどもが一悶着つけながらも開かず、ここにいる三人でも結局開けられずに、蓋をお湯に晒されそうになっている強情な瓶である。
「開かなかったの?」
「うん。俺んちのジャムなんだけど、びくとも」
話の種として持ってきた要因が強いのだが、薫ちゃんのお土産もスコーンなら確かに丁度良い。家では蜂蜜で食べたので味変として、薫ちゃんの憂いも晴らされることだろう。
「ふーん。貸して水元くん」
「硬いぞ?」
「試してみるだけならタダだよ」
水元から瓶を受け取り、薫ちゃんは本体と蓋部分を握り締めた。
彼女の手が実は結構大きい方であるということを、瓶との大きさを比較してふと思い出す。そういえば見せてもらった写真にバレーボールを片手で掴んでいるものがあった気もする。
「ふんッ………ぐっ…あ、開いた。はい返すね」
唖然としている水元に開いた瓶と蓋を返し、薫ちゃんはスコーンを乗せるためのお皿を戸棚から取り出し始める。
「……無駄に沸かしたお湯どうする?」
「……コーヒーでも淹れるか」
