銀桂の薫りはあなたの気を惹く -Exhibition -
「薫ちゃん」
名前を呼ばれ、返事をする間もなく後ろから抱きしめられた。
髪を適当に纏めて見えているであろう頸に何かが触れてくすぐったく感じる。
「何見てたの?」
「長毛の立ち耳スコティッシュ」
「? なんで…?」
笑う息遣いが耳を掠めた。腰に回っていた両腕のうち右手が私の右手を包むように握り込まれる。
「可愛いから」
「確かに可愛い」
別に猫派でも犬派でもなかったけど、猫好きの彼と付き合い始めてから確実に猫派に傾いている。猫グッズを見るとつい見てしまうし、彼の実家にいるミーコちゃんのことを考える。
「薫ちゃんも可愛い」
隙あらば私を褒める言葉を挟み込んでくる。
でも私“も”と言うところに歪みなさを感じる。猫が“可愛い”と飼い主に言われ続け“可愛い”と言われただけで反応し名前が「可愛い」なのではと猫が誤認していると飼い主が考えてしまうことがあるというが、彼はそういう部類の人だ。
二人きりの時に私にかける言葉は、たまに猫に向けるようなデレデレな声色になる。
「クリップ取っていい?」
「いいよ」
彼は私が使っているヘアクリップを取りたがる。面白い要素とかないと思うけど。
適当に纏められていた髪は重力によって当然下に落ちる。乱れた髪を彼が手櫛で整えたかと思えば、今度は髪の匂いを嗅いでいる。普通にシャンプーの匂いだと思うけど彼は飽きない。
今はお風呂から出て時間が経ってないからいいけど、汗掻いた後に嗅ぐのは恥ずかしいからやめてほしい。
「飽きないねえ」
「飽きない。猫吸いと一緒」
取ったヘアクリップは返してもらう。
抱きしめられたままというのと、そもそもベッドに座った彼の足の上に座らされているので身動きが取れない。頑張って腕を伸ばし、机の腕にヘアクリップを置いた。
「これも、もういいよね?」
スマホも手から抜き取られ、枕の横に置かれた。今すごく可愛い猫ちゃんが映ってたので名残惜しくスマホに視線を向けていると少し不服そうに見つめられた。
「こっち見て」
デレデレな声色もあればそうでないときも存在する。喉の奥から響かせる低い音は私の身体の芯も震わせる。
喋る時は当然相手の顔を見るけれど、私にだって見れない時だってある。
「ねえ」
毛先を指で遊ばせ、顔を覗き込む。
「今日、ご機嫌斜め?」
いつもは眉を吊り上げて笑う彼が今は少し眉がハの字になっている。
彼は私が嫌がることを絶対にしない。だけどたまに過保護すぎるというか心配しすぎな気もする。
「うんん」
いつもどこか眠たげな三白眼が、私の本心を見定めている。
漸く目を合わせるともう目が離せない。
「ドキドキに浸ってるだけだよ」
彼の手が触れている場所がとても熱い。心臓の動きが早くなってる。
手を握ると多幸感に包まれる。頬を撫でられると頬擦りで返す。高まる熱が心地よい。
「…えぇ、なにそれ…可愛い、好きじゃんそんなの」
たまに彼の語彙力は絶望的になる。明確に照れて目が泳いでる。
「大好きだよ」
「俺も大好き」
唸ったと思えばそれまで一定の距離があった彼の顔がとても近くにある。
彼の薄い唇が私の唇に軽く触れる。触れ合わせるだけのキスでも凄く気持ちよくてドキドキした。
