銀桂の薫りはあなたの気を惹く -Exhibition -
「なんで薫ちゃんってあんなに可愛いんだろ…」
「おい、口から出てるぞ」
「出してんだよ」
「今日結構飲んだよね、お水飲みな?」
今日は久しぶりに真山の家で三人で飲んでいる。薫ちゃんと付き合い始めてしばらく経つ。なんだかんだ真山は彼女がここに来るのを許してくれており、四人で飲むようになったからだ。今日薫ちゃんは親戚が家にくるそうでここには来れない。
真山に水を渡されるが実のところそんなに酔ってはいない。
「酔ってんだよ。酔ってるやつは総じて自覚してないだけだ」
渡された手前、飲まない訳にも行かず義務で水を飲むと、水元におかわりを注がれてしまう。
二杯目の水を半分ぐらい飲んだところでコップを離す。
「話しかけるとニコニコで返事してくれるし、ポジティブで喋ってて楽しいし、可愛いし、おっぱいも大きい、優しい好き」
隣で水元が呆れたように首を横に振り、真山は「そうだね、よかったね」とまるで子供をあやすような相槌をうっている。
「なんだ水元、薫ちゃんが可愛くないって言いたいのか」
「言ってねえよ。可愛いっていうか美人だよ銀木は」
「は、薫ちゃんは俺の彼女だぞ、クソイケメンが」
「あ゛ーはいはい悪かった悪かった。もっと水飲め」
テーブルに置いたコップにはまた水が注がれた。まだ半分残ってたのにせっかちなやつら。
時計を見ると日付が変わろうとしている。今日はここでオールだな。薫ちゃんの魅力を語らないと気が済まない。
*
「彼寝た?」
「寝たな」
「どうする? 銀木さんに頼んで連れ帰ってもらう?」
ソファーに凭れ、頭は完全に下を向きシャットダウンしてしまった男を見て残り二人は思案に暮れる。
久しぶりの男だけの宅飲みは大層盛り上がった。これは決して女子である銀木に遠慮していたということではない、四人で飲むのも二人は好きだ。ただ、男三人で異性を気にしない話題というのはどうしても盛り上がる。
「寝てるだろ、もし起きてても次の日こいつにごちゃごちゃ言われる」
「じゃあ寝かしとこっか」
彼が寝ているのは大人一人が寝転がれる大きなソファーだ。酒が入り深く眠りに落ちた男を横にさせてブランケットを掛ける。
心の中で饒舌に喋るこの男が眠ったことにより水元は眉間の皺を微かに緩める。想いが強ければ強いほど聞こえてくる心の声は大きくなる特性から、今日の彼の声は途中から爆音に変わっていたのだ。
「あ、そうだ」
ほくそ笑む真山に、彼の思考が聞こえる水元は深くため息をついた。
スマホのカメラをつけると寝入っている男の寝顔を激写した。普段は警戒心の化身のような男だが今は完全に夢の中。寝言でも恋人の名前を呼んでおりシャッター音で目覚める様子はない。
「銀木さんに送っちゃお〜」
撮影した写真をラインに送る。
時間は日付が変わり三十分ほど経過している。親戚が家に来ているということは真山と水元も聞いてはいるが、銀木の生活リズムはとても規則正しいことを知っているので、すでに就寝していると予想していた。
「あ、返ってきた。『今酒が入ってて正常な判断ができないからアイコンにした』だって。本当にアイコン変わったんだけどw」
しかし彼女の方も晩酌を行っていたようである。いつもと文章の雰囲気が違い、酔っているのが伝わってくる。
「あっちも飲んでるのか。迎えはやっぱ無理だな」
「じゃあ水元くんも泊まる? 空き部屋まだあるし」
「ああ、悪いな」
酔って熟睡の男は残しリビングは消灯され、水元は案内された部屋、真山は自室にて就寝した。
翌日、目が覚めた男は恋人のラインアイコンが自分の寝顔になっていることに狼狽え、銀木本人は自分で変えた覚えのないスマホのロック画面まで寝顔になっていることに頭を抱えた。
