銀桂の薫りはあなたの気を惹く -Exhibition -


「水元くんってトラガス空いてたっけ?」
「ぁあ、昨日衝動で開けた」
 マヤセンの家で目的もなく駄弁っている時に薫ちゃんが不意に切り出した。
 マ⚪︎パして、水元でも出来るボードゲームをしようかと言いつつダラダラとしていた時だ。
 この場にいる俺以外、全員がピアス穴が空いており、特にマヤセンが一番耳がチャラい。
「イヤホンしてたよね、これからはヘッドホンにしなきゃ」
「開けた後に思った」
「あらまあ」
 トラガスは耳の入り口に近いところに当たるのでそこにピアスがあるとイヤホンは着けられなくなってしまう。だから外で曲をよく聴く薫ちゃんやマヤセンはトラガスに穴を開けていない。
「バカなの?」
「うっせ。隣は相変わらずだしむしゃくしゃして…気がついたら穴開けてたんだよ…」
 えぇ、怖すぎる。隣の性活音による騒音被害は流石に哀れみを感じるが、気がついたら穴開けてたとか、自分で開けることなのに想像も出来ないな。しかも結構難易度高くないかその位置。
 だがストレスを感じて無意識の自傷にピアスホールを開けることは当てはまることもあると言うし、水元はそういうタイプなのだろう。
「真山だってそうだろ」
「んー、まあねー?」
 マヤセンはたまに電子吸ってたり、お仕事柄ストレスも溜まりやすそうだし想像付く。
「銀木さんはなんで開けたの? ファッション?」
 マヤセンが薫ちゃんに視線を向ける。彼女のピアスは右四箇所、左二箇所である。服装に合わせてピアスの系統も変えているようなので水元とは違いファッションとして開けていると思われる。
「…ファーストピアスはほぼ衝動」
「え、そうなんだいがーい。銀木さんって病院で開けてもらってるイメージ」
「うんまあ最初以外は病院で開けてもらった」
「確かにインダスはね〜」
 薫ちゃんの目が明らかに泳いだ。視線が俺の後に水元に向かう。が、すぐに喋っているマヤセンに戻った。水元は平静を保っている。
 …むかつく。
 BL漫画のネタ探しと称して人間観察をしているマヤセンも、流石に彼女の一瞬の動揺には気がついたようで、ファーストピアスについては深く追求しなかった。

 帰り、水元とは途中で別れ、薫ちゃんを家まで送る途中で聞いてみることにした。
 水元だけが真相を知っているというは癪に触るので。
「最初にピアス開けた理由ってなんだったの?」
「えぇ…」
 薫ちゃんは眉間に皺を寄せながら少し顔を赤らめた。
 この反応で言葉にしがたい反応なのは、後ろめたさではなく気恥ずかしさであると理解した。本来であれば彼女の中だけで留まる話なので掘り返さないのが彼氏としての優しさなのだが、今回は水元にがっつり聞かれてるので、俺が知らないわけにはいかない。
 それにもし、聞かれて拙い内容ならその場で水元が何かしらの反応を見せた筈である。
「引かないでよ」
「引かない引かない」
 彼女は最初のデートの時に買った赤いピアスを指で摘んだ。お揃いで同じ装飾のネックレスを俺も持っている。彼女はこれを大変気に入ったのか、頻繁につけてくれていた。もちろん今も。
「合コンに出てた女子がみんなピアス開けてたから」
「薫ちゃんって合コン出たことあったの?」
「貴方が一回生の時にでた合コンですけど」
 断片的ではあるが薫ちゃんはそれ以上言わず、足が早まった。
 珍しく早口で捲し立てるような口調で、でも怒ってるというよりは羞恥の方が強そうな声色で、正直可愛い。
 置いていかれないように俺も足の回転を早め、同時に言葉の意味を考える。
 足の回転と同じように脳もよく、早く動く。
 あ、
「えっ」
 瞬間湯沸かし器のように一瞬で脳が茹だった。
 漏れた声に反応し蹴っ飛ばされたように駆け出そうとする薫ちゃんの手を掴んだ。
「それってさ…」
「あ〜も〜ピアスの話するんじゃなかった墓まで持っていくつもりだったのに」
 薫ちゃんは基本的に嫉妬をしない子である。
 バレーでも相手を尊敬することはあっても実力や才能に嫉妬心を感じたことはなかったと言う。でもそうだと言い切れるということは、別のどこかのタイミングで嫉妬を感じたことがあるということだ。
「社会学部の女子は垢抜けてて可愛いね。どうせ教育学部の芋学生ですよ私は」
「薫ちゃんが自認芋は争いが起こるから撤回してね」
「メイクもファッションも覚えて、衝動でピアスまで開けたのに殆どの女子の顔が認識出来てませんなんてちゃぶ台ひっくり返されたんだよ、墓まで持って行きたいじゃんこんなの」
「それは本当に申し訳ない」
 薫ちゃんは努力が上手い。バレー一筋に中高と過ごし、他のことは無頓着。
 そんな彼女が二年足らずでレベルの高いイメチェンを果たしている。その理由が俺であるというのは正直優越感がある。
 同時にこんなに可愛い薫ちゃんに想われ、同じ選択授業を受けていたのに、幾ら世界の抑止があったとはいえ気づかない俺が馬鹿野郎確定である。クソが。あ、だからあのヤンデレ女子はあんな反応だったのか。そりゃキレるわ。
 はーここが道路じゃなかったら抱きしめてた。
「ごめんね」
「いいよもう。今は好きでやってるわけだし」
 そう笑ってまた赤いピアスに指先で触れる。本心であろう言葉に俺も安堵した。
「うん、似合ってるかわいい」
「ありがと…」


*


深夜。
『友達をダシにした気分はどうだい?』
『聞けたのか? 泣かすなよ』
『泣かしてない、ダシにもしてない。だが水元は許さん』
『は?💢 お前と銀木の脳内惚気合戦なんて今更だろうが』
『は〜? 何それ聞いてくる』
『やっぱりダシじゃん僕ら』
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