銀桂の薫りはあなたの気を惹く -Exhibition -
「あ、やば」
隣に座っている薫ちゃんが呟いた。
彼女の家でソファーに座って映画鑑賞。お菓子を食べ、酒…ではなくジュースを飲む。夜には彼女のお兄さんも帰ってくるし。
「ん?」
画面から目を離して隣にいる薫ちゃんを見た。
彼女の手にはチューブタイプのリップクリームが握られて、その唇に当てる部分を見つめている。
「出しすぎちゃった」
空調のついていない部屋に長時間放置していたらしいそれは、中身が緩くなって、想定よりも中身が出てきてしまったらしい。
斜め状になっている塗り口を、自身の唇に押し当て一往復。その後下唇と上唇を擦り合わせて満遍なく広げた。
艶やかな膜一枚を纏った唇はとても形が良くて…──いや、いかん。今日はそういうのは無しだ。
「口貸して?」
返事をする前に、彼女の持っていたリップクリームが俺の唇に当たった。
ぬるりとした感触が下唇に触れて、滑らかに動いていく。
「このまま蓋閉めると勿体ないから」
薫ちゃんは特に気に留めることなく、リップクリームを片付けた。放心している俺を放置して彼女は映画に意識を戻す。
思考的には分かる。蓋の内側に中身がついたら拭き取らないといけないし勿体無い。だが、だがだ。
「…こっち見過ぎ」
確信犯だと理解した。そんな表情をしている。
テレビから視線を外し俺に向かって浮かべている笑みは揶揄って煽っているように見える。
リップが出過ぎたのは、本当だったのかもしれないが、それ以降の彼女の行動は狙ってやっているように思えたのだ。
だとすれば、我慢する必要はないのでは?
「時間、ないんじゃなかったっけ?」
「まだ二時間あるよ」
二時間なんていつもあっという間じゃないか。
肩を抱いて引き寄せる。
…同じリップクリームを塗ってするキスは気持ちが良かった。
