銀桂の薫りはあなたの気を惹く -Exhibition -


『今体育館にいるから待っててくれない?』
 講義後、今日はバイトがないという薫ちゃんと合流し、水族館で魚でも見ようかと思っていたのだが、メッセージを送るとこのような返事が送られてきた。
 体育館は必修の体育ぐらいでないと行くことがない。
 半地下になっているホールと、一階二階にある観客席。ホール側の入り口から覗くとすぐ近くで女子たちがいるのが見えたが邪魔になるだろうと思い、上の階に行くことにした。
「なんでマヤセンと水元まで来てんの…」
「スポーツマンのガチな動きって参考資料にちょうどいいと思って」
「なんか流れで」
 水元がいると女子の気が散るんじゃないだろうか。
 ただの待ち合わせについて来られるのはなかなかにむず痒い。
 最前列に座りバレーコートでプレイ中の薫ちゃんを見つけた。ちょうど彼女がサーブを打つところのようだ。
 コートのエンドラインから少し離れたところから高くボールを放ると、助走ののち彼女も高くジャンプし、ジャンプサーブを相手コートに打っていた。想像以上に早い打球は相手側の誰も触れることも出来ず、一点が入る。
 俺のイメージするサーブは下から打つ山なりのサーブか、上から打っても飛ばないタイプのどちらかだ。あまりの威力の高さに口が空いた。
「ひえ〜女子でもあんなサーブ飛んでくるの? 腕もげそう」
 正直マヤセンに同意である。ないと思いたいが薫ちゃんのビンタは喰らいたくない。
「全国常連校で、今でもあんなに上手いのに辞めちゃったんだよね銀木さん」
 水元が他観戦中の生徒から傍受した内容によると、彼女が混ざっている試合はこの大学のバレーサークルの試合らしい。プロのチームではないらしいが現役に混じって、素人目にも目立つ動きをしているというのはすごいことだ。
「あ、スパイク決めた」
 デートや普段でも彼女はよく笑ってくれるが、一点を取りチームメイトと喜びを分かち合う時の笑顔は、俺に見せてくれるものとはまた別種のものだ。
 ドンッ!
「うおっ」
「すみませーん!」
 薫ちゃんがサーブで打ったボールをレシーブしようとしたボールが俺たちの方に跳ね返り、手すりに当たった。
 ようやく俺たちに気がついた彼女は「ごめん!」というように両手を合わせて軽く頭を下げた。

 通常だったら三セットで一試合なのだが、欠員補充のために出ていたらしい薫ちゃんは、途中からやってきたメンバーと交代して観客席に上がってきた。
「お待たせ〜、もしかして四人で出かけるの?」
「いや参考資料にちょっと見たかっただけだよー」
「悪かったな急に来て」
「それは全然無問題。それよりさっきボール当たってなかった? 大丈夫?」
 俺が紹介したとはいえ、普通にこの二人とも仲良くなってんのは少し腑に落ちないところではある。
 いや、男同士の友情の方が危うい世界なのだから、男女の友情は逆に成立するのか?
 ボールには間一髪当たっていないというと彼女は安心したように肩を落とした。
「高校時代に試合を見に来てくれた小賀ちゃんの顔面に、ホームランサーブが当たったことを思い出したよ…」
 昔から本当に不運なんだなアイツ。
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