銀桂の薫りはあなたの気を惹く -Exhibition -


 重ねるように繋いでいた指先が緩み、隣に座っている彼女がうたた寝していることに気が付いた。
 秋のデートと言えば行楽地で食べ歩きである。今し方行ってきたのは楓や銀杏の木が沢山樹林している場所で紅葉狩りが有名な場所。
 花見は酒も飲めるし何度かした事があるが、紅葉狩りもなかなかに楽しめた。銀杏も勿論だが特に、楓の濃い赤は薫ちゃんによく似合っていた。背景に銀木犀が見えることからも分かるように彼女には秋の色が映える。
「…」
 視線だけを動かし彼女の横顔を覗く。
 長いまつ毛が下を向き、瞼は閉じられている。それだけなら目を瞑っているだけとも言えるが、微かに開いた唇が、うたた寝であると証明している。
 秋も深まり陽が落ちる時間も早まった。それを見越し今朝の出発時間はかなり早かった。そこに食べ歩きと長距離移動も加わり、トドメに電車の揺れが来れば寝てしまうのも当然である。実際俺もかなり眠気を感じている。
 ──ゴトン、ガタン
電車が大きく揺れる。すると眠っている彼女の頭が俺の方へ傾き、肩に乗った。それでも薫ちゃんは目覚めない。
 顔が見える角度が少し変わって、先ほどよりもよく見える。
 可愛い。本当に綺麗な寝顔をしている。夕日を浴びた彼女の柔な髪が透けて輝いて見えた。
 マイナーな場所を選んだのは正解だった。田舎のローカル線ということもあり、今いる車両には俺たちしかいない。この状況を噛み締め、例えキモい顔でデレデレしていても見られることはないのだ。いやここで彼女が起きたら寝顔をキモ顔で見てくる彼氏になってしまうので口角を必死に下げる。…駄目だ下がらん。
 諦めて、俺も少し頭を薫ちゃんの方へ傾けた。
 触れる髪のくすぐったさすら幸福に変わる。好きだ、愛おしい。
「ん、」
 秋にぴったりなマットに色づいた唇が微かに動く。
 目を開けるかと思ったが開かない。だが微かに緩んでいた指先に再び力が入った。
「薫ちゃん…?」
「……ん」
 微睡んでいる。
 名前を呼ぶと寝言のようにも思えるが微かに返事がある。覚醒間近ではあるようだ。
 だが目的の駅まではまだ暫くあるし、無理に起きてもらう必要はない。
 秋と夕日に染まった山の風景も一緒に見たかったがそれはまた来年にでも見に来たらいい。

 次はどこに行こうか。
21/92ページ
スキ