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銀桂の薫りはあなたの気を惹く -Exhibition -


 夏季休暇前の試験期に突入である。
 前期授業も終了するものが増えてきて、空きコマの間にチマチマと課題を済ませているのだが、近頃は大学に登校するだけでも暑さのせいで体力を消費する。だが家で課題をするのも気が散るし、カフェでの長時間居座るのも良くないので塩梅が大学で済ませる。これに尽きる。薫ちゃんにも会えるし。
 とは言っても、薫ちゃんは空きコマに図書館のバイトがあったりして長く居れるわけではない。
 ところで、この提出課題と試験勉強で忙しい中、全く別の戦いのせいで満身創痍な男がいる。
「……いつも思うんだよね。なんでもっと早くやっておかなかったんだって。思うのにさ…………」
 真山である。こいつはこの試験期の後にとある埋立地のビックな会場で同人誌を売るための原稿にも追われている。なのでこいつは今、大学では試験の課題と勉強。自宅では漫画の原稿と枚挙に暇がない。
 しかしまあこうなったのも真山の自業自得ではある。俺も自分の課題の進捗的には人のことを言える立場ではないが、真山ほどではない。
「……」
 テーブル席から見て本棚の奥で薫ちゃんがバイトに勤しんでいる。バイト終わりに合流する予定だが、薫ちゃんはどれぐらい終わったのだろうか。もう終わったとか流石に言わないよな。
「言うだろ」
「お前が言うとガチなるだろ」
 真面目に課題をしている風に見えて、実は全く進んでいない水元が俺の心の声を傍受して口を挟んできた。
 読心のせいで水元が言うと本当に薫ちゃんの心の声を聞いて終わったと言ってそうなのでやめろ。俺はまだ終わってないと思う、流石の薫ちゃんでも。まだ提出まで一週間あるし、課題も多いし。
 うわ。へっ、みたいな感じで片側の口角を上げて笑いやがった。うぜえ。
「この時期に大学のバイトに勤しんでる人間が提出ギリなわけないだろ」
 事実陳列罪だぞ。
 俺だって薫ちゃんはもうすでに終わってそう感あるけど。でも一緒に課題してる時間とか経験したいじゃん? お前には分かるまい。
「知るか」
「君たちさっきからうるさい」
 目がイってる真山に怒られた。怖い。
 周りに人がいて客観視して水元の独り言は聞かれていないので問題無い。


 *


 あれから約二時間が経過。俺たちは大人しく課題に勤しんでいた。
 時刻は20時。薫ちゃんのバイトが終わる時間。それとは打って変わり、他の学生はまばらになってきた。
「お待たせ。三人とも捗って…ないね、うん」
 死屍累々な俺たちの様子を、想定通りという感じでリアクションする。
 開けていた俺の隣に座った彼女は、ノートパソコンと授業で配布されたプリント取り出した。これだけでは課題は終わったのかは分からない。
「銀木はもう課題終わったのか?」
 俺よりも先に水元が質問した。
 俺より気になってんじゃねえか。やめとけ。墓穴を掘るだけだぞ。
「全部じゃないけど、殆ど終わったかな」
 撃沈。今回は俺より真山にクリーンヒット。瀕死の状態である。水元は絶句。俺は苦笑。
 やっぱり計画的に課題を終わらせることで定評ある薫ちゃん。すでに殆ど終わらせていたか。
「調べごとがあったし、図書館で勉強するなら丁度いいかなって」
 しかも、今日ここで集まることも予定に組み込んでいたとは。俺の密かな野望、潰える。
「今日はみんな、図書館が閉まる時間までいるの?」
「そのつもり」
 因みに、閉館時間は22時だ。
「遅いから薫ちゃんは先に帰ってもいいよ?」
「過保護。いや課題はともかく持ち込み可の試験用にまとめ作らないといけないから」
 偉すぎる。それこそ試験はまだ二週間先なのに。
 ほら見てみろ、薫ちゃんの正面に座っている真山なんて既に彼女の作ろうとしているまとめを欲しそうな顔で見ている。まだ作り始めてもいないというのに。
「銀木さん。そちらのまとめ、完成したらコピーをもらうことは可能でしょうか??」
 滅茶苦茶下手に出てくるレベル。
「いいよ。でも最後の手段にしてね」
「うす」
 薫ちゃんはよくいろんな人にノート見せてとか頼まれているし皆にそう返事をしている。因みに頼みにくる筆頭は小賀だ。あいつはそもそもまとめたノートを無くすか、データを入れたUSBを無くすので、薫ちゃんは諦めている。
「あと二時間がんばろー。テスト終わったら打ち上げの焼肉でしょ」
 おー、と拳を突き上げる薫ちゃんに、俺たちは弱々しく腕を上げるだけで精一杯だった。



おまけ

「私、明日も大学一日いるけどどうする?」
 限界課題デスマーチ後の帰り道、薫ちゃんの言葉にぽかんと口を開けた。
 試験日は週明けまで迫っている。俺も今日漸く課題を全て片付けたので残るは試験に向けた勉強とか、持ち込み可試験用のまとめぐらい。
「明日はバイト無いって言ってなかったっけ?」
「集中補講」
「あー……何限目?」
「三限目」
 昼明けか、滅茶苦茶面倒な時間だな。
「朝の涼しい時間帯に登校して、日が落ちるまで勉強しとこうかなって」
 40C°近い酷暑日で昼に移動するのを避けるためとはいえ、流石にそれは集中力お化けすぎないか。ずっと勉強するわけでは…いや、しそうだな薫ちゃんは。元スポーツ選手の集中力すごい。
「──くんが学生部に課題提出してる間に真山くんにも話したら来るって」
「行く」
 真山はどうでもいいが、薫ちゃんがいるなら行く。
「あいつは? 水元は?」
「水元くんは寝たいって」
 騒音野球部並みの隣人と下階の小賀がいる限り静かに寝るのは不可能だと思うが、まあ個人の意思を尊重すべきだな(適当)
「何時ぐらいまでいるつもり?」
「七時越えないと暗くならないから八時過ぎぐらいかな」
「じゃあ帰り、どこかに食べに行こ」
 薫ちゃんの目がきらりと輝く。何か食べたいものがあったようだ。
 繋いでいた手にギュッと力が籠った。そしてそのまま逆の腕で俺の腕に抱きついた。
「二人で?」
「二人で」
 薫ちゃんから笑い声が漏れる。
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