銀桂の薫りはあなたの気を惹く -Exhibition -
「──くんは、どんな服が好み?」
「んー」
唐突な質問に唸るしかなかった。
これはおそらく、俺の答えによっては後日のデートで着てもらえる可能性がある。
だが、正直これと言った好みは俺にはない。薫ちゃんは大抵何を着ても可愛いし似合っている。
「この前着てたモード系? はなかなか薫ちゃんの雰囲気に合ってて好き」
長身でスタイルの良い薫ちゃんに、中性的な雰囲気のあるモノトーン中心の明度低めのカラーはよく似合っていた。
「そう? ありがとう」
はにかみ。可愛い。
反応良さげ。
いつもデート時に着飾ってくれるわけだし、案出しぐらいいくらでも協力する所存だ。
「でも、少し雰囲気変えたいなと思ってて」
なるほどそう言うことか。普段と違う雰囲気を求めるなら、見せる相手に聞いてみるのは確かに一番手っ取り早い。だが俺だと答えはなんでも「可愛い。似合う。最高」で終わってしまう。
本腰を入れて考える。
普段の薫ちゃんの服装といえば、シンプルな詰襟系のシャツとか、無地のTシャツとか、とにかくシンプル。スカートよりはパンツ。
「じゃあ、逆に──くんが私にきてほしくない服は?」
「ヘソ出し」
「そ、即答…」
考える瞬間もなく、条件反射で出た言葉に薫ちゃんはとても驚いたようで、俺の勢いに僅かに頭を仰け反らし、目を見開いた。
ヘソ出し。最近の流行りなのか大学でもよく見かけるが、あれは胸が細やかな女性だからこそ「腹、冷えないか?」程度の感想で済むが、薫ちゃんのようなはっきりくっきりメリハリボディだと、誤解を恐れずに言って性的すぎる。真昼間に見て冷静でいられるものではないし、他人に見せたいものでもない。
「ヘソ出しは流石に着ないよ。丈感難しいし」
「良かった」
心の底から安心した。
いや、丈感が難しいってどういうこと? 気になりすぎる。
「いま、思考が服から胸に行ったでしょ。……えっち」
「いってないよー」
バレバレである。
正直行っている。滅茶苦茶行っている。
そして、顔を赤くして”えっち”と呟く薫ちゃんがえっち過ぎる。
…落ち着け、今は服の話だ。
だが、それにしても胸が大きすぎると服選びにも制約が生まれるというのは盲点だった。長所としか考えていなかったが、当人からして困ることもあるということか。しかし薫ちゃんは、俺が彼女の胸の豊かさの素晴らしさを力説する前は結構、身体のラインがわかるトップスを来ていることが多かった。
「お腹は出してないけど、前は結構ラインくっきり系の服が多かったよね?」
「太ってるように見えるんだよ……」
んー? あ? あー……言われてみれば?
カリカリに痩せてて胸が大きい子なんていない。胸があるということは人によるが、ある程度ふっくら系であると言える。女性は男より何倍も痩せて見えたいものだというし、胸をカバーするゆったり系の服を着れば当然上半身全体が隠れるため、シルエット的に太っているように見えると、そういうことか。
「──くんに言われて、確かに相手にどう思われるかも考えたら、性的に見られるか太ってるように見えるかだったら、後者かなって」
「ごめん」
「私も──くん以外に”そう”捉えられるのは嫌だから良いんだけど、結果的に服装が大抵似たようなのになってるんだよね」
ほぼ毎日会って、デートに行った時もまた同じ服だ…となったことがないので、相当上手くコーディネートしているように思う。ありがたい。
ふと、自分の今着ている服を見下ろした。よくあるメンズサイズの柄シャツ、下はジーンズのワイドパンツ。
「ショートパンツとか履かない?」
「最近は履いてはないけど、ミニ丈を履くことに躊躇いはないね」
さすが元バレーボール選手。ユニフォームと一緒にするのは失礼かもしれないが。
「ダボっとしたデカいTシャツに、ジーンズ生地のショートパンツを履いてみてください…」
「あぁ、彼シャツ? いいよ!」
閃いたように薫ちゃんはパチンと指を鳴らした。
彼シャツとは言ってない。いや、それをイメージして言ったけどさ。そんなノータイムで看破されることある?? そして良いんだ?
「じゃあ今度、お気に入りのシャツ貸してね」
満面の笑みでお願いされては、持ってこないわけがない。