銀桂の薫りはあなたの気を惹く -Exhibition -


「最近うっすら機嫌悪いね君」
「別に、悪くはねーよ」
「どうだか」
 マヤセン指摘されるとはそれが若干腹立つな。
 茶化すような真山は、隣にいる水元にも同意を求めて身体を左右に揺れしている。そうして肩がぶつかると水元はスマホから顔を上げた。
「良くはないな」
「でしょー。最近銀木さんが例の女史に構ってるからだよ絶対」
「女?」
「あれ、水元くん知らないの?」
「こいつからは例の女子とか抽象的な情報しか入ってこない」
「本当に銀木さんにしか興味ないんだね君ってやつは」
 良いことだろう。なんで引かれないといけないんだ。
 そうこの前薫ちゃんが高校からの友人である小賀に紹介したバイト先の女子。苗字は確か朝倉と言ったか。内外ともに”大人しい”という言葉が似合う素朴な印象だ。
「お前に素朴とか言われたくないだろそいつのこと知らねーけど」
「良い意味に決まってるだろイケメンは黙ってろ」
 よくてフツメン塩顔の俺が他人の容姿を悪くいう筋合いないのは当然なんだよクソボケ。イケメンは黙ってろ。
「二重で言うな」
「まあまあ、水元くんがクソボケイケメンなのは置いといてさ。彼は同性の友人に優先順位が脅かされそうになって不機嫌なんだよ」
 言語化されると器が小さい虚しい馬鹿馬鹿しいの三コンボでぐうの音も出ない。とはいえこれは死活問題なのだ。
 ここはBL漫画の世界。ボーイズなラブということはガールズなラブも成立するということなのだ。特に恋愛相談をしている間に相談相手に恋してしまうという流れは恋愛フラグにおいて典型的、テンプレ級である。
 特に薫ちゃんは甲斐甲斐しく世話を焼いてしまうタイプなので、小賀側の問題がひっくり返った瞬間に薫ちゃんへ矢印が向く可能性があった。
 前回に相談された時点では薫ちゃんもあくまで初手の出会いを手助けするだけだと思っていたし、そもそも二人がバイト先の同級生程度の関係性しかなかったので警戒が薄かったのだが、あれから二人は急激に仲良くなったのか休日に一緒に出かけたりしている。
「普通に仲良くなっただけだろ。あの銀木だぞ」
 水元の後方父親面もムカつくが一理あるのも確か。薫ちゃんは誰とでも仲良くなれるタイプだ。それこそこの顔が良いだけで追い回される未来永劫眉間の皺と目のくまが取れないであろう男とも分け隔てなく喋れる女子だし。
「銀木を褒めると毎回好き勝手こき下ろすのやめろ。お前のその思考回路どうかしてるぞ本当に」
「…! こき下ろすってエロい響きだよね」
「「黙れ真山」」
 俺ら二人ともに注意されて漸く真山が口を閉じた。漫画的表現でいう✖️の口である。
 大体、水元が薫ちゃん贔屓すぎるのだ。ただの友人のくせに。そうやって贔屓するから以前みたいに揉めるんだ。
「雑に扱ったらそれはそれでキレるだろ」
「当たり前だろそんな男、接触禁止は免れないぞ」
「水元くんに言っても無駄だよ。彼“女友達”いないから距離感解ってないし」
「黙れって言ったろ」
 水元が切れて真山はすぐさま口を手で塞ぐ。巫山戯ておちょくる言動の真山だが水元は図星のようだ。
「…で、誰だっけ」
「朝倉さんね」
 真山が先に答えた。確か真山は例の子と同じ講義を取っていて喋ったことがあるんだっけか。
「その朝倉と一緒にいるのはなんか問題になるのか」
 そう、話を戻さなければ。問題はその件の女子と薫ちゃんの距離感だ。端的に言えば当初の距離感からかなり外れて仲良くなっている。
「距離感が…おかしい気がする…」
「ほう? 例えば?」
 案の定、真山の方が食いついた。だからこいつらに喋らなかったんだよ。
「喋ってる距離感がやけに近い」
「声が小さかったり聞きづらいと近くなるのは普通でしょ」
「デートに着て行く服選びを一緒に行ったらしい」
「普通じゃない? 小賀くんの好みとか銀木さんなら知ってそうだし」
「帰りにカフェに行って」
「行くでしょ」
「お互いに頼んだケーキを分け合ったり」
「仲良いならあるね」
 真山はあくまで俺の言い分が過剰であるように返しているが、こいつは俺以上に分かっているはずだこの世界のことが。全てのことがBLに通ずるということは、俗的な言い方をすればこの世界そのものが恋愛脳ということだ。
「マヤセン、これを男二人に当てはめて率直に答えてみろ」
「えっそんなの付き合って…あっ」
 こいつは同じコマに映っただけで興奮し発狂するような男だ。些細なことすら付き合っている判定、あるいはBL判定してくるような人間だ。趣味嗜好に関して全く持って理解したくはないが真山の感性は世界の趣向を測るのに良い指標になる。その逆ご意見番の反応が”コレ”。つまり”そういうことだ”。
 薫ちゃん側が十割善意であっても件の女子の感情がどう転んでいくかまでは分からない。
「真山のカップリング判定のハードルが低すぎて引く」
 水元の言う通りだ。だがこのBL漫画の世界。実際にこの激低ハードルでカップル♂が成立しているのは事実。本当に厄介にも程がある。
「えぇ…と言うかさ、普通にちょっと口出したら良いんじゃない? 君ってば僕たちには塩だけど、銀木さんにはゲロ甘じゃん。言い方でどうにでもなるでしょ銀木さんだし」
 それができたら苦労せん。
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