銀桂の薫りはあなたの気を惹く -Exhibition -
少し暑い。
室内の電気を落とした夜更けのベッドの中。電気を消したのはもう数時間前で目はすっかり暗闇に慣れている。…いや、慣れているどころか、身体は疲れているのに脳は活性化したままで脱力感とは裏腹に寝つけそうにない。
隣で眠りについている薫ちゃんのベッドの中。いつも綺麗にしていていい匂いのする布団の中だが、今は少し汗の匂いがする。
真夜中に暗闇の中で恋人のベッドの中で行うことと言えばやることは一つ。そしてお互いに流した汗がまだ体温を下げきっていない。
「あつい?」
先に寝ついたと思っていた薫ちゃんが囁いた。少し輪郭のぼやけた言葉は眠いのではなく、俺と同じく“夜の運動”による脱力感によるものだろう。
「少し」
俺が答えると薫ちゃんはモゾモゾと動き始めた。
このベッドは掛け布団と毛布の二枚が使われている。薫ちゃんはそのうちの毛布をベッドに寝ている状態で引っ張っていき薫ちゃんのいる壁際へ寄せた。どうやら薫ちゃんも暑かったらしい。
「これでどう?」
「いいいかんじ」
「じゃあ私はこれを抱き枕にして寝るね」
え、それは話が違うだろう。せっかく同じベットでさっきまでイチャイチャしていたと言うのに寝付く瞬間まで想いを深めあったりとかさ。我ながら臭いこと言うけど。
「だめ」
そう言って抱きつくと薫ちゃんは「暑い」と不満を漏らした。
「暑いんでしょ」
「薫ちゃんの体温は別」
先ほどまでは興奮剤でしかなかった肌の滑らかさも今は安心材料である。
逃げる背中に頬擦りをして少し抱きしめる腕に力を込めると、薫ちゃんは逃げるのを止めてくれたものの、丸めた毛布を抱きしめるのは止めない。
「抱きしめるなら俺にしなって」
「さっきまで散々抱きしめてたよ」
「さっきはさっき、今はいま」
後にも先にも薫ちゃんに抱きしめられているのは俺がいい。ミーコとかだったらまだ許せるけど、それでも羨ましいが勝つ。
というか、なんで今日はこんなにも頑ななのだろう。さっきまでの間で何か気に触るようなことでもしたのか。それとも単に暑がっているだけか。
無言になった薫ちゃんを俺も無言で伺っていると、毛布に顔を埋めた状態で薫ちゃんがもごもごと喋る。
「この毛布、いま本人より──くんの匂いするし」
待ってそれは恥ずかしすぎる。確かに、さっきまで俺が薫ちゃんの上に乗っかっていた状態だし薫ちゃんの汗よりは俺の汗を吸っているだろうけど、それは汗の匂いを嗅いでいると言うことだろ。
「待って、勘弁して臭いって」
「くさくない、このままねる」
また言葉の輪郭が曖昧になっている。これは眠いからだろう。
待ってほしい、本当にその状態で寝るのは勘弁してくれ。
…ああもう余計寝れなくなった。