銀桂の薫りはあなたの気を惹く -Exhibition -


 BL漫画の世界には食べることに警戒が必要な難儀な食べ物というものが存在している。
 と言っても、人によってはそれは完全回避が可能で、俺も外で進んで食べようと思ったこともなく、機会もなかったのだが、恋人と友人と食事に来たいま、ふと思い出したのだ。
「……」
 俺の正面に座っている男のなんとも言えない仏頂面に刻まれた眉間の皺が濃くなり、食指が止まった。
「真山、もう少し綺麗に食え、こいつほど完璧にしろとは言わん」
「え、どういうこと??」
 マヤセンの好きなアニメがコラボしているということでスイーツパラダイスなるものにやってきた。スイーツのパラダイスという名前ではあるものの、コラボの一品メニュー以外は普通の食べ放題と言っていい。
 俺と真山が食べているのは、そのキャライメージの一品スイーツ「なんたらのなんとかシュークリーム」 ようはキャラの名前と必殺技? 由来の巨大シュークリーム。巨大なシューの中にぎっちりカスタードが詰まっていて意外と食いごたえがある。
「真山くん、口にカスタードついてる」
「どっち?」
「右」
 真山の正面に座っている薫ちゃんが指摘した。彼女に言われた通り口の右側の方を指で拭う。
 拭った後も水元の眉間の皺は改善されない。薫ちゃんは水元の方を見て首を傾げるし、真山も気が付いていないようだ。チラリと俺の方を見る。俺の顔…ではなく、俺の後ろの席だろう。
「薫ちゃんもうちょっとこっち寄れる?」
「?」
 疑問に思いながらも薫ちゃんは俺の方に席を少し動かしてくれた。
 俺ももう少し中心に寄る。角度的にこの位置で二人で塞げば真山は見えなくなるだろう。水元、これで大丈夫そうか?
「ん」
「え、本当に何。二人とも急に外でイチャついてどうしちゃったのさ」
 真山はまだ気が付いていないらしい。普段から現実でBLを求めているくせに自分へのフラグには気が付いていないのか。
「まあいいや。というかこれカスタード多いし、これでも綺麗に食べてる方だと思うんだけど、──くんが逆に綺麗すぎるんだよ」
「BLフラグになるから食べ方には注意してんの俺は」
「綺麗なのはいいことだね」
 薫ちゃんが微笑む。
「そりゃいいことだけど。こういうのは受けの口元についたクリームを攻めが拭って……あ゛、」
 真山が萌語りしている途中で気が付いたのか言葉を止めて声を上げる。いつもの自信と余裕たっぷりの表情が崩れる。
「……そういうこと?」
 隣にいる、”答えを聞いている”水元にとても小さい声で答えを求めると、水元は小さく頷いた。
「よかったなお前の好きなBLだぞ」
「よくない…」
「席変わる?」
 薫ちゃんの提案で、真山と薫ちゃんの席を入れ替えた。

「僕は自分が挟まるBLには興味ないし、そもそも普通に恋愛対象女の子なんだけど」
「真山は俺に謝罪して、薫ちゃんに近づくなよ」
「酷いなきみ、人の心とかないんか?」
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