銀桂の薫りはあなたの気を惹く -Exhibition -
「あ゛あ゛あ゛あ゛ああああ!!!!」
「う゛っるさっ」
「!?」
ソファーに座りスマホを触っていた真山が唐突に発狂し絶叫した。
実際の声と心の声でハウリングする水元は顔を歪め、突然の大声に驚いた薫ちゃんは肩をビクッと振るわせた。
「あ゛…あぁあ…あ゛ああ」
以前にもいたような状態になったところを見たが、その時とは違うようだ。前回は真山の中で付き合っていることになっている男二人が現実時間で二年ぶりに会話した衝撃だったのだが、今回は叫んだ後にスマホを足の上に落とし頭を抱え唸っている。
今はパソコンを使ったことはしていないし、となるとついに本人が壊れたか。
「水元、マヤセンなんだって?」
「……? いや、分からん。脳がどうとか、ファイナルファンタジーがどうとかって」
「FF?」
なぜ唐突にRPGゲームの話に。真山ってそんなにFF好きだっけ。
真山の使っている単語ってSNSの凝縮された語彙すぎて分からないことが結構あるんだよな。BL漫画を読んでいるとバレた時にオタクだと思われたが、俺はあくまでフラグの参考にしているだけでオタクではないし、独特な語彙もそんなに知らない。ミームとかなら多少分かるが。
「こんな思いをするなら花や草に生まれたかった」
「ど、どうしたマジで」
唐突な草花願望のあと、真山は重たい口を再び開く。
「最終回で推しカプの片割れが女性と結婚して子供と手を繋いでる…」
「……お、おめでとう」
「お゛め゛でどう゛じゃな゛い゛」
顔を上げた真山は顔面の穴という穴から液体を垂れ流していた。泣くのはともなく鼻水は汚い。
とは言ってもな。真山がいま読んでいた漫画はBLとかではない少年誌連載のごく一般的な漫画なわけだし、逆に真山の推しカプがどうこうなるわけが元からない。
「ファイナルファンタジーとかしないと思ってたのにしかもなんでヒロインですらないんだよマジでさああああ!!」
真山の情緒は落ち続けるジェットコースターである。顔面ぐちゃぐちゃな様子を見かねた薫ちゃんがテーブルから箱ティッシュを取ってきてこいつに渡す。
「ファイナルファンタジーって何?」
おそらく俺らが知っている意味とは違う意味で使われているであろうことを薫ちゃんが聞く。
「……最終回発情期。最終回付近になって公式カップリングが乱立すること」
あぁ…少年誌とかよくあるやつね。そんな通称あるのかあの現象。
「意外だな。お前、そういうの気にせずカップリング? にしてるのかと思った」
水元の言い分には正直同意だ。真山が好んでいるカップリングは俗に言うライバル関係とか犬猿の仲とか、対局にいる二人のケンカップルを主食としている。そういう二人の出てくる少年漫画なんかは、真山のいま言う現象に当て嵌まりやすいだろうし、同人歴の長い真山は気にしていないと思っていた。
「はは…同じコマに描かれただけでカップリングにするオタクの気持ちはパンピーには分からないさ。知らないだろ、既婚者同士のBLを描いたら『なんで二人が付き合ってるんですか妻帯者ですよね』ってマロとか波とかリプで言われる僕の気持ち」
疑問で理解不能だわ。今後知りたいとも思わん。倫理観とかないのか?
「はあ……少年誌でヒロイン以外の女子も多い作品だし、こうなるって分かってたのに……」
BL怪人、悲しみに暮れる。そしてティッシュで鼻をかむ。