銀桂の薫りはあなたの気を惹く -Exhibition -
「…お前ら、ちょっと付き合え」
珍しいこともあるもんだと、真山と第一声が被った。
水元発案で飲み会発生などほぼないと言っていい。しかもテレパシー能力の関係で基本的に真山宅での飲みじゃないと乗り気じゃないことがほとんどだ。
「ダーツバーだね」
「ダーツバーだな」
店前の少し古ぼけたネオン管の看板を見て俺と薫ちゃんの言葉がハウった。
面白そうとマヤセンが先陣切って店内に入っていくので俺らもそれに続く。
店内はそこまで広くない。少し暗めでダーツマシンの照明が雰囲気を作っている。客も、今しがた入ってきた俺たちしかいないようだ。
「水元くんってダーツ好きだっけ?」
「最近、学科のグループで流行ってんのか話題に出るから気になった」
話題とは言いつつも水元のことなので、口に出ている噂ではなく、ダーツバーにいった学生の追憶を聞いて…ということだろう。俺も以前飲み会メンバーで別のダーツバーに言ったことがあるが確かに面白かった。
「へえいいじゃん。薫ちゃんはダーツやったことある?」
「ないよ。ルールも知らないや」
「じゃあ俺が教えてあげる」
「やったあ」
スポーツとか課題とか俺が教えてもらうことが多いから、俺が教える側になるというのは新鮮だ。
「僕らには教えてくんないのー?」
「勝手に調べろ」
というかマヤセンはルール知ってるだろ、前にラウン⚪︎ワンでダーツしたって聞いたことあるぞ。
「センターの方が点数低いんだ。意外」
「トリプルの方が面積狭いらしいよ」
「へ〜」
軽く点数の取り方については説明は終えた。
ボードに書かれた1から20までの数字がそのまま点数で、外側の赤青の円が点数が倍になるダブル。内側の円が三倍になるトリプル。そして薫ちゃんのいうセンター、いわゆるブルが50点。
「ねえ、ただダーツしながら飲むのも味気ないし、ゲームで最低得点の人はテキーラショット一杯ね」
「なんでこのメンツでバカみたいな飲み方なんだよ」
酒呑はじめの大学生はもう時期的に卒業だろ。
「このメンバーだからだよ! 水元くんは大勢で飲みたがらないし、きみだって自制するでしょ? 銀木さんは大丈夫?」
「私は良いよ」
まあ…薫ちゃんが良いなら俺も良いけど。というかこれは贔屓目から来る直感だが、薫ちゃんが負けることはないと思う。
「じゃあやろう。8ラウンドは多いから3ラウンドで一区切りね」
マヤセンの提案でまずジャンケンで順番を決めて1ラウンドで三本ずつ投げていくことになった。
「ちぇえ、このメンツだったら勝てると思ったのになあ…」
第一ラウンドはマヤセンが最低点数。一位は俺で二位は薫ちゃん。三位の水元との点差はそんなにないので、まあ運だと思うのでこれは仕方ない。
真山は自分で作ったルールに苦しめられ、ショットのテキーラをライムと共に呷る。
「くぅ〜テキーラ久しぶりだ、喉に来る」
自分が久しぶりなものを罰ゲームに組み込むなよ。
「てかさ…きみがダーツ投げてる姿写真撮っていい? 漫画の参考にしたい」
「絶対嫌だ」
「ここの代金払うよ?」
「…………い、いいやめとく」
「ッチ」
危なかった。タダ飯に釣られて負けてしまうところだった。マヤセンに貸しを作りすぎるといつどデカい見返りを求められるか分かったものじゃないからな。
それに写真を撮るなら薫ちゃんとか、水元の方が良いんじゃないか。水元は単にBL世界の美形で写真映えするし。薫ちゃんはダーツを持って構える面構えが初心者とは思えない雰囲気を放っている。とはいえ薫ちゃんの写真はやっぱり撮るな。水元だけ撮ってろ。
「おい、早く次のワンセットやるぞ」
水元はあんまり点伸びないくせにすげーノリノリで楽しそうなんだよな。そんなにダーツしたかったのか。
二回戦目、敗者水元。塩を大量に舐めつつテキーラショットを一杯。
三回戦目、敗者真山。ライムとレモンのコンボ。
四回戦目……
「待って……流石に点の開きがやばい。座って良い?」
四回目の途中、真山が静止して、一旦ダーツは終了になった。終了というか俺と薫ちゃんは引き続き投げ続ける。
真山はショット二杯目の後から一気に酔いが回ってきたのかそもそもボード外が増えて点数どころではなくなってしまった。水元も3セット遊べて満足らしい。
薫ちゃんに関しては、完全にコツを掴んでいる。結構な確率でダブルやトリプルに当たっている。
ダーツを投げた時の安定感というか、ダーツを投げる時は紙飛行機のように肘を動かさないようにして投げるのだが、それが妙にうまい。バレーってボールを持たない球技だから勝手とかは全然違うはずなんだが、やはり身体を動かすセンスが違う。最初の直感通りだった。
「普通にテキーラ飲みたくなってきたから頼もうかな」
四戦目、勝ったのは薫ちゃん。罰ゲームは無しで、俺と薫ちゃんは普通に飲みたくなってテキーラショットを注文。まあそんな何杯も飲むものではないのは確かだな。
「だれか〜タクシー呼んでぇ〜」
酒焼けどころがすでに枯れた声の真山の呻き声でダーツバーの会はお開きとなった。