銀桂の薫りはあなたの気を惹く -Exhibition -


「いた、コガちゃん」
「あっ薫だ! どうした?」
 飲み会いつメンと小賀と喋っているところに薫ちゃんがやってきた。
 小賀に声をかけつつも、俺に視線を向けて笑顔で手を振ってくれたので俺も振り返す。小賀も俺を指さして「こっちじゃなくて俺?」と聞き返す。
 すると薫ちゃんはカバンからメンズ向けのシンプルな財布一つと、百均で売ってそうな古銭入れを二つ取り出した。
「財布落としすぎ」
「わー! 俺の財布! 薫が拾ってくれたの?」
「同じ学部の子がね、財布は私が拾ったけど。中身大丈夫か確認してね」
「ありがとう〜命の恩人!」
 前にも何回も落としたとか聞いたことがあるが、不運を通り越してアホだろ。いい加減学習しろ。
「よかったな。じゃあ昼飯代返せ」
「ごめん助かった!」
 滝本に金を借りて昼食を食べたらしく、小銭入れから750円を取り出した。
「というかなんで複数に分けてんの?」
「一個無くした時の保険」
 全部落としたら保険の意味ないな。もう中学生みたいにチェーンつけとけ。
「落とした時にわかるようにって言ったのは私だけど、連絡先入れるのはやめた方がいいよ。ただでさえストーカーとかいるんだから」
「うん…」
「落下防止タグ入れたらしいじゃん」
「俺にそんな金がどこに」
 言えてる。
「取り敢えず渡したからね。気をつけて」
「本当にありがとう薫」
「もう慣れた……」
「うっ」
 薫ちゃんの慈愛に満ちた笑顔を正面から受けやがって。いや、十割慈愛ではないけど流石の薫ちゃんでも少し呆れが垣間見えるけど、でもいいなあ、あそこまで対応に慣れきった雰囲気とか俺らにはない。恋愛感情がないからというのもあるのかもしれないが。
「コガちゃんあとね、講師の人に探されてたよ比嘉って先生」
「あ゛っ! やば遅刻多くて呼び出されてるんだった、じゃ俺行くわ!!」
 荷物を乱雑に詰め込み掛けていく。本当に台風みたいなやつだ。
 あ、ペンケース忘れてる。
「コガちゃん財布!」
 財布も一つ薫ちゃんの手の中に残ったまま。というかすでに小賀の姿が見えなくなった。足はや。
 ヤツを追って駆け出そうとする薫ちゃんを呼び止める。
「薫ちゃん!」
 振り向いた彼女に向かって緩く大く放物線を描くようにコガのペンケースを投げ渡す。それを片手で受け取った薫ちゃんは「──くんまたあとで〜!」と声を上げながら走っていった。というか薫ちゃんも滅茶苦茶足速いな。
「銀木って元陸上部だっけ?」
「バレー」
「足はっや」
「運動で勝てる要素ない」
「誇らしげにいうことじゃないだろ」
 俺の彼女すげー自慢は必要だぞ。
103/118ページ
スキ