銀桂の薫りはあなたの気を惹く -Exhibition -
「あ、おかえり」
彼は私のベッドで、私の帰りを待っていた。
と言ってもお風呂からだけど。
「…もはや家主」
「いやいやそんな、薫ちゃんのためにベッド温めといただけですよ」
「天下人か」
彼とは先ほどまで一緒にお風呂に入っていて、彼の方が先に上がったので部屋に行くように伝えていた。
今日はすぐ寝る予定だったということもって彼も、ベッドに入って今にも寝そうな体勢。
けれど、まだベッドには入らない。
「薫ちゃ〜ん」
「まだだよ」
掛け布団を持ち上げて、自分の隣にくるように促し準備万端な彼をに「まだ」というと、彼は持ち上げた腕を下ろして露骨にシュンとする。
二人きりだと本当に表情豊か。外での「無」としか表しようのない表情とかも、彼らしくて素敵だけど。
「もうちょっと待ってね」
「うん待つ」
手に持っていたスマホを置いて、私を見つめるだけで何もせず、ただ待っている。寝ることに真剣すぎる。眠いのかも?
本当に寝る準備はすぐに終わって、五分もせずにまた自室に戻ってきた。
彼はちゃんと起きている。スマホを見るわけでもなく、開けたドアの方に視線が向いていて、部屋に入ろうとすると目が合った。
「ずっとそのまま待ってたの?」
「そうだけど」
「眠いんじゃないの?」
「薫ちゃんを待ってただけだよ」
悪いわけじゃないけど、彼はたまに妙なこだわりを持っている。
けど私と一緒に過ごす時間であるということはなんとなく理解している。
彼はまた、先ほどと同じように片腕で掛け布団を持ち上げて、私を隣にくるように誘導する。
「おいで」
蕩けそうなほど優しい声色で呼ばれる。
呼ばれたまま、促されるままにベッドに入り込む。
彼がいう通り本来なら入りたては冷たいはずのベッドの中は彼の体温で暖かくなっていた。隣に寝そべるとそっと掛け布団をかけられ、私の方に身体を向けている彼の腕がそのまま私を包むように軽く抱きしめる。
「暖かい…」
「加減はいかが?」
「……よく寝れそう」
「それはよかった」
彼の体温と柔らかい布団のダブルアタックに抗う術はない。
先ほどまでちゃんと空いていたはずの瞼がみるみる重たくなってくる。
「おやすみ」
彼の大きくて暖かい手が私の頬を撫でていると思った、そこから眠りに落ちて「おやすみ」の返事が半分溶けてしまった。
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