銀桂の薫りはあなたの気を惹く -Exhibition -


「はくしゅんッ」
 デート中、薫ちゃんがくしゃみをした。
 今日は基本的に暖かい日ではあるが時々強い突風が吹き、彼女の髪や薄手のコートを靡かせる。
「寒い? 大丈夫?」
「んー、大丈夫だよ」
 素早くハンカチで口を押さえていた薫ちゃんが、口元を隠しながら俺を見上げる。
「これ、羽織って。風邪引くから」
「──くんの方が風邪引くと思うんだけど……」
 俺は自分が羽織っていた上着を薫ちゃんの肩に掛ける。ショート丈の上着なので防寒としては弱いが風は通しにくい素材なので十分暖かいだろう。
「薫ちゃんが風邪引いちゃうよりはいいよ。最近はお兄さんもいない時が多いでしょ」
 彼女のお兄さんは仕事が多忙なので家にいないことが多い。仕事でなくてもつがいの幼馴染の家にいることが最近は増えているらしい。薫ちゃんは、実は結構寂しがりやで、風邪の時はそれが顕著になる様。なので心身ともに健やかにいてほしいので、俺が多少冷えるよりは薫ちゃんに温かくいてほしい。
「ありがとう。ホットドリンク奢るよ。何がいい?」
「じゃー…あのホットワインで」
 目の前に見えたカフェのメニューを指さすと、ここでも酒なのかと軽く揶揄うように笑われてしまった。

 夜。夕食も外で終えて、明日は大学もあるので薫ちゃんをマンションまで送り届けた。
「今日も送ってくれてありがとう。デートも楽しかったよ」
「それは良かった」
 オートロックの出入り口前で最後に言葉を交わす。
 繋いでいる手を離すのが名残惜しく思っていると、薫ちゃんもそうなのか手を繋いだまま、腕をブンブンと振っている。
 と言ってもずっとここで喋っているわけにもいかない。防犯カメラなどもあって守衛に見られているかもしれない。
「上着も返すね。本当に風邪引かないで」
「うん、気をつける」
 薫ちゃんに貸していた上着も返してもらい羽織り直す。
 袖に腕を通し、首元を整えていると薫ちゃんの香りが鼻をくすぐってくる。彼女と抱きしめたり同衾した時と同じ香り。
「返ったら連絡する。またね」
「うん、またね。気をつけて」
 マンション内に入って行き、薫ちゃんが見えなくなったところまで背中を見つめた。
 踵を返し、俺も帰路に着く。
「…………」
 駄目だと思いつつ、家に着くまでに何度も故意的に上着の襟元に鼻を近づけて残り香を嗅いでしまった。
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