銀桂の薫りはあなたの気を惹く -Exhibition -
ぐだぐだと、薫ちゃん宅のソファーで各々好きなことをして過ごしていた。
「すれ違いラブコメってなんで最終的に壁ドンでシメるのかな」
「唐突……あと、薫ちゃんの発音だと”カタ”をつける方のシメになってる」
真山に教えてもらった漫画を電子書籍で読んでいた薫ちゃんが唐突な疑問を投げかけた。
親指で首を切るジェスチャーをする俺を見て、「間違いじゃない」と返事をする。まあ確かに間違いではないが。
紹介される漫画も真山趣味の真山セレクトなので系統が似ているというのが、薫ちゃんの所感である。ちなみに俺らが連むようになる前に真山の商業作品を数作読んでいるので俺も大体把握している。真山はケンカップルが好きだ。
「普通の少女漫画でもBLでも結構あるシチュだけど、実際の女子はあんまり壁ドン好きじゃないらしいね」
「”好きな人に限る”だからねこういうの全般」
身も蓋もない。だが真理である。
女子なんて男よりも小さいことの方が多いのだから、体格でまず勝てない相手に壁際に追い詰められたら恐怖しかない。俺でも怖い。
「少女漫画だから大抵意中の相手かライバル枠だし、キュンだけで終わるけど。逆にここで”この人怖い”って思考になったらドキドキで作品のファンになるかも」
見るところが恋愛漫画に向いて無さすぎるが、正直わかる。かなりわかる。
俺も参考書として壁ドンがある作品はいくつも読んできたが、あれで『うわこいつかっこいい好き。しかも睫毛なげぇ』とはならん。
「……でも正直興味はある」
薫ちゃんは腕を組み、神妙な顔で唸る。俺は元々小さい目がもっと点になった。
「あるんだ」
「”好きな人に限る”だからね」
好奇心旺盛だもんな薫ちゃんは。
「とはいえ、──くんの性格じゃしないとも思う」
「ありがとう?」
強引というか、合意のないことはしないという信頼を得ているようで安心した。
確認と同意があれば良いということになるのでは。
「挑戦してみる?」
「アリ。やってみてよ」
薫ちゃんはノリノリで了承した。顔のパーツが全力で面白そうと表現している。
早速、壁へ向かおうと立ち上がる薫ちゃんの肩を掴んで静止する。
「?」
みるからに頭上に疑問符を浮かべる彼女へ身を乗り出した。肩をソファーの背凭れに押し付け、もう片手を背凭れに付き、逃げられないように薫ちゃんを跨ぐようにソファーに足をあげる。
ずいと顔を近づけ上から見下ろす。あ、上目遣い可愛い。
もっとじわじわと顔を近づけていくと、無表情の上目遣いにだんだん感情が乗って、頬が赤く染まっていく。
「……!」
何かを口にしようとして開いたところを狙ってキスをする。
肩だけでなく背中全体をソファーに押し付けるように俺も薫ちゃんに密着して押す。ソファーのスプリングと合皮が軋む音が新鮮だ。
驚いて行き場所を失っていた薫ちゃんの腕が俺の背中に回って抱きしめられる。そうしてからは順応してしまったのかいつも通りのキスになってしまったので、少し舌を絡めてキスを楽しんでから離れた。
「……最後、いつも通りだったよね」
「薫ちゃんの順応が早すぎるだけだよ」
「そんなこと、ない」
と言いつつ、俺の肩に顔を埋める。
「やっぱり”好きな人に限る”でしょ……」
「検証の意味」
分かりきった検証結果だった。だが敢えて結果を出すというのも悪くはないな。
「あと──くんは強引にも向いてない」
「俺が薫ちゃんに強引が出来ると思う?」
シラクじゃなくてもあれが精一杯だぞ本気で。
そのままでいて、と再び抱きしめられたので抱きしめ返した。
延長戦
「私もやってみたい」
「はい??」
薫ちゃんを理解していれば予想は出来た言葉だが、実際に言われるとやはり驚くものだ。
抱きしめていた身体が一度離れ、ソファーから立ち上がる。
俺を座らせ、正面を向かせると薫ちゃんは俺を跨ぐようにソファーに膝立ちになって俺を見下ろした。両肩を掴まれて背中が背凭れにピッタリとくっつく。
「……」
見下ろされるのはそうない。薫ちゃんが下を見ることで彼女の髪が垂れて俺の顔に当たってくすぐったい。
羞恥心とかは一切なく、真面目に検証中の薫ちゃんの眼差しは真剣そのものだ。キリッと釣り上がった目尻と瞳を縁取るまつ毛の存在感たるや。
「どう?」
どうと言われても。
顔が近付いて息遣いにドキドキする距離感だとか、良い香りがするとか、距離が近付いて圧倒的質量の胸が当たってるとか。色々あるが、己が相手にするのと、相手にされるのでは全くの別物だ。
とは言っても、やはり薫ちゃんと同じ答えに帰結する。
「…薫ちゃんだから照れるだけじゃんやっぱり」
「やっぱり?」
以上、検証終了。
薫ちゃんは本当に満足したのか、俺の肩から手を離すと、ソファーに座っている俺に対して横を向き、肘置きを背凭れ代わりにして俺の膝の上に座った。
これは完全に飼い主の膝の上でくつろぐ猫では?
猫相手のように頭や頬を撫でると、一瞥されたあと撫でていた手を止めるように薫ちゃんの手が絡みついてきた。器用に指先を使い、俺の指で手遊びしながら漫画を読んでいる。
あ、これ猫と遊んでいるつもりが、実は遊んでもらっているやつだこれ。正直好き。