このサイトは1ヶ月 (30日) 以上ログインされていません。 サイト管理者の方はこちらからログインすると、この広告を消すことができます。

短編集

「アルシア……?」
「はい、なんでしょう」
 魔法舎にて、城から迎えに来たアルシアの姿にアーサーは困惑を隠せなかった。
 普段は服装に一寸の狂いもなく、その清廉さを象徴したような白いサーコートに埃すらついていないと言うのに、今日会う彼女は少し服が汚れていて、いつもは髪の後部を結い上げているのも、今日は降ろしている。
 全てを結い上げているわけではないので、長い髪を揺らして歩く姿は毎日見ているのだが、真っ直ぐな髪が少し乱れているのはアーサーの中にあるどうしようもない感情を刺激する。
「どうかしたのか?」
 だと言うのに、当人は何もないように振る舞っているので、アーサーは逆に心配してしまう。
「少し…」
「ああ」
「他の騎士と手合わせをしていたのですが、熱が入り、時間に遅れそうになったので、急いで。遅くなるよりは良いかと」
 見苦しい姿を見せてしまい申し訳ありません、とアルシアは深々と頭を下げる。
 アルシアが言うのだから他意も嘘もないと、アーサーは分かっている。彼女が自分に嘘をついたことは一度も無いと自負している。だけれど、だけれど。どうしようもない想像をしてしまう。
「すまない、余計な心配かもしれないが、少し……戸惑ってしまう」
「申し訳ありません」
 今度は頭を下げるだけでは収まらず、膝を付いた。「やはり……」とアーサーは気を落とす。自身が彼女へ送る心配の意味も毛ほども伝わっていない。
 なんとか、彼女を立たせ「怒っている訳ではない」と言い聞かせ、城へと戻るため箒に乗った。
 城で誰かに会う前に直してもらわなければと、箒を飛ばしながらアーサーは思う。
2/18ページ
スキ