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短編集

「好きな人が出来たの!」
 もう数えるのもやめたこの言葉にいい加減に吐きそうになる。
「どうせ振られんだろ」
「失敬な。今度は行ける…はず!」
 何年経っても、成長しても、俺たちの距離が近づく事はないし、これ以上離れることもないかもしれない。
 だが、何度も何度も絶対にあるわけがない希望を持って、好きな奴と付き合えると思ってるこのバカ女を、どうしてでも手に入れたいと思っている自分にも反吐が出る。
「真も彼女とか要らないの?」
「ふはっ、俺に合う女がいると思ってんの?」
「相変わらずのゲス」
 ゲスと言う癖に、バスケでのことも知ってる癖に、お前が離れないから、勘違いしそうになるんだよ。
「彼氏欲しいなあ」
 ずっと近くにいるのに俺を絶対に選択肢に入れないバカ女。どれだけ歩み寄ったって、優しくしたって俺を好きにはならない。そんなことは当の昔に理解したし、受け入れている。
 学校の帰り道。隣人で、ガキの頃から一緒で、今は帰っても家にメシの無い俺のために一緒に夕飯を作ろうとスーパーに寄った帰り。部活の練習が終わるまでずっと教室で待っていたこの女。
 肩が触れそうで触れない距離感。これが当たり前だから他の男が寄って来ないんだよ。俺が寄せ付ける訳がないだろ。
「すっごい真面目で、正義感が強くて、私が電車で痴漢された時に助けてくれたの」
 俺だってそれを聞いて「大丈夫だったか」って心配した。その場にいたら絶対に助けた。でもお前は俺を好きにはならないんだよ。何でだよ。
 コイツの好みはいつだって「いい子ちゃん」だ。真面目で正義感が強くて、不正や暴力、理不尽を嫌う。そんな虫唾が走るようなイイ奴。そのくせ、俺のような奴にだって寛容的だから腹が立つ。
「……琉」
「なぁに、真」
 名前を呼べば何度だってコイツは返事をする。クラスの奴と話している時も、好きな男と話している時でも。いつだって俺をまっすぐ見て、色眼鏡なんて無しに、本当の俺を見ている。
「もし、俺に好きな女がいたらどうする」
「えっ、いるの⁉︎ 全然応援する! あ、でも、付き合ったら一緒に帰れないしご飯も食べれないね」
「いるわけねえだろ、馬鹿」
 本当にイライラする。
「ほんとぉ? でも真は、結構優しいし、大丈夫だと思うよ」
 俺がいつ、お前相手以外に優しくしたんだよ、いい加減にしろ。全く大丈夫じゃねえんだよ。
 優しいとは言っても、お前の好みの男には一生なれないんだよ俺は。
 向けられる笑みが、仕草が、声が全部可愛いとか思えるぐらいには、自分でも理解できるぐらいには拗れて来てるのに、お前は全く理解しない。そう言うところに嫌いになる要因を見出しても釣り合わない。
 自分に彼氏が出来ない原因に俺がいることに全く気がついていないどころか、そんな俺に優しいなんで言うバカ。
 どんなに好きか全く察せられないバカ女。
「頑張って! 応援する!!」
「もしの話だって言ってんだろ」
 どれだけ頑張らせるつもりだ。好きな女に応援される俺の身にもなれよ。頑張れねぇよ。
 鼓舞するように俺の腕に触って、いや叩いて、笑う琉。
 それだけでも、嫌になるぐらい心臓が煩いのに、自分を滅茶苦茶にしてやりたいと劣情を持つ男を応援出来るなんて、とことんバカだ。
「琉、」
「んー?」
「お前だよ」
 そんな一言すら言えなくて、何年も拗らせてる俺の方がバカなのか。
 また振られて、今度こそ俺を好きになるんじゃないかって、絶対にあるわけない希望に期待している俺がいるのも否めない。
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