短編集
空から冷たい水の中へ落ちる、位置が高すぎたのか、多少なら衝撃を柔らげる水面も、今は岩石のよりも硬い。骨が砕けていても可笑しくないほどの痛みのあと、僕は深く暗い水の中へと沈んでいく。足や手をバタつかせてなんとか浮上を試みても、それは悪手でしかなく、とても月光が指す方へはいけそうにない。
口から息が漏れ、泡だけが僕とは対照的に上へ上へと昇っていく。手を伸ばしても届かず、手にした水は不定形にすり抜けていった。
このまま湖の中で溺れて石になるのも悪くはないと、思い抵抗をやめて、息が苦しく無くなるのを待ち始めたとき、
「何してるんですか」
ずるりと水の中から救い出された。数秒ぶりの空気に必死になって呼吸をする。僕をあの世の入り口から救い出したミスラはいつものように素知らぬ顔をして僕を見る。けれど、腕を掴んでくる力はびっくりするほど強い。
質問に対して「考えことをしてたら箒から落ちた」と答えたら「バカなんですか」と返された。確かに我ながらどうしようもない羞恥を晒したと思っている。でも、バカと言われたのが癪で素直に言葉が出てこない。黙ってただ息を整える僕を穴が開きそうなほどに凝視してくるミスラ。
いつもと変わらない声、けれど、いつもは僕を流し見るその目が、いつもとは確実に違う気がする。その明確な違いに、僕は適切な名前を当てはめられない。
口から息が漏れ、泡だけが僕とは対照的に上へ上へと昇っていく。手を伸ばしても届かず、手にした水は不定形にすり抜けていった。
このまま湖の中で溺れて石になるのも悪くはないと、思い抵抗をやめて、息が苦しく無くなるのを待ち始めたとき、
「何してるんですか」
ずるりと水の中から救い出された。数秒ぶりの空気に必死になって呼吸をする。僕をあの世の入り口から救い出したミスラはいつものように素知らぬ顔をして僕を見る。けれど、腕を掴んでくる力はびっくりするほど強い。
質問に対して「考えことをしてたら箒から落ちた」と答えたら「バカなんですか」と返された。確かに我ながらどうしようもない羞恥を晒したと思っている。でも、バカと言われたのが癪で素直に言葉が出てこない。黙ってただ息を整える僕を穴が開きそうなほどに凝視してくるミスラ。
いつもと変わらない声、けれど、いつもは僕を流し見るその目が、いつもとは確実に違う気がする。その明確な違いに、僕は適切な名前を当てはめられない。
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