窓を閉めた。
名前変換
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「サッチさん、今日は作業部屋に篭もりますが、買い出しは一緒に行きたいので、いつもどおり声掛けてくださいね」
「おう、わかった。
……作業部屋?」
「あれ、言ってませんでしたっけ?わたし、絵を描いてご飯を食べてるんです」
なんだそれ、初耳だってんだよ。
なまえの言う作業部屋は、リビングの横にあった。
なぜ今まで気づかなかったのかと自分に問いたいが、こっち来てからずっとなまえがその部屋に入る素振りも無かったので、気づかないのも仕方なかったのかもな。
他人の家——それも世話になっている——を好き勝手回る趣味はねェし。
「どーぞ。画材とか絵以外は何も無いですけど」
「オジャマシマス」
なまえに続いて部屋に入ると、これは絵の具、だろうか。わからないが、きっと絵を描くさいに使用されるであろうもの独特のにおい。
壁には飾ってあったり、無造作に立てかけられただけの絵が点在している。
中心にはキャンバスが立てられ、その前になまえが立ち止まる。
朝の光が部屋を照らして、開いた窓から入る風がこちりを振り返ったなまえのやわらかな髪をさらっていった。
「サッチさん?」
声を掛けられ、我に返る。
気づけばおれは、なまえに中途半端に手を伸ばしていた。
「どうかしましたか?」
「なんでも、ねェ……」
どこか神聖さをはらんだ空間を前に、おどけた言葉も出せないまま曖昧に濁す。
「あのよ、描いてるとこ、見ててもいいか?
邪魔にならないように、隅にいるから」
「それは全然、構いませんが……面白くないですよ」
「いーの。なまえちゃんの仕事ぶりに興味あるから」
なまえはほんとに面白くないですよ、と念をおしてから座布団を引っ張り出してくれる。
「汚れるといけないので、窓際に座っててください」
「はいよ、サンキューな」
「どういたしまして」
それからなまえはいそいそと準備をすると椅子に腰掛け、ふと真剣な表情になって筆をとった。
最初は簡単に線が引かれていたキャンバスに、少しずつ色がのって、色ののった箇所が現実のように浮いてくる様は、そういったことに興味の無いおれでも完成に思いを馳せるくらいには面白くて。
なまえの手が止まったタイミングで声をかける。
「なー、聞いてもいい?」
「どうぞ」
「風景ばっかだけど、人は描かないのか?」
「ん、あんまり、人を描くのは得意じゃないです。
風景は、生きた絵になると自負していますが、人を描いてもそうはならなくて。
たぶん、」
なまえは一旦言葉を止めると、おれを見て自嘲気味に笑った。
「興味が無いから」
そうこぼしたなまえは、どこか寂しそうで。おれはまた中途半端に伸ばした手を、今度はバレないように、そっとおろした。
——その日のきみは少し遠くて。——
「今度おれのこと描いてって言ったらイヤ?」
「練習台にしちゃいますよ」
「お、イイぜ!いっぱい描いてくれ!」
(おれにはちょっと、興味をもってくれるだろうか、なんて。)