窓を閉めた。
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この世界におれが来てから、七日が経った。
初日からとくに一悶着あるでもなく、実にスムーズにおれの居候が決定した。
お嬢ちゃんの名前はなまえ。
たいへんスンナリとおれの話を受け入れてくれるもんで、助かるけど、こう、もうチョットは警戒心とか覚えた方がいいんじゃねェのとは思う。
性格もふわふわしてるしいろいろ心配よ、お兄さんは。
おれは世話になるにあたって、タダ飯食らうワケにはいかねェから家事を引き受けることにした。
それから決まり事を少し。
最初は料理作るにも電子レンジとか、洗濯するにも洗濯機とかよくわかんなかったが、そこは教えてもらった。
覚えたら便利すぎて仰天したぜ。あれはぜひウチにも取り入れたい。
決まり事ってのも、実に簡素なもんで。
1、出かける時は声をかけること。
2、なまえの部屋に入る時はノックすること。
この二つ。
最初は一個だけだったのをおれが無理矢理二つにしたんだけど……ホント警戒心覚えて?
洗濯も下着気にしないとか言うし。
おれはいいケド!なまえちゃんは拒否しようぜ!
結局一緒に洗って、干すのだけはなまえがすることに落ちついた。
服やなんかも初日にショッピングモールなるところに行っていろいろと買い揃えてもらった。
そんなにいらねェっつってんのに、あるに越したことはないって押し切られてまあたくさん。
もしなまえがおれの世界に来たら恩返ししようって心に誓ったね。
それから七日間。
平和で穏やかな日々を過ごしている。
この世界には海賊がほとんどいないって聞いた時はたまげたが、なまえがこんだけ警戒心無いってのも頷けた。
犯罪がまったく無いわけではないが、殺人なんかはあまり起こらないらしい。
あの喧騒を忘れちまうくらい本当に穏やかで、だけどここはちっと静かすぎる。
あの日々が、モビーが、恋しい。
家族たちはおれが急に居なくなって、きっと心配してる。なんてったって上陸中ならいざ知らず、海のド真ん中で居なくなったんだからな。
おれの部下たちはそりゃァ優秀だが、不安もあるだろう。
はやく帰りたい。そう思う。
でも、
朝食をテーブルに並べながら、庭に出ているなまえを見て、この子は独りになるのだと思うと、複雑だ。
ここに来て最初の日、夕飯はおれが作った。使い方を教えてもらって、慣れないことだらけだったが、いつもどーりに美味い飯をふるまって。二人で食卓を囲んで。
一口。
メシを口に運んだなまえは泣いたのだ。
『だれかといっしょに、こんなにおいしいご飯を食べたのは、はじめてです』
所々言葉につまりながら、おいしい、おいしいと繰り返して、あの子は泣いていた。
その時、連れて帰りたいと心から思ったが、連れて行けないとも思った。
きっとこの子は耐えられない。
当たり前に海賊が闊歩する世界では、なまえは生き抜けない。
おれがいたって、四六時中一緒には居られない。そもそも、船上で別の海賊に襲われたら?
死体を前に、このやさしい子が何も思わずにはいられないだろう。
おれだって……人を殺せる人間だと、嫌悪されるかもしれない。
たった七日。それだけしか過ごしていないが、それでも。
なまえにはずっと笑っていてほしい。
世界の恐ろしい部分など知らず、穏やかなこの場所で、ずっと。
暗く沈んだ思考を振り払うように、頭を振って、おれは努めて明るく声を出した。
「なまえちゃん、朝メシできたぜ!」
窓から顔を出しトマトの収穫に勤しむなまえはそれらからひょこりと顔を覗かせると、小さく微笑む。
「ありがとうございます、手を洗ったら行きますね」
「おー、今日もスペシャルな出来だぜ」
「サッチさんのご飯はいつもスペシャルでサイコーです」
「さすがはなまえちゃん、わかってるな!」
——あの日のきみがあまりにきれいだったもので。——
「今日のご飯はなんですか?」
「オムレツ!」
「ハート描いてください、ハート!」
「ハート〜?三つ描いちゃう!なまえちゃんもおれのにハート描いて!」
「ふふ、では四つ描いちゃいます!四葉のクローバーですよ!」
「ん?」
「サッチさんがはやく元の世界に帰れますように」
「……ありがとな」
(きみは本当にやさしい子。)