誰の為の庭園か
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「はあぁ~、」
室内に満ちた土の芳しい香りを胸いっぱいに吸い込んで安息の息を吐く。小さな頃から庭いじりを趣味としてきた男にとって、これほど息の収まる所はない。唯一の心配事は陽に照らされる事だったが、ここのように室内で園芸ができるのであればその心配も無用であった。
(にしても、室内で薔薇を育てられるなんてなぁ。)
一室丸々園芸の為に用意されていて、床のほとんどは土だらけ。室温も湿気も機械で調整。室内のため虫の心配もそこまでではない。ここまで至れり尽くせりの環境は素晴らしい。この部屋の主はまた子様だ。荒事をこなす彼女にも、花を嗜む女性らしい一面があるのだ。うむうむと一人で満足げに頷いた。
男はここの整備や管理を任されている。名など特筆すべきに足る人物ではない。彼はあくまでこの世界の脇役でしかない。しかし、このまま「男」と呼び続けるには無理がある。というわけで今からこの男のことは「庭師」と呼ぶことにしよう。彼に名を与える意味などないが、物語を読みやすくするためである。
さて、庭師が庭園を見渡してみれば今年も赤を帯びた蕾がコロコロと膨らみ始めている。
今でこそ植物がひしめき合っている庭園だが、少し前までは何も無い真っ新な土だったのだ。それをここまで育てたかと思うと微力な達成感が湧いてくる。もう少しで蕾も解け、綺麗な薔薇が咲くことであろう。
(やむを得ず鬼兵隊に入隊したけど、荒事が苦手な俺にとっちゃあ天職だな。)
土を踏みしめるとふんわりと沈みこむ感覚。この感覚が庭師にとっては最高の時といっても過言ではない。
刀を握っているよりはシャベルを握っていた方が遥かに似合っている。争い事というのに何と無しに向かない性分であった。
今日もどこかで争い事が起こって、誰かが死んで、それを悼んで誰かが泣いて、恨みが募ってまた争って。
(負の連鎖連鎖、あーぁ、嫌になるねぇ)
青々と茂った茨に隠れるように薔薇達の中に入り込んで雑草をむしる。
(平和にいきやしょう、自分みたいな非力な奴が戦場に行ったって無駄死にするだけだけ。)
まだまた子の下に配属される前、一兵士として戦場に出たとき。そんなときが庭師にもあった。鬼兵隊に身を置いている身としては自然なことだろう。その時に、自分なんかよりも力があって、刀の扱いだって巧くて、銃だってよく当たる人が居た。人望もあって、実力もある。漫画の主人公に選ばれるとしたらコイツなんだろうなって塵が舞う戦場でぼぅっと考えてたら、次の瞬間には流れ弾に当たってソイツは死んだ。
力があったってダメだったんだ。なら尚更、自分なんかだめだろう。きっともっと強くて異次元的で。そうジャンプの主人公みたいに強くなきゃ。
(身近で言ったら、万斉様とかなんだろうなぁ、あの人一騎当千だし。)
半端じゃないくらい力がなけりゃ戦場にて生き残れやしないだろう。
どこから入ったのか、葉の上にずんぐりとした芋虫を見つけた。
(自分は精々土を這う虫くらいしか殺せやしない。)
手袋越しに摘まんで無造作にビニール袋に放って、手に持っていたスコップで叩き潰した。透明なビニールから色のついた体液がべっとりと付いたのが見える。今さら気持ち悪いとも思わなかった。
(これも血なんだよなぁ。)
赤色だったら何か思うのか。きっと死体を見るジャンプの主人公はこんな気分なのか。
(争い事に突っ込む奴の気が知れない。快楽殺人者とか忠義に熱い奴とか。死んだら終わりだろうに。)
ひねくれた自分にゃ、そういうやつは似合わない。
室内に満ちた土の芳しい香りを胸いっぱいに吸い込んで安息の息を吐く。小さな頃から庭いじりを趣味としてきた男にとって、これほど息の収まる所はない。唯一の心配事は陽に照らされる事だったが、ここのように室内で園芸ができるのであればその心配も無用であった。
(にしても、室内で薔薇を育てられるなんてなぁ。)
一室丸々園芸の為に用意されていて、床のほとんどは土だらけ。室温も湿気も機械で調整。室内のため虫の心配もそこまでではない。ここまで至れり尽くせりの環境は素晴らしい。この部屋の主はまた子様だ。荒事をこなす彼女にも、花を嗜む女性らしい一面があるのだ。うむうむと一人で満足げに頷いた。
男はここの整備や管理を任されている。名など特筆すべきに足る人物ではない。彼はあくまでこの世界の脇役でしかない。しかし、このまま「男」と呼び続けるには無理がある。というわけで今からこの男のことは「庭師」と呼ぶことにしよう。彼に名を与える意味などないが、物語を読みやすくするためである。
さて、庭師が庭園を見渡してみれば今年も赤を帯びた蕾がコロコロと膨らみ始めている。
今でこそ植物がひしめき合っている庭園だが、少し前までは何も無い真っ新な土だったのだ。それをここまで育てたかと思うと微力な達成感が湧いてくる。もう少しで蕾も解け、綺麗な薔薇が咲くことであろう。
(やむを得ず鬼兵隊に入隊したけど、荒事が苦手な俺にとっちゃあ天職だな。)
土を踏みしめるとふんわりと沈みこむ感覚。この感覚が庭師にとっては最高の時といっても過言ではない。
刀を握っているよりはシャベルを握っていた方が遥かに似合っている。争い事というのに何と無しに向かない性分であった。
今日もどこかで争い事が起こって、誰かが死んで、それを悼んで誰かが泣いて、恨みが募ってまた争って。
(負の連鎖連鎖、あーぁ、嫌になるねぇ)
青々と茂った茨に隠れるように薔薇達の中に入り込んで雑草をむしる。
(平和にいきやしょう、自分みたいな非力な奴が戦場に行ったって無駄死にするだけだけ。)
まだまた子の下に配属される前、一兵士として戦場に出たとき。そんなときが庭師にもあった。鬼兵隊に身を置いている身としては自然なことだろう。その時に、自分なんかよりも力があって、刀の扱いだって巧くて、銃だってよく当たる人が居た。人望もあって、実力もある。漫画の主人公に選ばれるとしたらコイツなんだろうなって塵が舞う戦場でぼぅっと考えてたら、次の瞬間には流れ弾に当たってソイツは死んだ。
力があったってダメだったんだ。なら尚更、自分なんかだめだろう。きっともっと強くて異次元的で。そうジャンプの主人公みたいに強くなきゃ。
(身近で言ったら、万斉様とかなんだろうなぁ、あの人一騎当千だし。)
半端じゃないくらい力がなけりゃ戦場にて生き残れやしないだろう。
どこから入ったのか、葉の上にずんぐりとした芋虫を見つけた。
(自分は精々土を這う虫くらいしか殺せやしない。)
手袋越しに摘まんで無造作にビニール袋に放って、手に持っていたスコップで叩き潰した。透明なビニールから色のついた体液がべっとりと付いたのが見える。今さら気持ち悪いとも思わなかった。
(これも血なんだよなぁ。)
赤色だったら何か思うのか。きっと死体を見るジャンプの主人公はこんな気分なのか。
(争い事に突っ込む奴の気が知れない。快楽殺人者とか忠義に熱い奴とか。死んだら終わりだろうに。)
ひねくれた自分にゃ、そういうやつは似合わない。