誰の為の庭園か
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そんな事があっても、庭師の生活に何か影響が出るわけでもない。いつも通りに庭園の手入れに励む。
その後暫くは庭師以外誰も庭園を訪ねては来なかった。
いつも通りの日常ではあるが、作業の最中。気が付くと死んだ男の事を考えていた。
名すら知らぬあの男が死んで、悲しむ人はいるのだろうか。彼にも愛する者がいたり、愛される人がいるのではないだろうか。
確かにこの庭園を管理する者としては、庭園を傷つけられた事は大変腹立たしいが、命を奪うほどの事なのだろうか。明日結婚するかもしれない、明日赤ん坊が生まれるのかもしれない。自分たちの知らないドラマがあの男を待っていたかもしれない。
(最も、あの気障野郎に、んな予定はないだろうけど……)
死というのは、そういうことに全く関係なく、突然襲ってくるものだ。それは庭師自身よくわかっていた。腹に子供がいるからって、死は見逃しちゃあくれない。
(そういう残酷なもんなんですよねぇ……世界って)
それは、よく知っていた。
(まぁ、あの男の場合は、また子様の庭園に手を出した時点でもう同情の余地はないけど……)
それなのにまだあの男の死に際が夢に出てくるのは、あまりにも衝撃が強かったからだろう。死んだ男を可哀そうだとも、殺したまた子様を最低だとも思わない。ただやっぱり、薔薇が何百本集まろうが人一人の命と変えることはできないのではないか。そういう感覚が庭師の中で拭えないでいた。
(この薔薇には、あの男以上の価値があるのだろうか)
人の命よりも重い薔薇。大輪を咲き誇る薔薇を掌にもたげて見つめた。
(ここは、また子様にとってどんな意味のある庭園なのだろうか)
男が最後に言っていた、「あの野郎」。また子様があんなにも怒った理由は一体何だったのか。
はっきりとしない中、詳しいことを知りたいという好奇心が庭師の中でじわじわと膨れていった。
「失礼しますよ。」
控えめなノックと共に声がかけられた。声には覚えがある。参謀様だ。断る理由もないのでドアを開けて応えた。
「その後、異常はありませんか?」
男が結局何をしたのか、詳しいことを聞き出す前に殺してしまったので、他に異常は無いか確認して回ってくれと言われていた。
「はい、問題なかったです。」
「そうですか……では、引き続き世話を頼みます。」
「はい……。」
そうすると参謀様は背を向けた。
「あ、」
『武市であれば、慣れて居るであろう。』
唐突に万斉様の声を思い出した。
「何ですか?」
「ちょっと、見ていただきたい物が……」
振り向いてくれた参謀様を見て、急いで棚のメモを引っ掴んでくる。
「これ、前の部屋の人のメモらしいのですが……」
前の部屋の人と聞いて参謀様は息を漏らした。
「読めますかねぇ?」
「貸してください。」
そのまま手渡す。
「むぅ……。」
しばらく読み解いていたので庭師も黙ってその様子を見守った。
「読めるには、読めます。しかし……意味が分かりません。」
「意味ですか?」
「はい。」
そうすると、武市様は読んで聞かせてくれた。
「1一目ぼれあなたしかいない2この世界は二人だけ3愛しています告白4死ぬまで気持ちは変わりません5あなたに出会えた事の心からの喜び6あなたに夢中お互いに敬い、愛し、分かち合いましょう7ひそかな愛8あなたの思いやり、励ましに感謝します9いつもあなたを想っていますいつも一緒にいてください10あなたは全てが完11最愛12私と付き合ってください13永遠の友情21あなただけに尽くします24一日中思っています50恒久99永遠の愛、ずっと好きだった100100%の愛101これ以上ないほど愛しています108結婚して下さい365あなたが毎日恋しい999生まれ変わってもあなたを愛する、
だ、そうですね。長い上に全く意味が分かりません。」
(これって……)
庭師には心当たりがあった。
「3と11と100と101と108に雑ですが大きな丸がついています。特に3のところは強調するように何重にも……。
何かの暗号でしょうか。……いえ、あの人がそんな真似できるはずが。」
参謀様には見当がついていないようだが、庭師にはこのメモの意味が理解できた。
「あの、」
「何ですか?」
「この部屋の前の人って、告白かプロポーズでもする予定でもありましたか?」
「……。」
参謀様は考え込むような姿勢を見せた。
「どう、でしょうか……彼にその気があったのか……私にはよくわかりません。」
参謀様にしてはひどく、歯切れの悪い返事であった。
「そうですか。」
「しかし、万斉殿なら何か知っているかもしれませんね。」
*
「ふむ、あ奴が告白でござるかぁ……」
普段の庭師なら万斉様の私室にお邪魔するなんてことできなかっただろうが、今は好奇心というドーピングのおかげでこうして、中にお邪魔している。
「もしかしたら、考えておったかもな……」
「やっぱり……」
「確か、主は植物に詳しいのでござろう」
「まぁ、……」
「となれば、そのメモに書かれた物の意味も分かるであろう。」
「はい」
「まぁ、だからこそこんな質問をしてきたのだろう」
パソコン作業の片手間で答えてくれていた万斉様だが、くるりとこちらを向いた。
「それを教えたのは拙者でござるしな。」
「え」
「まぁ、不器用なやつのことでござる。真正面からなんて無理で御座ろう。こういう少し遠回りくらいが丁度良いのでござる。」
手をひらひらとさせて笑った万斉様にいたずら小僧の影が見えた。
「また子様は知っているのでしょうか」
「ふむ、奴の相手がまた子だと、さすがの主も感づいたか。」
「……いえ、もしかしたら外に他の女性がいた事も考えてはいました……」
「ほぉ、拙者は鎌をかけられたのか」
「す、すいません。」
「いやいや、これは拙者の負けでござるなぁ」
そう楽しそうに零すとまたパソコンにと向き直った。
「拙者が知るのもここまで、……その後結局二人がどうなったのか、拙者は知らぬ。」
「そう、ですか……」
小さくお礼を言って庭師は退出しようとした。
「最後にもう一つ、いいですか?」
そう聞いても返事は返ってこず、タイプ音しか響かない。
しかし、拒絶されたわけではなかった。どうしてもこれだけは聞いておきたかった。
「また子様はその人の事、どう思ってたんでしょうか。」
ピタリ、とタイプ音が止まった。
答えてくれるかと一瞬期待したが、その後いくら待っても返事は返ってこなかった。
その後暫くは庭師以外誰も庭園を訪ねては来なかった。
いつも通りの日常ではあるが、作業の最中。気が付くと死んだ男の事を考えていた。
名すら知らぬあの男が死んで、悲しむ人はいるのだろうか。彼にも愛する者がいたり、愛される人がいるのではないだろうか。
確かにこの庭園を管理する者としては、庭園を傷つけられた事は大変腹立たしいが、命を奪うほどの事なのだろうか。明日結婚するかもしれない、明日赤ん坊が生まれるのかもしれない。自分たちの知らないドラマがあの男を待っていたかもしれない。
(最も、あの気障野郎に、んな予定はないだろうけど……)
死というのは、そういうことに全く関係なく、突然襲ってくるものだ。それは庭師自身よくわかっていた。腹に子供がいるからって、死は見逃しちゃあくれない。
(そういう残酷なもんなんですよねぇ……世界って)
それは、よく知っていた。
(まぁ、あの男の場合は、また子様の庭園に手を出した時点でもう同情の余地はないけど……)
それなのにまだあの男の死に際が夢に出てくるのは、あまりにも衝撃が強かったからだろう。死んだ男を可哀そうだとも、殺したまた子様を最低だとも思わない。ただやっぱり、薔薇が何百本集まろうが人一人の命と変えることはできないのではないか。そういう感覚が庭師の中で拭えないでいた。
(この薔薇には、あの男以上の価値があるのだろうか)
人の命よりも重い薔薇。大輪を咲き誇る薔薇を掌にもたげて見つめた。
(ここは、また子様にとってどんな意味のある庭園なのだろうか)
男が最後に言っていた、「あの野郎」。また子様があんなにも怒った理由は一体何だったのか。
はっきりとしない中、詳しいことを知りたいという好奇心が庭師の中でじわじわと膨れていった。
「失礼しますよ。」
控えめなノックと共に声がかけられた。声には覚えがある。参謀様だ。断る理由もないのでドアを開けて応えた。
「その後、異常はありませんか?」
男が結局何をしたのか、詳しいことを聞き出す前に殺してしまったので、他に異常は無いか確認して回ってくれと言われていた。
「はい、問題なかったです。」
「そうですか……では、引き続き世話を頼みます。」
「はい……。」
そうすると参謀様は背を向けた。
「あ、」
『武市であれば、慣れて居るであろう。』
唐突に万斉様の声を思い出した。
「何ですか?」
「ちょっと、見ていただきたい物が……」
振り向いてくれた参謀様を見て、急いで棚のメモを引っ掴んでくる。
「これ、前の部屋の人のメモらしいのですが……」
前の部屋の人と聞いて参謀様は息を漏らした。
「読めますかねぇ?」
「貸してください。」
そのまま手渡す。
「むぅ……。」
しばらく読み解いていたので庭師も黙ってその様子を見守った。
「読めるには、読めます。しかし……意味が分かりません。」
「意味ですか?」
「はい。」
そうすると、武市様は読んで聞かせてくれた。
「1一目ぼれあなたしかいない2この世界は二人だけ3愛しています告白4死ぬまで気持ちは変わりません5あなたに出会えた事の心からの喜び6あなたに夢中お互いに敬い、愛し、分かち合いましょう7ひそかな愛8あなたの思いやり、励ましに感謝します9いつもあなたを想っていますいつも一緒にいてください10あなたは全てが完11最愛12私と付き合ってください13永遠の友情21あなただけに尽くします24一日中思っています50恒久99永遠の愛、ずっと好きだった100100%の愛101これ以上ないほど愛しています108結婚して下さい365あなたが毎日恋しい999生まれ変わってもあなたを愛する、
だ、そうですね。長い上に全く意味が分かりません。」
(これって……)
庭師には心当たりがあった。
「3と11と100と101と108に雑ですが大きな丸がついています。特に3のところは強調するように何重にも……。
何かの暗号でしょうか。……いえ、あの人がそんな真似できるはずが。」
参謀様には見当がついていないようだが、庭師にはこのメモの意味が理解できた。
「あの、」
「何ですか?」
「この部屋の前の人って、告白かプロポーズでもする予定でもありましたか?」
「……。」
参謀様は考え込むような姿勢を見せた。
「どう、でしょうか……彼にその気があったのか……私にはよくわかりません。」
参謀様にしてはひどく、歯切れの悪い返事であった。
「そうですか。」
「しかし、万斉殿なら何か知っているかもしれませんね。」
*
「ふむ、あ奴が告白でござるかぁ……」
普段の庭師なら万斉様の私室にお邪魔するなんてことできなかっただろうが、今は好奇心というドーピングのおかげでこうして、中にお邪魔している。
「もしかしたら、考えておったかもな……」
「やっぱり……」
「確か、主は植物に詳しいのでござろう」
「まぁ、……」
「となれば、そのメモに書かれた物の意味も分かるであろう。」
「はい」
「まぁ、だからこそこんな質問をしてきたのだろう」
パソコン作業の片手間で答えてくれていた万斉様だが、くるりとこちらを向いた。
「それを教えたのは拙者でござるしな。」
「え」
「まぁ、不器用なやつのことでござる。真正面からなんて無理で御座ろう。こういう少し遠回りくらいが丁度良いのでござる。」
手をひらひらとさせて笑った万斉様にいたずら小僧の影が見えた。
「また子様は知っているのでしょうか」
「ふむ、奴の相手がまた子だと、さすがの主も感づいたか。」
「……いえ、もしかしたら外に他の女性がいた事も考えてはいました……」
「ほぉ、拙者は鎌をかけられたのか」
「す、すいません。」
「いやいや、これは拙者の負けでござるなぁ」
そう楽しそうに零すとまたパソコンにと向き直った。
「拙者が知るのもここまで、……その後結局二人がどうなったのか、拙者は知らぬ。」
「そう、ですか……」
小さくお礼を言って庭師は退出しようとした。
「最後にもう一つ、いいですか?」
そう聞いても返事は返ってこず、タイプ音しか響かない。
しかし、拒絶されたわけではなかった。どうしてもこれだけは聞いておきたかった。
「また子様はその人の事、どう思ってたんでしょうか。」
ピタリ、とタイプ音が止まった。
答えてくれるかと一瞬期待したが、その後いくら待っても返事は返ってこなかった。