誰の為の庭園か
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若葉の緑もすがすがしい薫りを放つ頃。
町々の花屋は色とりどりの花々を店前に並べて彩りを添える。その前でうろうろと迷い歩く若者。そこに店員が声をかけると、顔を赤くしながら頭を掻いて店の中に連れられていった。対の蝶々がヒラヒラと飛び回りながら店先に挿された綺麗な花から花に閃いている。爽やかな風にのせられて番の鳥が戯れながら囀ずり合い快晴の空を飛んでいく。互いの手を絡ませて幸せそうに頬笑むカップル。この通りには恋人達がやけに多いようだ。愛を形にしたがる人間達のことだ、ここの花屋は商売繁盛なことでございましょう。
先程の若者が両手一杯の薔薇を抱えながら勢いよく店から出ていった。そこにすれ違うように一人の男が店に入る。
「あら、いらっしゃい。」
「いつもの……」
「はいよ、毎度ありがとね。」
短い会話を終えて、男は暇潰しに店内の花を鑑賞する。店員は、定期的にやってくる
男性客の注文を大きな袋に詰める。
「さっきの……」
「あぁ、さっきの人ね。どうやらプロポーズするみたいよ。」
「薔薇の量……多かった」
「ふふふ、プロポーズにぴったりのお花を見繕ってあげた、だぁけ。」
「プロポーズってことは、108本も……?12本でも……」
「んふふふ、量は愛、よ。あっちの方がインパクトあるし、断りずらいでしょ。」
「……儲かるしね」
「愛の仲介料よ。」
男は店員のウィンクを受け流して料金を払う。
「またねぇ。」
ずっしりと重たい袋を両手に受け取って、手を振る店員に背を向けて店を出た。花の香りの充満する屋内を出ると青空の清々しい空気を感じた。指に食い込むビニールを感じながら歩き出す。
辺りには桃色な空気を漂わせる恋人達ばかりで、独り身の男にとっては目に痛い光景だ。ため息を吐きながら歩いていると、地味に重い袋に掌が疲労を訴え始める。
「はぁ、」
目的地はまだ遠い。これが自分の仕事だとしても、土いじりの方が性にあっている。庭師は庭師らしく、草花に囲まれて隅っこでしゃがみこんでいたいものだ。
「はぁ、」
「何ため息ついてんすか?」
「おぉ!?」
沈んでいると隣から声をかけられた。
「何驚いてるんすか、ぼーっとしてると転ぶっすよ。」
「ま、また子様、いつの間に……」
「いや、たまたま見かけたもんっすから。」
「は、はぁ……」
また子の手には武市様からのお使いか、紙袋が提げられていた。急激な上司の登場に狼狽える。
「随分と肥料買い込んだっすね。」
「まぁ……切り花用の薬品も買いましたし……」
向かう方向は同じだ。意図せずともまた子様と肩を並べて歩くことになった。
とは言っても特に何か会話が起こる訳でも無かった。きゃっきゃと色めくカップル達の間を無言で歩いていく。
「今日の夜ご飯どうする~?」
「今夜は、き・み・を。」
「きゃー!!」
こんなばかばかしい会話が聞こえてくるほどに静かだ。男は俯いて自身の草履を眺めるしかなかった。
(いや、何話ゃあいいんだよ!)
美人で綺麗で隊内でも噂のマドンナ。美しいだけではなく銃の腕も確かで、世間から赤い弾丸と恐れられている。悪くない人柄だとはわかっているが、コミュニケーションが苦手な男にしてみれば対人だけでも一杯だというのに、更に女ときて上司と来て美人ときた。心臓が汗だくだ。
「重そうっすね、手伝うっすよ。」
「え、いや、」
「いいから。」
肥料や薬品のぎっしり詰まった袋を取られてしまった。あんなに重い荷物を、女性に持たせるのは気が進まなかったが、あれだけ重かった袋だが、また子様が手に持つと軽々しく見えるから不思議だ。
度胸も腕も男顔負けの彼女。高嶺の花。見上げる男どもは大勢居る。自分だってその中の一人だ。ただちょっと彼女に会う頻度が多いだけで、確かに直属の部下として数年ほど前から使えてはいるが、彼女に会うのは庭園でのみだ。別に恋仲とか良い仲にはなっていない。そういうつもりも毛頭無い。いやいや、畏れ多い。
(だからそんなに俺を睨むな!)
目的地である戦艦に着けば回りの隊員達の目が痛い。肝の小さい身としては胃に穴が開きそうな思いである。
「はぁ、」
「なんすか、悩みごとでもあるんすか?」
「いや……」
(何でもないので可愛いお顔をこちらを向けないでくれますか?回りの視線が刺さります!)
絶対零度、または憎しみの炎に晒されながら胃痛に耐えていると、
「やぁ、」
長い金髪を払いながらやけに華美な男が話しかけてきた。
「俺の愛しのマドモアゼル。お帰りですか?」
そう言うと演技がかった動きでまた子様の前に片膝をついた。
「……。」
その状況に呆然としていると、また子様は気にする様子も無く、跪く男を素通りしていった。
それに気づいているのかいないのか、まだ跪いている男。何か声をかけた方がいいのかわからないが、自身はコミュニケーション能力に乏しいことに思い出して後ろ髪引かれながらもまた子様の後を追った。
その間、背後から、
「ふっ、今日のガッティーナも照れ屋だな。」
なんてポジティブなシンキングが聞こえてきたので恐らく心配ないだろう。
また子様の様子を見るにいつもの事なのだろうか。
やはり、また子様程の女性ともなれば男は放っておかないのだろう。
先ほどの男は気障を絵に描いたような男であった。好きな女性は好きであろう。
だが、残念なことにまた子様の好みではなかったらしい。彼女ほどの女性なら男も選び放題だろう。
(また子様のタイプってどんな人なんだろう。やっぱり総督みたいな人かなぁ。)
そんな事を考えていたら、やっと安寧の地。マイホーム。庭園室に着いた。どさりと重かった荷物も置いて、身も心も解放される。
「ありがとうございました。」
「別にこれくらいいいっすよ。じゃ引き続きここの部屋の世話、よろしくっす。」
部屋を出ていった彼女に頭を下げて、一人残された落ち着く空間にて目の前の荷物の整理を始めた。
町々の花屋は色とりどりの花々を店前に並べて彩りを添える。その前でうろうろと迷い歩く若者。そこに店員が声をかけると、顔を赤くしながら頭を掻いて店の中に連れられていった。対の蝶々がヒラヒラと飛び回りながら店先に挿された綺麗な花から花に閃いている。爽やかな風にのせられて番の鳥が戯れながら囀ずり合い快晴の空を飛んでいく。互いの手を絡ませて幸せそうに頬笑むカップル。この通りには恋人達がやけに多いようだ。愛を形にしたがる人間達のことだ、ここの花屋は商売繁盛なことでございましょう。
先程の若者が両手一杯の薔薇を抱えながら勢いよく店から出ていった。そこにすれ違うように一人の男が店に入る。
「あら、いらっしゃい。」
「いつもの……」
「はいよ、毎度ありがとね。」
短い会話を終えて、男は暇潰しに店内の花を鑑賞する。店員は、定期的にやってくる
男性客の注文を大きな袋に詰める。
「さっきの……」
「あぁ、さっきの人ね。どうやらプロポーズするみたいよ。」
「薔薇の量……多かった」
「ふふふ、プロポーズにぴったりのお花を見繕ってあげた、だぁけ。」
「プロポーズってことは、108本も……?12本でも……」
「んふふふ、量は愛、よ。あっちの方がインパクトあるし、断りずらいでしょ。」
「……儲かるしね」
「愛の仲介料よ。」
男は店員のウィンクを受け流して料金を払う。
「またねぇ。」
ずっしりと重たい袋を両手に受け取って、手を振る店員に背を向けて店を出た。花の香りの充満する屋内を出ると青空の清々しい空気を感じた。指に食い込むビニールを感じながら歩き出す。
辺りには桃色な空気を漂わせる恋人達ばかりで、独り身の男にとっては目に痛い光景だ。ため息を吐きながら歩いていると、地味に重い袋に掌が疲労を訴え始める。
「はぁ、」
目的地はまだ遠い。これが自分の仕事だとしても、土いじりの方が性にあっている。庭師は庭師らしく、草花に囲まれて隅っこでしゃがみこんでいたいものだ。
「はぁ、」
「何ため息ついてんすか?」
「おぉ!?」
沈んでいると隣から声をかけられた。
「何驚いてるんすか、ぼーっとしてると転ぶっすよ。」
「ま、また子様、いつの間に……」
「いや、たまたま見かけたもんっすから。」
「は、はぁ……」
また子の手には武市様からのお使いか、紙袋が提げられていた。急激な上司の登場に狼狽える。
「随分と肥料買い込んだっすね。」
「まぁ……切り花用の薬品も買いましたし……」
向かう方向は同じだ。意図せずともまた子様と肩を並べて歩くことになった。
とは言っても特に何か会話が起こる訳でも無かった。きゃっきゃと色めくカップル達の間を無言で歩いていく。
「今日の夜ご飯どうする~?」
「今夜は、き・み・を。」
「きゃー!!」
こんなばかばかしい会話が聞こえてくるほどに静かだ。男は俯いて自身の草履を眺めるしかなかった。
(いや、何話ゃあいいんだよ!)
美人で綺麗で隊内でも噂のマドンナ。美しいだけではなく銃の腕も確かで、世間から赤い弾丸と恐れられている。悪くない人柄だとはわかっているが、コミュニケーションが苦手な男にしてみれば対人だけでも一杯だというのに、更に女ときて上司と来て美人ときた。心臓が汗だくだ。
「重そうっすね、手伝うっすよ。」
「え、いや、」
「いいから。」
肥料や薬品のぎっしり詰まった袋を取られてしまった。あんなに重い荷物を、女性に持たせるのは気が進まなかったが、あれだけ重かった袋だが、また子様が手に持つと軽々しく見えるから不思議だ。
度胸も腕も男顔負けの彼女。高嶺の花。見上げる男どもは大勢居る。自分だってその中の一人だ。ただちょっと彼女に会う頻度が多いだけで、確かに直属の部下として数年ほど前から使えてはいるが、彼女に会うのは庭園でのみだ。別に恋仲とか良い仲にはなっていない。そういうつもりも毛頭無い。いやいや、畏れ多い。
(だからそんなに俺を睨むな!)
目的地である戦艦に着けば回りの隊員達の目が痛い。肝の小さい身としては胃に穴が開きそうな思いである。
「はぁ、」
「なんすか、悩みごとでもあるんすか?」
「いや……」
(何でもないので可愛いお顔をこちらを向けないでくれますか?回りの視線が刺さります!)
絶対零度、または憎しみの炎に晒されながら胃痛に耐えていると、
「やぁ、」
長い金髪を払いながらやけに華美な男が話しかけてきた。
「俺の愛しのマドモアゼル。お帰りですか?」
そう言うと演技がかった動きでまた子様の前に片膝をついた。
「……。」
その状況に呆然としていると、また子様は気にする様子も無く、跪く男を素通りしていった。
それに気づいているのかいないのか、まだ跪いている男。何か声をかけた方がいいのかわからないが、自身はコミュニケーション能力に乏しいことに思い出して後ろ髪引かれながらもまた子様の後を追った。
その間、背後から、
「ふっ、今日のガッティーナも照れ屋だな。」
なんてポジティブなシンキングが聞こえてきたので恐らく心配ないだろう。
また子様の様子を見るにいつもの事なのだろうか。
やはり、また子様程の女性ともなれば男は放っておかないのだろう。
先ほどの男は気障を絵に描いたような男であった。好きな女性は好きであろう。
だが、残念なことにまた子様の好みではなかったらしい。彼女ほどの女性なら男も選び放題だろう。
(また子様のタイプってどんな人なんだろう。やっぱり総督みたいな人かなぁ。)
そんな事を考えていたら、やっと安寧の地。マイホーム。庭園室に着いた。どさりと重かった荷物も置いて、身も心も解放される。
「ありがとうございました。」
「別にこれくらいいいっすよ。じゃ引き続きここの部屋の世話、よろしくっす。」
部屋を出ていった彼女に頭を下げて、一人残された落ち着く空間にて目の前の荷物の整理を始めた。
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