【夢小説】岡田似蔵×夢主【短編】
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風邪をひいてしまった。
「ぅ……」
身体の体熱感と酷い怠さに思わず声を漏らす。
つい先ほど計った体温計によると、現在38℃と少し。
立派な風邪である。
ぼうっとする思考に全体的に重痛い頭。
布団に横になっているだけだと言うのに、体中の関節が怠さをじわりじわりと訴えてくる。
ずるずると鼻水をすすりながら、枕元に置いておいた箱ティッシュに手を伸ばし、痛む喉を我慢して鼻をかむ。
「んあ“あ”……」
あられもない声をあげては、身に振りかかった厄災を嘆いた。
(まったく、どうして風邪なんか引いたんだか……学生の頃は学校が休めるって喜んだんだけどなぁ。)
現在彼女は学生ではなく、立派な主婦だ。
学校を休めると喜ぶのではなく、家事が出来ずに申し訳ないと憂いている。
「っごっほ!……っけほっ!!」
(……似蔵さんは朝早く仕事に行ったし……食事は朝から何も取ってないから、洗い物は大丈夫。掃除も、ほとんど寝てるだけだったから大丈夫、……洗濯物だけ回せてないけど、確か……替えのシャツがあったから……似蔵さんには明日、それを着てもらって、それで、後は……)
ぐるぐると今日やるべきであった事柄が頭を回る。
頭痛とごっちゃになって痛みが増してしまう。
(夜ご飯は……確か、外で食べてくるから心配いらないって言ってくれてたし……後は……あ、お風呂……)
「お風呂、入れなくちゃ…………。」
怠さに軋む関節を酷使して、彼女は立ち上がる。
ふらふらと不安定な足取りながら、壁に助けられてはなんとか風呂場に向かう。
(あとで寝室からスマホ持ってこないと……明日の朝、起きられなくなちゃう。)
この家の作りとして、寝室は一つだ。
夫婦で一つのベッドにいつも寝ている。
しかし、彼女がこうして風邪となってしまったので、似蔵にうつすまいと違う部屋で布団を敷いて休んでいた。
当然、今夜はそこで一人で寝るつもりだ。
(……そう言えば、似蔵さんと結婚してから初めて一人で寝るかもしれない……。)
ほんの少し寂しいな、なんて漠然と思いながらも重い足取りで風呂場に向かう。
*
≪お風呂を沸かします。お風呂を沸かします。≫
機械音声を聞きながらこれでよし、と彼女は布団に戻ろうとする。
(あ~、もうダメ……頭痛ぃ…………)
激しい頭痛に思わず目を閉じると、
「あ」
平衡感覚を失い、体がぐらっと後ろに倒れた。
(やば……!!)
倒れる!と衝撃を覚悟した時、
「おいおい、大丈夫かい?」
柔らかなそれでいてしっかりとした腕に支えられる。
目を開けるとそこには似蔵の顔があった。
「に、似蔵さん……お、お帰りなさい。」
戸惑いながら言えば、
「ただいま。」
意識の眩むような優しい微笑みで返される。
「い、いつ帰って……?」
「今だよ。そんな事より、起きていて大丈夫なのかい? 見たところかなり悪いようだけど。」
「えっと、お風呂沸かしに来ただけだから……」
「お風呂? そんなの気にしなくて良いのに。真面目かいあんたは。」
わしゃわしゃと頭を撫でられる。
少し雑な手つきに頭が揺れて痛むが、正直そんな事気にならなかった。
「俺の事は構わずに寝ときな。」
「うん……ありがと……」
「でも、ほんとに辛そうだね。」
「……少し熱、あるくらいで……大丈夫だよ」
彼女の平熱が低めなのを鑑みると、38℃の熱はハッキリと言って少し所ではなかった。
しかし、似蔵をこれ以上心配させまいと彼女はそう言った。
「アンタがそう言うときって、大丈夫じゃない事が多いと思うんだがね。」
どれ、と似蔵は彼女の額に手を置く。
(あ、ひんやりしててきもち……)
「あんた、少しどころじゃないだろう?」
「うぇ?」
「今、俺の手が冷たくて気持ちいとでも思ったかい?」
「えっと、外に出てたから当たり前じゃ……?」
「俺は平熱、高い方だよ。間違ってもひんやりしてるだなんて思う訳がない。」
冬でも無いんだから……と似蔵は付け加える。
「えっと……その……」
何か上手い事反論しようかとも考えるが、如何せん熱で頭が回らない。
「病人は大人しく寝てるに限るよ。」
「わっ!」
ひょいっと彼に抱きかかえられる。
「ちょ、ちょっと……」
「暴れるなって、頭に響いちまうよ。」
急な似蔵の行動に、彼女は思考が追い付かずに変な声をあげるばかり。
「アンタの顔、リンゴみたいに赤いけど、大丈夫かい?やっぱり熱酷いんだろう?」
確かに彼女の顔は心配になるほどに真っ赤であるだが、
(だ、だ、だ、誰のせいだと思ってっ~!!)
その熱は風邪とは違う理由から来ている。
そのまま大人しく運ばれていると、寝室に運ばれてしまう。
「あ、あの、ここじゃなくて、違う部屋で寝てたんだけど……」
「違う部屋?」
「あ、あの……風邪、うつるとダメだから、違う部屋で寝るから、今日……」
彼女がもごもごと言うが、知らんと言った様子で似蔵は彼女をベットに寝かせる。
「その必要はないよ。」
「で、でも風邪……うつっちゃ」
「俺、頑丈だから風邪とかひいた事無いんだよねぇ。」
ニヤリと笑う彼に、
(う、嘘だぁ~)
彼女は心中で声をあげた。
「今、嘘だって思ったろ?」
「……えっと。」
彼女が応えあぐねていると、ぎしり、と似蔵もベットに寝る。
「試してみるかい?」
「へ?」
そのまま何をするかと思えば、腰に腕を回されそのまま抱きしめられる。
「うぇ?ちょ、ちょっと似蔵さん!!は、離して!」
「うるさいね、頭に響いちまうだろう?それともなんだい」
俺と寝るのは嫌かい?
鼻と鼻が触れそうなほどの距離でそう尋ねられる。
綺麗な瞳が彼女を射抜く。
(そ、そ、そういう聞き方はずるいなぁ……)
「……い、嫌、じゃ…………ない、けど…………。」
「じゃあ、いいじゃないかい。」
うなじに顔を沈められる。
「さくら 、良い匂いするね」
(な、な、なんでそういう事言うかなぁ……)
彼女の顔はこれ以上赤くなれない。
「で、でも風邪が……」
「俺、風邪ひかないんだよね~」
(し、白々しぃ~)
なんとか抜け出そうとするが、似蔵はがっちり掴んで離す気配はない。
「そんなに一人で寝たいのかい?」
「だ、だって、仕事あるし、うつったら……。」
「俺、一人で寝るの嫌だなぁ……。」
「う……。」
(私だって……そう、だけど……。)
「さくらが一緒に寝てくれないっていうならどうしようかな。」
死のうかな、だなんてふざける似蔵。
「お、大袈裟すぎ……」
「じゃ、一緒に寝てくれよ。」
「うぅ……でも……」
煮え切らない様子の彼女に、似蔵は
「さくら」
名を呼ばれて顔を似蔵の方に向ける。
すると、
「ん!?」
不意をついたキスであった。
「ぅ……!」
唇を啄むようなキスに、慌てて退こうとしたが腰をガッチリとホールドされていて身動きがとれない。
似蔵を押し退けようとしたところで、熱に浮かされた体の状態ではろくに力も入らずに、熱を帯びている彼女の手は、似蔵の胸板にすがるしかない。
乾いた唇を舐められ、似蔵の唾液でふやかされる。
「……ん………ぅふ……」
唇を這い回っていた舌は、谷間を割って口内に侵入してくる。
触れるばかりでなく、舌を入れてくる深いもの。
「……ん……ぁう……」
じわじわと迫まる酸欠に体の重苦しさが際立つ。
しかし、それと同時に体の奥が甘く痺れる。
(……あ、つい……した……とけそっ……)
口の中で、熱と熱が絡まり合ってとろけてしまいそうになる。
ただでさえ体温が上がっているというのに、似蔵の熱も重なっては留まるところを知らない。
似蔵も体温が上がってきたのか、唇は離さないまま、片腕でシャツのボタンを外しにかかる。
解いたシャツの隙間から見える肌色のその扇情的な様子にくらりとする。
緩んだ腕のホールドだが、そこを抜け出せる程に力は残っておらず、ただ脱ぎ始めた似蔵の姿を、熱のこもった視線で見つめるしかなかった。
上半身をすっかり脱ぎ終わると、彼女を更に自身の方にと引き寄せる。
もっと深まる口づけと、ぴたりと直接感じる似蔵の熱。
密着したところから感じる似蔵の大きな鼓動に脳まで揺さぶられる。
背中に回された似蔵の節くれ立った指が背筋をやんわりとなぞる。
激しいキスよりも、繊細なその動きに体を震わせた。
何度も角度を変えては長い間口を吸われ続けた。
ようやく解放された頃には、すっかりと力が抜けて似蔵の腕にもたれる。
「……はぁ……はぁ……な、……な、……」
抗議の声をなんとか絞り出そうとしたが、似蔵が唇の端を舐めてこう言った。
「こんだけ深く口づけでもしたら、うつるもんはうつったさね。こうなった以上寝る場所を別にするだなんて無駄な足掻きだよ。」
「あ、あ、あ、貴方って人は……!!」
「それともなにかい、もっと深いコトするかい?」
「っ~~~!?」
何を想像したか、彼女は言葉を失い、口をぱくぱくと開閉する。
「ふふ、冗談だよ。」
でも、と続けた。
「こんだけ熱いアンタの中、味わってもみたいよね……。」
耳元で囁かれてぶわああああっと顔に血が昇る。
「じょ、冗談、でしょ……?」
ひきつった表情で尋ねるが、似蔵の笑顔がなんだか怖い。
「まぁ、流石の俺もそこまで鬼畜じゃないけどね。」
冗談冗談、と笑う似蔵であったが、彼女にはそう思えなかった。
(私が了承したらやりかねないよこの人……!!)
その証拠にとでも言うか、直ぐ様次の言葉を告げる。
「でも、アンタが良いって言うなら……」
トーンを少し落として掠れた声で囁いてくる似蔵はきっと確信犯。
どのように迫れば彼女が揺らぐか似蔵は知っている。
何度そうして似蔵のペースに持っていかれたことか。
「や、やんないからね!?」
ほんの少しだけ想像してしまったが、こんな体の状態で似蔵の良いようにされたら、明日を無事に迎えられる気がしない。
今回ばかりは譲れないと強く否定する。
口からでた上ずった声は、情けないくらいに必死だった。
「そりゃあ、残念だ……。」
ぎゅうと抱きしめる腕の力が強くなる。
優しい手つきで頭を撫でられる。
「ほら、お休み……」
その愛おしさをふんだんに込めた心地の良い声に、彼女の寄せられた眉は自然と解ける。
頭を似蔵の胸板に押し付けてそのまま瞼を閉じる。
(あつい……)
風邪での熱か、似蔵の体温か、彼女の体温か、
密着したところから感じる似蔵の体温も彼女自身と同じ程に熱かった。
どこまでが自分の体で、どこまでが似蔵の体なのか。
境界線が分からずに似蔵の体にゆったり溶け込んでいく錯覚を覚える。
それでも息苦しいとは思わずにむしろ心地の良い暖かさに彼女は自然と意識を沈ませる。
そのまま似蔵とさくら、 二人は抱き合ったまま朝を迎えた。
「ぅ……」
身体の体熱感と酷い怠さに思わず声を漏らす。
つい先ほど計った体温計によると、現在38℃と少し。
立派な風邪である。
ぼうっとする思考に全体的に重痛い頭。
布団に横になっているだけだと言うのに、体中の関節が怠さをじわりじわりと訴えてくる。
ずるずると鼻水をすすりながら、枕元に置いておいた箱ティッシュに手を伸ばし、痛む喉を我慢して鼻をかむ。
「んあ“あ”……」
あられもない声をあげては、身に振りかかった厄災を嘆いた。
(まったく、どうして風邪なんか引いたんだか……学生の頃は学校が休めるって喜んだんだけどなぁ。)
現在彼女は学生ではなく、立派な主婦だ。
学校を休めると喜ぶのではなく、家事が出来ずに申し訳ないと憂いている。
「っごっほ!……っけほっ!!」
(……似蔵さんは朝早く仕事に行ったし……食事は朝から何も取ってないから、洗い物は大丈夫。掃除も、ほとんど寝てるだけだったから大丈夫、……洗濯物だけ回せてないけど、確か……替えのシャツがあったから……似蔵さんには明日、それを着てもらって、それで、後は……)
ぐるぐると今日やるべきであった事柄が頭を回る。
頭痛とごっちゃになって痛みが増してしまう。
(夜ご飯は……確か、外で食べてくるから心配いらないって言ってくれてたし……後は……あ、お風呂……)
「お風呂、入れなくちゃ…………。」
怠さに軋む関節を酷使して、彼女は立ち上がる。
ふらふらと不安定な足取りながら、壁に助けられてはなんとか風呂場に向かう。
(あとで寝室からスマホ持ってこないと……明日の朝、起きられなくなちゃう。)
この家の作りとして、寝室は一つだ。
夫婦で一つのベッドにいつも寝ている。
しかし、彼女がこうして風邪となってしまったので、似蔵にうつすまいと違う部屋で布団を敷いて休んでいた。
当然、今夜はそこで一人で寝るつもりだ。
(……そう言えば、似蔵さんと結婚してから初めて一人で寝るかもしれない……。)
ほんの少し寂しいな、なんて漠然と思いながらも重い足取りで風呂場に向かう。
*
≪お風呂を沸かします。お風呂を沸かします。≫
機械音声を聞きながらこれでよし、と彼女は布団に戻ろうとする。
(あ~、もうダメ……頭痛ぃ…………)
激しい頭痛に思わず目を閉じると、
「あ」
平衡感覚を失い、体がぐらっと後ろに倒れた。
(やば……!!)
倒れる!と衝撃を覚悟した時、
「おいおい、大丈夫かい?」
柔らかなそれでいてしっかりとした腕に支えられる。
目を開けるとそこには似蔵の顔があった。
「に、似蔵さん……お、お帰りなさい。」
戸惑いながら言えば、
「ただいま。」
意識の眩むような優しい微笑みで返される。
「い、いつ帰って……?」
「今だよ。そんな事より、起きていて大丈夫なのかい? 見たところかなり悪いようだけど。」
「えっと、お風呂沸かしに来ただけだから……」
「お風呂? そんなの気にしなくて良いのに。真面目かいあんたは。」
わしゃわしゃと頭を撫でられる。
少し雑な手つきに頭が揺れて痛むが、正直そんな事気にならなかった。
「俺の事は構わずに寝ときな。」
「うん……ありがと……」
「でも、ほんとに辛そうだね。」
「……少し熱、あるくらいで……大丈夫だよ」
彼女の平熱が低めなのを鑑みると、38℃の熱はハッキリと言って少し所ではなかった。
しかし、似蔵をこれ以上心配させまいと彼女はそう言った。
「アンタがそう言うときって、大丈夫じゃない事が多いと思うんだがね。」
どれ、と似蔵は彼女の額に手を置く。
(あ、ひんやりしててきもち……)
「あんた、少しどころじゃないだろう?」
「うぇ?」
「今、俺の手が冷たくて気持ちいとでも思ったかい?」
「えっと、外に出てたから当たり前じゃ……?」
「俺は平熱、高い方だよ。間違ってもひんやりしてるだなんて思う訳がない。」
冬でも無いんだから……と似蔵は付け加える。
「えっと……その……」
何か上手い事反論しようかとも考えるが、如何せん熱で頭が回らない。
「病人は大人しく寝てるに限るよ。」
「わっ!」
ひょいっと彼に抱きかかえられる。
「ちょ、ちょっと……」
「暴れるなって、頭に響いちまうよ。」
急な似蔵の行動に、彼女は思考が追い付かずに変な声をあげるばかり。
「アンタの顔、リンゴみたいに赤いけど、大丈夫かい?やっぱり熱酷いんだろう?」
確かに彼女の顔は心配になるほどに真っ赤であるだが、
(だ、だ、だ、誰のせいだと思ってっ~!!)
その熱は風邪とは違う理由から来ている。
そのまま大人しく運ばれていると、寝室に運ばれてしまう。
「あ、あの、ここじゃなくて、違う部屋で寝てたんだけど……」
「違う部屋?」
「あ、あの……風邪、うつるとダメだから、違う部屋で寝るから、今日……」
彼女がもごもごと言うが、知らんと言った様子で似蔵は彼女をベットに寝かせる。
「その必要はないよ。」
「で、でも風邪……うつっちゃ」
「俺、頑丈だから風邪とかひいた事無いんだよねぇ。」
ニヤリと笑う彼に、
(う、嘘だぁ~)
彼女は心中で声をあげた。
「今、嘘だって思ったろ?」
「……えっと。」
彼女が応えあぐねていると、ぎしり、と似蔵もベットに寝る。
「試してみるかい?」
「へ?」
そのまま何をするかと思えば、腰に腕を回されそのまま抱きしめられる。
「うぇ?ちょ、ちょっと似蔵さん!!は、離して!」
「うるさいね、頭に響いちまうだろう?それともなんだい」
俺と寝るのは嫌かい?
鼻と鼻が触れそうなほどの距離でそう尋ねられる。
綺麗な瞳が彼女を射抜く。
(そ、そ、そういう聞き方はずるいなぁ……)
「……い、嫌、じゃ…………ない、けど…………。」
「じゃあ、いいじゃないかい。」
うなじに顔を沈められる。
「さくら 、良い匂いするね」
(な、な、なんでそういう事言うかなぁ……)
彼女の顔はこれ以上赤くなれない。
「で、でも風邪が……」
「俺、風邪ひかないんだよね~」
(し、白々しぃ~)
なんとか抜け出そうとするが、似蔵はがっちり掴んで離す気配はない。
「そんなに一人で寝たいのかい?」
「だ、だって、仕事あるし、うつったら……。」
「俺、一人で寝るの嫌だなぁ……。」
「う……。」
(私だって……そう、だけど……。)
「さくらが一緒に寝てくれないっていうならどうしようかな。」
死のうかな、だなんてふざける似蔵。
「お、大袈裟すぎ……」
「じゃ、一緒に寝てくれよ。」
「うぅ……でも……」
煮え切らない様子の彼女に、似蔵は
「さくら」
名を呼ばれて顔を似蔵の方に向ける。
すると、
「ん!?」
不意をついたキスであった。
「ぅ……!」
唇を啄むようなキスに、慌てて退こうとしたが腰をガッチリとホールドされていて身動きがとれない。
似蔵を押し退けようとしたところで、熱に浮かされた体の状態ではろくに力も入らずに、熱を帯びている彼女の手は、似蔵の胸板にすがるしかない。
乾いた唇を舐められ、似蔵の唾液でふやかされる。
「……ん………ぅふ……」
唇を這い回っていた舌は、谷間を割って口内に侵入してくる。
触れるばかりでなく、舌を入れてくる深いもの。
「……ん……ぁう……」
じわじわと迫まる酸欠に体の重苦しさが際立つ。
しかし、それと同時に体の奥が甘く痺れる。
(……あ、つい……した……とけそっ……)
口の中で、熱と熱が絡まり合ってとろけてしまいそうになる。
ただでさえ体温が上がっているというのに、似蔵の熱も重なっては留まるところを知らない。
似蔵も体温が上がってきたのか、唇は離さないまま、片腕でシャツのボタンを外しにかかる。
解いたシャツの隙間から見える肌色のその扇情的な様子にくらりとする。
緩んだ腕のホールドだが、そこを抜け出せる程に力は残っておらず、ただ脱ぎ始めた似蔵の姿を、熱のこもった視線で見つめるしかなかった。
上半身をすっかり脱ぎ終わると、彼女を更に自身の方にと引き寄せる。
もっと深まる口づけと、ぴたりと直接感じる似蔵の熱。
密着したところから感じる似蔵の大きな鼓動に脳まで揺さぶられる。
背中に回された似蔵の節くれ立った指が背筋をやんわりとなぞる。
激しいキスよりも、繊細なその動きに体を震わせた。
何度も角度を変えては長い間口を吸われ続けた。
ようやく解放された頃には、すっかりと力が抜けて似蔵の腕にもたれる。
「……はぁ……はぁ……な、……な、……」
抗議の声をなんとか絞り出そうとしたが、似蔵が唇の端を舐めてこう言った。
「こんだけ深く口づけでもしたら、うつるもんはうつったさね。こうなった以上寝る場所を別にするだなんて無駄な足掻きだよ。」
「あ、あ、あ、貴方って人は……!!」
「それともなにかい、もっと深いコトするかい?」
「っ~~~!?」
何を想像したか、彼女は言葉を失い、口をぱくぱくと開閉する。
「ふふ、冗談だよ。」
でも、と続けた。
「こんだけ熱いアンタの中、味わってもみたいよね……。」
耳元で囁かれてぶわああああっと顔に血が昇る。
「じょ、冗談、でしょ……?」
ひきつった表情で尋ねるが、似蔵の笑顔がなんだか怖い。
「まぁ、流石の俺もそこまで鬼畜じゃないけどね。」
冗談冗談、と笑う似蔵であったが、彼女にはそう思えなかった。
(私が了承したらやりかねないよこの人……!!)
その証拠にとでも言うか、直ぐ様次の言葉を告げる。
「でも、アンタが良いって言うなら……」
トーンを少し落として掠れた声で囁いてくる似蔵はきっと確信犯。
どのように迫れば彼女が揺らぐか似蔵は知っている。
何度そうして似蔵のペースに持っていかれたことか。
「や、やんないからね!?」
ほんの少しだけ想像してしまったが、こんな体の状態で似蔵の良いようにされたら、明日を無事に迎えられる気がしない。
今回ばかりは譲れないと強く否定する。
口からでた上ずった声は、情けないくらいに必死だった。
「そりゃあ、残念だ……。」
ぎゅうと抱きしめる腕の力が強くなる。
優しい手つきで頭を撫でられる。
「ほら、お休み……」
その愛おしさをふんだんに込めた心地の良い声に、彼女の寄せられた眉は自然と解ける。
頭を似蔵の胸板に押し付けてそのまま瞼を閉じる。
(あつい……)
風邪での熱か、似蔵の体温か、彼女の体温か、
密着したところから感じる似蔵の体温も彼女自身と同じ程に熱かった。
どこまでが自分の体で、どこまでが似蔵の体なのか。
境界線が分からずに似蔵の体にゆったり溶け込んでいく錯覚を覚える。
それでも息苦しいとは思わずにむしろ心地の良い暖かさに彼女は自然と意識を沈ませる。
そのまま似蔵とさくら、 二人は抱き合ったまま朝を迎えた。
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