【短編】鬼兵隊【五人】
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「これは、俺たちみたいに百物語をしていた奴らの話でな。」
和室に百人集うよう万斉から触れを出しておいた。
夏ということで怪談でもしようかというまた子の提案からだった。
万斉は散々嫌だとのたうち回ったのだが、また子に「先輩怖いんすか?」と嗤みを浮かべて挑発されたものだから二つ返事で了承してしまった。
どうせなら、晋助も道ずr……基い、誘おうかと半ば脅して縛りあげ、無理やり連れて来た。
どうせやるなら本格的にと、百本ちょうどの蝋燭を用意し百人ピッタリを集めた。
蝋燭に火を灯して一人づつ怪談を話していった。
話を終えると蝋燭を吹き消していく。
最初は部屋を十分に灯りが照らしていたが今やすっかり闇で、隣の人物がようやく見えるといった程度だ。
薄闇の中、何とも言えぬ気味の悪さ。
暗闇から何時何とも言えぬ有象無象が出てくることやら。
たらたらと、始まる前から冷や汗が流れている。
大勢の隊員の手前、みっともなく喚き慄くわけにもいかない。
近くの高杉を見るとこちらもいつもと変わらぬ仏頂面。
しかし、その表情は確かに青色であった。
高杉も同じように思っていることだろう。
ついに始まり、百物語。
びくびくと話を聞いていたが、皆、心霊体験などしたことがないのだろう。
どこかで聞いたような話のオマージュがほとんどであった。
とまれ、何とか醜態を晒さずに今のところすんでいる。
何時間経ったか時計を見ることも諦め、今何話目かを数えるのも辞めた。
灯っている蝋燭の残り数を見れば良いだけであったからだ。
そして、コートの背がじっとりと汗で濡れる頃、最後の一本が揺らめく中、話をしているところだ。
「蝋燭を百本用意して百人で輪っかになって話をぽつぽつとし始めた。
少々の眠気を感じながらも最後の話が終わり、最後の一本が吹き消されたと思ったが、まだ蝋燭は一本残っていた。今のが百話目だとばかり思っていたがどうやらまだ残り一話あったようで、船をこいでいた彼はこれで百話目だからと気合を入れ直した。
話を始めた男はこう始めた「これは、俺たちみたいに百物語をしていた奴らの話でな。」
自分たちと同じような設定に彼は自分と話を重ねてしまう。
「この百物語というのは、一種の降霊術としても伝えられているんだ。多くの生が集い意識を一つの物に集中させる。これによって、霊たちにとっては垂涎物の生のエネルギーが大きく溜まっていく。それに引き寄せられて霊たちはやってくるんだ。霊が寄ってきた事に気づかずにどんどんと話を進めていくから、エネルギーはどんどんと膨らんでいく。最初の方に引き寄せられていた霊はそのエネルギーを吸収して百物語の最後の方にはもう実体を持てる程に力を得てしまう。そのせいで一人多いだの、幽霊が出るだのという話が出てくるんだ。
逆にその力を使って人間を肉体ごと吸収しきってしまって、一人消えたとかなるけどな。」
まるで見てきた事があるかのように語るその内容にゾワリと背筋が震える。
蝋燭一本しかない室内は本当に暗くて隅の方は全く見えない。それどころか話している男の顔も周りに陣取っている他の者の顔すら見えない暗闇だ
彼の落ち着きが無くなっていくのも無理はない。
「それに、こうやって円型に座ることによって中央に霊の降臨場所を作っていることにもなる。
ほら、今も新しくやってきたよ。」
冗談だろうか、男が笑って中央を指差す。
乾いた笑いがそこらから聞こえる。
この笑いがもしかしたら一つくらい幽霊の物なのかもなと、おどけて考える。
彼は怖くなっていた。
「百物語が終わったらちゃんと確認した方がいいよ、人数とか、畳の数とか、後……」
男は長い間を敷いた。
静寂の中、誰もが息を呑んで男の次の言葉を待った。
「蝋燭の数とか、ね……。」
そう言って男はふっと蝋燭を吹き消した。
一気に暗闇に部屋が包まれる。
甲斐性無しの短い悲鳴が聞こえる。
暫く全員で押し黙って様子を伺ったが特に何も起こらない。
「じゃ、じゃあ、電気、つけるぞ。」
誰ともなく立ち上がり照明がつけられた。
見る限り部屋になんの異変もない。
障子をあけて廊下を確認している奴らもいるが、なんの変りもないようだ。
「なんだ、何も起きねぇじゃねぇか。」
安堵のような声が次々とあがる。
「た、大変だっ!!!」
半ば悲鳴のような声があがる。
全員その声の方を見れば、とある男が顔面真っ白で狼狽えている。
「ど、どした!!」
「出たかっ!!?」
「何だ!?」
口々に全員が詰め寄ればその男は口をパクパクさせてこう言った。
「きゅ、九十九人しかいねぇ……。」
その男の言葉に全員が戦慄した。
「ばかな!!?」
「だれか、食われたのかっ!?」
「そ、そんな事あるわけが……」
「なもあみだぶつなもあみだぶつ……」
口々に慄いているとまた一人の男が呟いた。
「い、いや、百人いるぞ……」
「ど、どういうことだ?」
「おい、お前!ちゃんと数えたのか!?」
「いや待て、そいつ本当に百まで数えられるのか?」
「なっ!確かに俺は百姓上がりの足軽で頭の出来はわりぃが、百までは数えられる!!」
「……お前、自分をちゃんと数えたか?」
「……………数えてなかった。」
「な、なんだそりゃあ!!」
恐々とした雰囲気は一転。男の馬鹿さを皆揃って笑った。
数え間違えた男もすまんすまんと笑っていた。
皆、先ほどまでの恐怖などすっかり忘れていた。
大声で笑い、良い気分になって酒でも飲もうかと移動をし始めていた。
だから、誰も気づかなかった……
蝋燭を数える者などいなかった……」
ごくりと隣が唾をのむのが万斉には聞こえた。
空気の張る緊張感に察する。間違いなくここがオチであり、一番重要な、恐怖ポイント。
さぁ、どこからでもかかってこい!!
そんな面持ちで膝の拳を握り締めた。
「畳に転がる蝋燭が全部で____」
パチンと電気がついた。
「!!?」
「!?」
万斉をはじめとし、全員びくっと肩を震わせる。
激しい物音が遠くの方から聞こえた気がする。
「あんたら、こんなに暗くして何してるんだい?」
部屋の入口にて、不思議そうな顔をした似蔵が電気のスイッチに手をかけて立っていた。
「似蔵っ!!」
また子が憤怒する。
「邪魔するなっす!!今めっちゃ良いとこだったんすよっ!!」
「良いとこも何も、あんたら何変な事してるんだい。」
「百物語っすよ!百物語!!!」
「百物語?」
似蔵はあからさまに顔を顰める。
「やめときな、変なモン呼ぶんじゃないよ。」
「いや、幽霊なんて呼べるわけないじゃないっすか。」
万斉は一瞬、腰が抜けていた。
極限まで張りつめていた糸をブツリと斬られたのだ。
「に、似蔵殿、何故ここに?」
しかし、それと同時に得られた明かりに万斉は安堵から脱力する。
まぁ、よく来てくれたそんな気分で似蔵に問うた。
「いや、さっき廊下歩いてたら変な奴がこの部屋から出てきたからさ。」
「変な奴っすか?」
「ひどく気配の薄い、匂いのしない奴だよ。」
「そ、そいつがこの部屋から出てきたというのか?」
「あぁ。」
「……今、全部で何人いるっすか?」
また子の声に万斉は急いで人数を数える。
「97人、そこに拙者とまた子を入れて99人……む?」
「晋助様は?」
一緒に百物語に参加していたはずの高杉の姿が見当たらない。
「とすれば、出て行ったのは晋助か?」
「俺があの人の気配を間違う訳ないだろう。」
「それもそうっすね。」
「あの人なら上にいるよ、ほら。」
似蔵の指の方を見ると、天井に上半身が突き刺さっている高杉がいる。
「し、晋助様ぁ!!?」
「晋助、どうしたんでござるかっ!?」
驚愕し、高杉を見上げる二人。
「い、いや……ヤクルコパラダイスが見えた……。」
パラパラと天井の破片と共にくぐもった声が降ってくる。
「俺が来た時に勢いよく突っ込んでったよ。」
「……晋助、そんなに怖かったのか。」
「……違う。」
「でも天井に__」
「違う。」
高杉は認めない。
「でも、お化けが怖い晋助様もいいっす__」
「違う。」
絶対に認めない。
「……いつまで天井にいるつもりなんだい?」
そう似蔵が言うと高杉は頭を抜いて畳に華麗に着地する。
片足に重心をよらせ煙管を片手に格好をつける。
「晋助__」
「違う。」
「まだ何も言ってないでご__」
「違う。」
「……。」
「違う。」
高杉が据わった目で万斉を睨みつける。
万斉はもう静かにうなずくしかない。
「でも、これでちゃんと百人いるっすよ。」
そうだ。
似蔵が見たという人物は一体何だったのか。
「主の見間違いと言う線は?」
「俺が見間違いすると思うかい」
その可能性は極めて低く思えた。
似蔵の鼻を万斉はよく知っていた。
とすれば、似蔵が会ったというのは本物の……
「ば、ばかげたことを……ゆ、幽霊なんている訳な、ないでござろう。」
「こんなにびびってる万斉先輩初めて見たっす。」
「びびびび、びびっておらぬわっ!!」
「足めっちゃガニ股で震えてるっすよ。」
「む、武者震いっ!!」
「なんて説得力の無い言い訳だろうね」
「うるさいでござる!!」
一喝する万斉。しかしその語尾は情けなく震えている。
「似蔵、ほんとにそいつはこの部屋から出てきたのか」
「あぁ、ケラケラ小さく笑ってたよ。」
笑っていた、なんとも不気味な話ではないか。
「し、しかしでござるよ、本当にこの部屋から出てきたのであれば、戸の開閉音が聞こえてもいいのでは?」
「そんなもん、一度も聞こえてこなかったぞ。」
「確かに、だいぶ静かだったっすし。」
戸の開閉音は確かに似蔵も聞こえなかった。
廊下を歩いていたら急にふっと前に現れた。
その辺りがこの部屋の戸の近くだったからこの部屋から出て来たに違いないと思ったのだ。
それを伝えれば、「似蔵殿の勘違いでござるよ。」「おい、滅多な事言うんじゃねぇよ。」と二人にあからさまに安堵される。
「いや、でもね」
何か否定でも言おうとすれば、がしりと二人に強い力で肩をつかまれる。
なんだがどす黒いオーラが見える。
「「な。」」
「あ、あぁ……。」
こう迫られては首を縦に振るしかない。
どれだけお化けが怖いのか。
いつもは見れない二人の必死な姿に笑いが隠せない。
騒ぐ万斉を見てため息を吐いたまた子の視界にゆらゆら揺れる蝋燭の火が目に入る。
まだ話が終わっていない為に吹き消されずにまだ灯っているのだ。
「そういや、まだ最後の話が途中だったっすね。」
結局その後どうなるんすか、と続きを促して見せるまた子。
「……。」
「……。」
「……。」
また子の問いに全員が辺りをきょろきょろと見回す。
「お前じゃねぇの?」
「いや、俺の隣で話してたのお前だろ?」
口々にお前じゃないのか、俺じゃない。という声が聞こえてくる。
名乗り出てこないのだ。
先ほどまで話をしていた人物が。
「これは、お約束っすね。」
なんてことないようにまた子が感心すらしてみせる。
「じょ、冗談でござろう……。」
上ずった万斉の声が悲壮に響いた。
「……」
ふらっと万斉の隣の高杉が揺らめく。
「晋助っ!!気を確かにっ!!」
高杉を両手で支える。
「ヤクルコワールドが俺を呼んでいる……」
「呼んどらんっ!ヤクルコワールドなぞござらんっ!!戻って来いっ!!」
「ちょっと、お前らさっさと名乗り出るっす!!」
顔面蒼白の高杉を見てられずにまた子が97人に怒鳴る。
しかし、ざわめきが増すばかりで誰も名乗り出てこない。
「拙者らをからかっておるだけであるならさっさと名乗り出ぃ!!今なら許してやることもないでござるよっ!!」
「てめぇら……この俺をからかうなんて良い度胸してやがる……明日のヤクルコ抜きにするぞっ!!!」
最早刀を抜きだしそうな万斉と高杉の剣幕に小さな悲鳴が聞こえる。
「……嘘を吐いてる奴はいないね。」
静かに様子を眺めていた似蔵はそう言った。
「つまり、本当にここにはいないって事っすか?」
「そうなんじゃないかい」
「ってことは、さっき似蔵が出会ったって言う奴がソイツかもしれないっすね。」
「多分ね、でもそうなると百一人になって計算が合わないんだろう。」
「ん~きちんと百人ぴったり揃えたっすし、何度も数えたんで百人で間違いないっす。」
「じゃあ、やっぱり引き寄せちまったんじゃないかい」
「やっぱりそうっすか……」
「……。」
「……。」
淡々と話す二人を万斉と高杉はただただ黙って聞いているしかなかった。
「ちなみにどんな話だったんだい?」
「なんか、自分たちと同じ百物語をしてる奴の話で、なんか百物語は生のエネルギーが集まるから霊たちを引き寄せやすいから、百物語が終わったらちゃんと人数確認とか畳の数とか、後、蝋燭の本数とか数えときななって言ってたっす。それで話が終わって人数数えたら99人しかいないっ!ってなったんっすけど、実際は自分を数え忘れてただけの阿保だったっていうオチで、でもなんかその後に続きがあったぽくって、そこに似蔵がきて中断されたって感じっす。」
「へ~……」
また子の話を聞いて似蔵は暫く考え事をしていた。
「……似蔵?」
「あんたら、蝋燭の数を数えてみたらどうだい。」
「?」
急な似蔵の提案に首を傾げる。
「蝋燭は百本用意したでござるよ。」
「あ、あぁ間違いねぇ、何度も確認したしな。」
必要ないと思うも、何度も似蔵がいいから数えろと言うので全員で蝋燭を数えた。
「90、91、92、93___」
誰もがまた子の声に固唾を呑んで聞き入った。
「97、98、99……100。」
百本目の蝋燭を数え終わると、後ろを振り返って指をさした。
「……101。」
そこには101本目の蝋燭がゆらゆらと火を灯していた。
「……蝋燭、101本あるっすね。」
「ひゃ、百本しか、用意しなかったのでは……?」
「……」
「あんたらの聞いたその話ってのは、本当に100話目だったのかい?」
おわり。
和室に百人集うよう万斉から触れを出しておいた。
夏ということで怪談でもしようかというまた子の提案からだった。
万斉は散々嫌だとのたうち回ったのだが、また子に「先輩怖いんすか?」と嗤みを浮かべて挑発されたものだから二つ返事で了承してしまった。
どうせなら、晋助も道ずr……基い、誘おうかと半ば脅して縛りあげ、無理やり連れて来た。
どうせやるなら本格的にと、百本ちょうどの蝋燭を用意し百人ピッタリを集めた。
蝋燭に火を灯して一人づつ怪談を話していった。
話を終えると蝋燭を吹き消していく。
最初は部屋を十分に灯りが照らしていたが今やすっかり闇で、隣の人物がようやく見えるといった程度だ。
薄闇の中、何とも言えぬ気味の悪さ。
暗闇から何時何とも言えぬ有象無象が出てくることやら。
たらたらと、始まる前から冷や汗が流れている。
大勢の隊員の手前、みっともなく喚き慄くわけにもいかない。
近くの高杉を見るとこちらもいつもと変わらぬ仏頂面。
しかし、その表情は確かに青色であった。
高杉も同じように思っていることだろう。
ついに始まり、百物語。
びくびくと話を聞いていたが、皆、心霊体験などしたことがないのだろう。
どこかで聞いたような話のオマージュがほとんどであった。
とまれ、何とか醜態を晒さずに今のところすんでいる。
何時間経ったか時計を見ることも諦め、今何話目かを数えるのも辞めた。
灯っている蝋燭の残り数を見れば良いだけであったからだ。
そして、コートの背がじっとりと汗で濡れる頃、最後の一本が揺らめく中、話をしているところだ。
「蝋燭を百本用意して百人で輪っかになって話をぽつぽつとし始めた。
少々の眠気を感じながらも最後の話が終わり、最後の一本が吹き消されたと思ったが、まだ蝋燭は一本残っていた。今のが百話目だとばかり思っていたがどうやらまだ残り一話あったようで、船をこいでいた彼はこれで百話目だからと気合を入れ直した。
話を始めた男はこう始めた「これは、俺たちみたいに百物語をしていた奴らの話でな。」
自分たちと同じような設定に彼は自分と話を重ねてしまう。
「この百物語というのは、一種の降霊術としても伝えられているんだ。多くの生が集い意識を一つの物に集中させる。これによって、霊たちにとっては垂涎物の生のエネルギーが大きく溜まっていく。それに引き寄せられて霊たちはやってくるんだ。霊が寄ってきた事に気づかずにどんどんと話を進めていくから、エネルギーはどんどんと膨らんでいく。最初の方に引き寄せられていた霊はそのエネルギーを吸収して百物語の最後の方にはもう実体を持てる程に力を得てしまう。そのせいで一人多いだの、幽霊が出るだのという話が出てくるんだ。
逆にその力を使って人間を肉体ごと吸収しきってしまって、一人消えたとかなるけどな。」
まるで見てきた事があるかのように語るその内容にゾワリと背筋が震える。
蝋燭一本しかない室内は本当に暗くて隅の方は全く見えない。それどころか話している男の顔も周りに陣取っている他の者の顔すら見えない暗闇だ
彼の落ち着きが無くなっていくのも無理はない。
「それに、こうやって円型に座ることによって中央に霊の降臨場所を作っていることにもなる。
ほら、今も新しくやってきたよ。」
冗談だろうか、男が笑って中央を指差す。
乾いた笑いがそこらから聞こえる。
この笑いがもしかしたら一つくらい幽霊の物なのかもなと、おどけて考える。
彼は怖くなっていた。
「百物語が終わったらちゃんと確認した方がいいよ、人数とか、畳の数とか、後……」
男は長い間を敷いた。
静寂の中、誰もが息を呑んで男の次の言葉を待った。
「蝋燭の数とか、ね……。」
そう言って男はふっと蝋燭を吹き消した。
一気に暗闇に部屋が包まれる。
甲斐性無しの短い悲鳴が聞こえる。
暫く全員で押し黙って様子を伺ったが特に何も起こらない。
「じゃ、じゃあ、電気、つけるぞ。」
誰ともなく立ち上がり照明がつけられた。
見る限り部屋になんの異変もない。
障子をあけて廊下を確認している奴らもいるが、なんの変りもないようだ。
「なんだ、何も起きねぇじゃねぇか。」
安堵のような声が次々とあがる。
「た、大変だっ!!!」
半ば悲鳴のような声があがる。
全員その声の方を見れば、とある男が顔面真っ白で狼狽えている。
「ど、どした!!」
「出たかっ!!?」
「何だ!?」
口々に全員が詰め寄ればその男は口をパクパクさせてこう言った。
「きゅ、九十九人しかいねぇ……。」
その男の言葉に全員が戦慄した。
「ばかな!!?」
「だれか、食われたのかっ!?」
「そ、そんな事あるわけが……」
「なもあみだぶつなもあみだぶつ……」
口々に慄いているとまた一人の男が呟いた。
「い、いや、百人いるぞ……」
「ど、どういうことだ?」
「おい、お前!ちゃんと数えたのか!?」
「いや待て、そいつ本当に百まで数えられるのか?」
「なっ!確かに俺は百姓上がりの足軽で頭の出来はわりぃが、百までは数えられる!!」
「……お前、自分をちゃんと数えたか?」
「……………数えてなかった。」
「な、なんだそりゃあ!!」
恐々とした雰囲気は一転。男の馬鹿さを皆揃って笑った。
数え間違えた男もすまんすまんと笑っていた。
皆、先ほどまでの恐怖などすっかり忘れていた。
大声で笑い、良い気分になって酒でも飲もうかと移動をし始めていた。
だから、誰も気づかなかった……
蝋燭を数える者などいなかった……」
ごくりと隣が唾をのむのが万斉には聞こえた。
空気の張る緊張感に察する。間違いなくここがオチであり、一番重要な、恐怖ポイント。
さぁ、どこからでもかかってこい!!
そんな面持ちで膝の拳を握り締めた。
「畳に転がる蝋燭が全部で____」
パチンと電気がついた。
「!!?」
「!?」
万斉をはじめとし、全員びくっと肩を震わせる。
激しい物音が遠くの方から聞こえた気がする。
「あんたら、こんなに暗くして何してるんだい?」
部屋の入口にて、不思議そうな顔をした似蔵が電気のスイッチに手をかけて立っていた。
「似蔵っ!!」
また子が憤怒する。
「邪魔するなっす!!今めっちゃ良いとこだったんすよっ!!」
「良いとこも何も、あんたら何変な事してるんだい。」
「百物語っすよ!百物語!!!」
「百物語?」
似蔵はあからさまに顔を顰める。
「やめときな、変なモン呼ぶんじゃないよ。」
「いや、幽霊なんて呼べるわけないじゃないっすか。」
万斉は一瞬、腰が抜けていた。
極限まで張りつめていた糸をブツリと斬られたのだ。
「に、似蔵殿、何故ここに?」
しかし、それと同時に得られた明かりに万斉は安堵から脱力する。
まぁ、よく来てくれたそんな気分で似蔵に問うた。
「いや、さっき廊下歩いてたら変な奴がこの部屋から出てきたからさ。」
「変な奴っすか?」
「ひどく気配の薄い、匂いのしない奴だよ。」
「そ、そいつがこの部屋から出てきたというのか?」
「あぁ。」
「……今、全部で何人いるっすか?」
また子の声に万斉は急いで人数を数える。
「97人、そこに拙者とまた子を入れて99人……む?」
「晋助様は?」
一緒に百物語に参加していたはずの高杉の姿が見当たらない。
「とすれば、出て行ったのは晋助か?」
「俺があの人の気配を間違う訳ないだろう。」
「それもそうっすね。」
「あの人なら上にいるよ、ほら。」
似蔵の指の方を見ると、天井に上半身が突き刺さっている高杉がいる。
「し、晋助様ぁ!!?」
「晋助、どうしたんでござるかっ!?」
驚愕し、高杉を見上げる二人。
「い、いや……ヤクルコパラダイスが見えた……。」
パラパラと天井の破片と共にくぐもった声が降ってくる。
「俺が来た時に勢いよく突っ込んでったよ。」
「……晋助、そんなに怖かったのか。」
「……違う。」
「でも天井に__」
「違う。」
高杉は認めない。
「でも、お化けが怖い晋助様もいいっす__」
「違う。」
絶対に認めない。
「……いつまで天井にいるつもりなんだい?」
そう似蔵が言うと高杉は頭を抜いて畳に華麗に着地する。
片足に重心をよらせ煙管を片手に格好をつける。
「晋助__」
「違う。」
「まだ何も言ってないでご__」
「違う。」
「……。」
「違う。」
高杉が据わった目で万斉を睨みつける。
万斉はもう静かにうなずくしかない。
「でも、これでちゃんと百人いるっすよ。」
そうだ。
似蔵が見たという人物は一体何だったのか。
「主の見間違いと言う線は?」
「俺が見間違いすると思うかい」
その可能性は極めて低く思えた。
似蔵の鼻を万斉はよく知っていた。
とすれば、似蔵が会ったというのは本物の……
「ば、ばかげたことを……ゆ、幽霊なんている訳な、ないでござろう。」
「こんなにびびってる万斉先輩初めて見たっす。」
「びびびび、びびっておらぬわっ!!」
「足めっちゃガニ股で震えてるっすよ。」
「む、武者震いっ!!」
「なんて説得力の無い言い訳だろうね」
「うるさいでござる!!」
一喝する万斉。しかしその語尾は情けなく震えている。
「似蔵、ほんとにそいつはこの部屋から出てきたのか」
「あぁ、ケラケラ小さく笑ってたよ。」
笑っていた、なんとも不気味な話ではないか。
「し、しかしでござるよ、本当にこの部屋から出てきたのであれば、戸の開閉音が聞こえてもいいのでは?」
「そんなもん、一度も聞こえてこなかったぞ。」
「確かに、だいぶ静かだったっすし。」
戸の開閉音は確かに似蔵も聞こえなかった。
廊下を歩いていたら急にふっと前に現れた。
その辺りがこの部屋の戸の近くだったからこの部屋から出て来たに違いないと思ったのだ。
それを伝えれば、「似蔵殿の勘違いでござるよ。」「おい、滅多な事言うんじゃねぇよ。」と二人にあからさまに安堵される。
「いや、でもね」
何か否定でも言おうとすれば、がしりと二人に強い力で肩をつかまれる。
なんだがどす黒いオーラが見える。
「「な。」」
「あ、あぁ……。」
こう迫られては首を縦に振るしかない。
どれだけお化けが怖いのか。
いつもは見れない二人の必死な姿に笑いが隠せない。
騒ぐ万斉を見てため息を吐いたまた子の視界にゆらゆら揺れる蝋燭の火が目に入る。
まだ話が終わっていない為に吹き消されずにまだ灯っているのだ。
「そういや、まだ最後の話が途中だったっすね。」
結局その後どうなるんすか、と続きを促して見せるまた子。
「……。」
「……。」
「……。」
また子の問いに全員が辺りをきょろきょろと見回す。
「お前じゃねぇの?」
「いや、俺の隣で話してたのお前だろ?」
口々にお前じゃないのか、俺じゃない。という声が聞こえてくる。
名乗り出てこないのだ。
先ほどまで話をしていた人物が。
「これは、お約束っすね。」
なんてことないようにまた子が感心すらしてみせる。
「じょ、冗談でござろう……。」
上ずった万斉の声が悲壮に響いた。
「……」
ふらっと万斉の隣の高杉が揺らめく。
「晋助っ!!気を確かにっ!!」
高杉を両手で支える。
「ヤクルコワールドが俺を呼んでいる……」
「呼んどらんっ!ヤクルコワールドなぞござらんっ!!戻って来いっ!!」
「ちょっと、お前らさっさと名乗り出るっす!!」
顔面蒼白の高杉を見てられずにまた子が97人に怒鳴る。
しかし、ざわめきが増すばかりで誰も名乗り出てこない。
「拙者らをからかっておるだけであるならさっさと名乗り出ぃ!!今なら許してやることもないでござるよっ!!」
「てめぇら……この俺をからかうなんて良い度胸してやがる……明日のヤクルコ抜きにするぞっ!!!」
最早刀を抜きだしそうな万斉と高杉の剣幕に小さな悲鳴が聞こえる。
「……嘘を吐いてる奴はいないね。」
静かに様子を眺めていた似蔵はそう言った。
「つまり、本当にここにはいないって事っすか?」
「そうなんじゃないかい」
「ってことは、さっき似蔵が出会ったって言う奴がソイツかもしれないっすね。」
「多分ね、でもそうなると百一人になって計算が合わないんだろう。」
「ん~きちんと百人ぴったり揃えたっすし、何度も数えたんで百人で間違いないっす。」
「じゃあ、やっぱり引き寄せちまったんじゃないかい」
「やっぱりそうっすか……」
「……。」
「……。」
淡々と話す二人を万斉と高杉はただただ黙って聞いているしかなかった。
「ちなみにどんな話だったんだい?」
「なんか、自分たちと同じ百物語をしてる奴の話で、なんか百物語は生のエネルギーが集まるから霊たちを引き寄せやすいから、百物語が終わったらちゃんと人数確認とか畳の数とか、後、蝋燭の本数とか数えときななって言ってたっす。それで話が終わって人数数えたら99人しかいないっ!ってなったんっすけど、実際は自分を数え忘れてただけの阿保だったっていうオチで、でもなんかその後に続きがあったぽくって、そこに似蔵がきて中断されたって感じっす。」
「へ~……」
また子の話を聞いて似蔵は暫く考え事をしていた。
「……似蔵?」
「あんたら、蝋燭の数を数えてみたらどうだい。」
「?」
急な似蔵の提案に首を傾げる。
「蝋燭は百本用意したでござるよ。」
「あ、あぁ間違いねぇ、何度も確認したしな。」
必要ないと思うも、何度も似蔵がいいから数えろと言うので全員で蝋燭を数えた。
「90、91、92、93___」
誰もがまた子の声に固唾を呑んで聞き入った。
「97、98、99……100。」
百本目の蝋燭を数え終わると、後ろを振り返って指をさした。
「……101。」
そこには101本目の蝋燭がゆらゆらと火を灯していた。
「……蝋燭、101本あるっすね。」
「ひゃ、百本しか、用意しなかったのでは……?」
「……」
「あんたらの聞いたその話ってのは、本当に100話目だったのかい?」
おわり。
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