【短編】鬼兵隊【五人】
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「ふぅ……」
男が一人煙管を吸っている
「はぁ……」
吐き出された煙は燻りながら開けられた窓から陽を受けて煌きながら空へと溶けていく
窓辺にもたれ気怠げに睫毛を伏せるその姿は
背後に月でも浮かべれば美しく妖艶な名画とでもなるだろう
今現在バックに浮かぶは清々しい青空にポツンと橙をほんのりと縁に帯びた白い太陽
その爽やかな明かりに晒されて男の影が一層濃くなっている
「ふぅ……」
男がもう一度煙管に口をつけた時
__バン!
一発の銃声が男の耳まで届いてきた
「?」
__バンッ!ババンッ!!
続けて何度も何度も
ただ事では無いとゆっくり腰をあげる
__バンッ!!
廊下を覗くと人集りが奥の方に出来ている
__バンッ!
敵襲かと片目だけの瞳をこらす
集まっている人々は刀を構える様子もなく
どうやら敵が攻めてきたわけでも無いようだ
__バンッバアッン!!
だが銃声は相変わらず響いてる
敵襲ではないと言うのになぜ
人集りに近づくと皆一様に不安そうな顔をして同じ方を見つめているのが分かる
だが、どうにも長身の奴ばかりで何を見ているのか男は身長という壁に阻まれて様子を伺うことはできない
「おい」
「……!? そ、総督!?」
声をかけると振り向いた男が飛び跳ねるように驚いた
「え!?」
「総督だ……!」
その声を聞き周りの男達が総督の存在に気づいた
「何してやがる……?」
「実は……」
事を飲み込めず不可解な顔して問うて見れば
男は周りと顔を見合わせながらモドモドとなにかを言いあぐねているようだ
__バンッババンッ!!
一際銃声が大きく聞こえた
(これは……また子か?)
男達が退けた為その先の景色が見えるが
ただいつものように廊下が伸びているばかり
__バンッ!!
銃声が聞こえてきたのは廊下に繋がる一つの部屋
(あそこは確か万斉や武市達のいる居間じゃねぇか)
つい最近、もう年も終わると倉庫から炬燵を引っ張り出してあそこの部屋に設置したのだ
最も炬燵設置するなんやかんやは全て似蔵がやったのだが
冬の冷え込む夜には五人でコタツムリとなるのが最近である
歳のせいか冷える似蔵や女性で低体温のまた子はもちろん
昨夜は武市や万斉までもが書類を持ち込んで仕事をしていた
あの部屋から銃声が聞こえているとするならば十中八九また子であろう
(また武市が何かやらかしたか……)
大方ロリコン発言でもしたのだろう
二人が戯れ合い銃弾をぶっ放す景色が見て取れる
気にするほどでも無かったなと
煙管を咥えなおし踵を返した
すると
__ドッシャアアアン!!
背後から激しい物音が聞こえてきた
何事かと振り向けば
先程まですっかり何も無かった廊下に部屋から飛び出した何かが散乱している
舞う埃に混じり木枠に紙が貼り付けられているボロボロの物体だ
あそこの入り口は障子が貼られていたはず
恐らくあれは無残な姿になった障子なのだろう
「いってぇ……」
障子の残骸と埃の中から声が聞こえた
「レディを吹っ飛ばすなんて!!」
ひょこんと黄色が頭を覗かせた
また子だ
障子の欠片を髪に絡ませて怒った様子で銃を構えている
「また子さん、その様子でレディと言われましてもねぇ」
武市のやけに冷静な声が室内から聞こえてきた
「信じられないっす!最低っす!!」
憤りながら両手の引き金に手をかけた
__ババンッ!
二つの筒口から銃声が飛ばされる
先程から響いている銃声はやはりまた子のものだ
「あっぶないねぇ!」
キンっと金属と金属が当たり合う音がして
部屋の中に向かって放たれた銃弾に対してか
室内から似蔵の声が聞こて来る
「そのまま死ねっす!!」
銃口から硝煙を揺らめいてる中
再度撃鉄を下ろす
また子は叫びながら再び部屋へと戻っていった
__ババンッ!
人がいなくなった廊下には障子の残骸が残された
(何やってんだあいつら……)
その様子を冷めた目で見守っていた
幹部連中が三人も喧嘩してれば
そりゃ他の隊員達は手を出せない
流れ弾に当たらぬよう、被害を被らぬよう
このように離れた位置で見守るしか術は無い
(何してんだあいつらは……)
また子と武市と似蔵の三人だ
いつもの事とは言えどまた子の形相と吹っ飛ばされ巻き込まれた哀れな障子を見るに
普段より幾分か激しい気もする
(万斉はどこ行った……)
三人の騒動を止められるのはアイツしかいない
同じ部屋にいなかったのだろうか
万斉を探そうとアイツの居そうな場所を思い浮かべた
その時
ビュンッと風を切りながら黄色い紐のような物が室内から廊下に一直線に伸びてきた
紐は天井を這っている太いパイプにグルリと巻きついた
(あれは……)
見覚えのあるソレ
(弦、だよな……)
まさかと、嫌な予感が頭を走ったと同時に
その弦を伝うよう室内から廊下へと人影があがっていった
「ふっ……正に古い時代にしがみつく老害と言うのは見ていて見苦しいものだな」
鼻で笑いながら天井に固定された弦を支えにぶら下がっているのは
(お前もか……万斉……)
思わず目を見開いて口を開けて天井を仰いでしまった
いつもの薄ら笑いもどこかに消えた
(お前までそっちに行っちまったら誰か止めんだよ!?)
珍しく驚愕に表情を染めていると部屋の中からもう一つの人影がでてきた
「ほぉ?老害とは言ってくれる、お前さんら近頃の若い奴らは礼儀ってモンを知らないみたいだねぇ」
ケラケラと笑いながら余裕の足取りで似蔵が登場した
「ふんっ!!」
万斉が弦からの支えを手放し似蔵に天井から斬りかかった
__ギィン!
鈍い音を響かせながら似蔵も抜き身でその刃を受ける
「教養など無いに等しいお主に礼儀の話をされるとはなぁ!!」
「少なくともアンタよりは分別ってのを知ってるつもりさね!!」
ギュリギリと刀同士が擦れる音がこちらまで響いてきている
鬼兵隊のNo.1とNo.2の人斬り達の登場に周りのどよめきが一層大きくなる
二人の形相は本気のようで
その意気に負けた何人かがジリと後ずさる
ピリッと研ぎ澄まされた二つの殺気が肌を刺す
(こいつら、何をそんなに本気になってやがるんだ……)
二人の馬が合わないこともいつもの事
軽口の叩き合いから刃物を交えての喧嘩なども日常茶飯事
気にすることなど無い
一笑に伏してこの場を立ち去ることもできる
だが、あの二人といい先程のまた子といい
何やらそう簡単に終わらせていいことではなさそうだ
(一体何があったってんだ……)
高杉が遠い目をしている間
二人は互いに刀で押し合っている
力はどちらも同じようで均衡が保たれたまま刀ばかりが悲鳴をあげている
「ふん!!」
ぐいっと似蔵が力をさらに込めたようで
ズリリと万斉が後ろへと押されていく
均衡が崩れた
畳み掛けるよう似蔵は刀を力強く押し出した
万斉は足を踏ん張りこれ以上押されることのないように耐えるが
力負けし上半身がググッと後ろに反れていく
「くっ!」
このままだと押し斬られると刀を横に弾き一歩下がって似蔵から離れた
弾かれた衝撃で一歩似蔵が揺らいだ
ビュンっと万斉から弦が発射される
ギュルギュルと擦れながらまたもやパイプに絡み付く
似蔵はその様子を感じ弦を斬ろうと刀を振り上げたが
ギンっと音を立てて万斉によって防がれた
「ちっ!」
忌々しげに舌打ちして身体を逆に回転させて万斉を横斬りにしようとした
だが、万斉は弦を手首にしっかりと巻き付け天井のパイプを支えに空へと浮かび斬撃を避ける
ぶら下がっているパイプを軸にし廊下の壁を蹴り勢いをつけ弦から手を離し似蔵へと蹴り食らわせる
似蔵は空を裂いて襲ってくる蹴りを感知し腕で前面を覆い衝撃を受け止める
ガードされ支えも何もないまま空中に浮いている万斉に刀を振り上げた
万斉は頭を下に降ろし手を床について逆立ちの状態となった
振り下ろされる刀を真剣白羽取りよろしく
ブーツの硬い踵の部分で挟み込み受け止める
そのまま挟み込んだ刀ごと足を降ろし元の体勢戻り似蔵の得物奪おうとする
刀を引っ張られ持っていかれると似蔵は気付き握り直すが勢いに勝てない
かといってこのまま素直にくれてやるのも面白くない
抵抗すべく逆立ちから戻りかけていた万斉の背中を強く蹴った
「ぐっ!?」
軽いうめき声をあげて万斉が吹っ飛ばされる
ドンッと鈍い音と共に壁に叩きつけられた
だがその勢いのまま刀も似蔵の手から離れどこかにカチャンと音を立てて転がってしまう
「ちっ!」
不味い、とどこに行ったのか刀に意識を集め探す
「はっ!!」
その隙につけこみ壁にと叩きつけられていた万斉が復活し似蔵へと斬りかかる
「くっ!!?」
それに気付き慌てて身を捻り大きく動いて回避するも
ピッと頬に刃が掠った
「ふん、よそ見は厳禁でござるよ」
その微かな手応えに愉しげに万斉がわらう
「はっ、丸腰相手に偉そうに……」
似蔵は刀を失ったにも関わらず万斉と同じように愉しげにわらっていた
いつもと変わらぬ二人のようすに少し
ほんの少し高杉は胸を撫で下ろす
「岡田さん!刀はそこから数歩下がったところにありますよ!!」
室内から大きな武市の声が聞こえてきた
「!?」
似蔵はその声を受け振り向き駆け出した
「待てっ!」
似蔵が刀を取り戻すことを万斉も同様に走り出した
後二、三歩で刀に手がという時に
万斉が腕を伸ばす
ビュンと風を切る音が似蔵の背後から聞こえてくる
「!」
後ろを振り向くまもなく危険だと告げた勘に従いごろりと床を転がる
頭上を鋭く何かが通りすぎていった
鼻の根本にこびりつくような獣のほのかな匂い
おそらく弦であろう
転がりながら刀の柄を握った
「ちっ!」
万斉の舌打ちが聞こえるとギュンっと弦が仕舞われていく
似蔵は体勢を起こし顔をあげる
万斉が刀を構え走ってきているのがわかった
こちらも腰を落として刀を一度鞘に納めた
どちらも精神が研がれている
ピリリとこちらにまで二人の覇気が伝わってくる
(次で決まるか……)
呆れて見物していた高杉もいつの間にか
煙管に口をつけるのを忘れて二人の真剣勝負に見入っていた
「はああああ!!」
気を込める意味で腹から声を出す
相手は鞘に抜き身をしまった
得意の居合いで来るのだろう
こちらも柄を握り直し
いつでも動けるよう弦を袖の下でセットしなおす
「ふぅ……」
一方似蔵は静かに深呼吸し気を整える
ふわりと柄に手を添え万斉の足取りを感じとる
五感を尖らせじっと伺う
見物している高杉には万斉一歩一歩が遅く見える
空気が張り詰めているのだ
周りの隊員達の緊張も肌で感じられた
ダンッと万斉の一歩がやけに大きく響く
似蔵が柄に置いた手に力を入れる
キラリと波紋が光を受けたのが見えた
その時
万斉の背中に被るよう高杉の視界にピンクの影が移る
__バンッ!!
聞こえてきたのは一発の銃声
走っていた万斉のすぐ横をそのまま通りすぎる
__キンッ!!
似蔵が反射的に刀を抜き銃弾を叩き落とす
「フンッ!」
似蔵が銃弾に気をとられている間
万斉は強く床を踏み込み跳び上がる
「!」
似蔵は万斉を見上げ刀を前にかざすようにして万斉の刀を受け止める
__ギィン!!
二人はまたもや刀を合わせギリギリと火花を散らす
だが上から力をかけている万斉の方が力が込も
似蔵の腰は力負けし段々と低くなっていく
__バンッ!!
また背後で銃声が聞こえたが
銃弾が襲ってくる気配はない
「先輩!!いつまで手こずってるんすか!?そんな老人パパっと三枚に卸して下さいっす!!」
__バンバンッ!!
また子がどやすように天井へと銃口を向けて引き金を引いている
「分かっておるでござるよ!こんなご老人四枚でも五枚でも卸してみせるでござるよ!!」
現在の状況的に優位だからか似蔵見下しながらニヤリとわらう
「どいつもこいつも人のこと捕まえて老人老人と……」
ギロリと万斉を見上げてやる
「うるさい奴らだねっ!!!」
怒声と共に刀を押し上げてやる
勢いに負け一歩二歩と万斉が後ずさった
似蔵は逃さぬと距離を詰める
しかし、
__バンッ!!
「ちっ!」
また子による援護射撃の為万斉に近寄れず迫撃が出来ない
__バンッバンッ!!
続けられる射撃に避けるなり切り落とすなりで対処する
その間に万斉はすっかり体勢を建て直していて
前線に刀を構える万斉
後方で援護に回るまた子
二対一のこの状況
かなり不利だと似蔵は眉根をさらに深める
「多対一とはちょいと卑怯じゃないかい?」
「何言ってるんすか?ちゃんと二対二っすよ」
また子が顎をこちらにやるので不思議に思い振り向くと
「いいえ、戦力的にあなた方は強すぎです」
いつの間に移動したのか背後に武市が佇んでいた
「そうだよ、武市は戦力的に無いに等しいからね」
「事実ですが言い方を考えていただきたいです、岡田さん……」
元からのじと目が似蔵を見つめる
「だが、二人は二人。文句など言わせぬでござる」
「おいおい、正気かい?こいつはせいぜいお前さんらを苛立たせるくらいしか脳が無いんだよぉ?」
「それでも十分っす、てか姿見るだけで拳銃に手が伸びるんで効果は抜群すよ」
「あなた方次の任務で覚えておいて下さいよ……」
先程まで一切姿を見せていなかった武市も現れ
廊下には四人の姿が見られる
その様子を見守っていた高杉は
先程までこの戦いを最後まで見届けようと思っていたが
武市の顔を見た途端
先程までの呆れの感情がぶわりと鯨波のごとく甦る
あまりの勢いに呆れ通り越して若干怒りを覚えてきた
(てめぇら、大晦日だってのに何してやがるんだ……)
四人が向かい合う廊下には障子の残骸はもちろん
なにやら橙色をした蜜柑のようなものも廊下へとオレンジの果汁をぶちまけられている
それも複数
床板は濡れ焦げ茶に変色してしまっている
今すぐ拭かないとベタついてしまうだ
「さっさと決着を着けてしまうでござる、時間もそうござらん」
「ふん、言われるまでもないさね。俺の居合いで即終わらせてやるよ」
「岡田さん、無理は言わない方がよろしいかと」
「お前さんは俺の味方だろ?」
「そうだったんですけどね……あなたも随分なことを言ってくれましたからね」
「先輩!あっちのチームワークはグダグダッす!さっさと倒すっす!!」
高杉の気も知らず
四人は各々得物構える
「はああああ!!」
「うおおおおお!!」
また子万斉が雄叫びあげ
「……」
「……ふぅ」
武市似蔵は静かに構える
またもや戦いが始まるのかと
戦場が廊下へと変わり
被害がこちらまで襲ってくると思ったのか
高杉と共に見守っていた男達が次々と背を向け始めた
バタバタと逃げ行く男達とは反対に高杉は四人へと近づいていった
裸足がペタりペタりと床を踏む
四人の一触即発という状況に水を刺すべく
向かっている途中
__グチャリ
足裏に冷たい感触
足元に視線を下ろせば
オレンジ色の物体が裸足の裏にベットリ
「………」
それを見たままフリーズしていると
「高杉殿!!」
武市が高杉の姿を見留める
「!?」
「え!?」
「!?」
三人もその声を聞いて高杉を見つける
蜜柑を踏みつけてしまった高杉を
「し、晋介様……」
また子が気まずそうに名を呼ぶ
残りの三人も先程の覇気はどこへやら
じっと高杉を見つめた
「晋介……」
ずっと足裏を見ていた高杉が顔をあげる
「てめぇら……何してやがんだ……?」
その冷たい声に万斉や似蔵までもが背筋が震える
絶対零度の冷気を含んだ地を這うような低温が四人を襲った
*
「……はぁ?大晦日にどの番組見るかで揉めてただぁ?」
珍しく間の抜けた声を高杉が大きく響かせる
四人は正座させられビクリと肩を震わせた
「そんなふざけた理由で居間がこんなになってんのか?」
高杉が腕を広げて示すのは
たくさんの物が散乱し炬燵はひっくり返り
ミカンはあちらこちらへと転がっている
「こんなに散らかしやがって、あの染みなんて見てみろ」
真っ白な壁に叩きつけられているのかオレンジの染みができている所も少なくはない
この染み抜きをするのにどれだけ労力を必要とするのか
考えただけで頭が痛くなる
「あれ落とすのにどれだけ大変か、分からねぇ訳じゃねぇだろうが……特に武市」
「申し訳ない……」
名を呼ばれ申し訳なさそうに肩を狭める
「蜜柑を投げていたのは似蔵とまた子だけでござるよ、武市だけを責めるのは違うでござる」
「そうっすよ!それに自分は食べ終わった皮しか投げてないっす!身入りを投げたのは似蔵っす!」
「何言ってんだい!お前さんだって投げてたんだから同罪だろう!?」
「というか万斉さんも投げてましたよね?」
「なっ!折角主を庇ったというのに酷い仕打ちでござる!」
子供のように口々に罪を擦り付け合う
「黙れ……てめぇら全員同罪だ」
高杉の一睨みに全員が黙った
「……で?どういう経緯でこんなことになったんだ?」
高杉が問うと四人は気まずそうに顔を見合わせている
「今さら思い返すと番組取り合いなど誠に下らない事なのでござるが……」
おずおずと万斉が口を開いた
「なんだ分かってるじゃねぇか」
「実は……」
*
「いやぁ~炬燵はやっぱいいっすね」
「うむ、大晦日はこれに限るでござる」
「武市、蜜柑剥いとくれ」
「またですか……」
数時間前
四人は何時ものように炬燵に籠っていた
「ん~人に剥いてもらう蜜柑は美味いね」
「私は蜜柑剥き係ではないのですよ……そういう機械でも今度買いましょうかね」
「何言ってんだい、あんたが剥くから美味いんだろう」
「二人とも何カップルみたいにいちゃついてるんでござるか」
「キモいっす、オッサンズ」
このように軽口叩きながら戯れ合いながら年越しを待っていた
この時の居間はまだキレイで炬燵もひっくり返ってなければ蜜柑も綺麗に机の真ん中の篭に積まれている
事の発端はまた子の一言
「今夜楽しみっすね、ガキ使」
「は?」
「はい?」
それに反応したのが武市と似蔵
「何言ってるんだい?」
「今夜は紅白見るのでは?」
「何言ってるんすか?」
「無論今夜はガキ使を見る予定でござろう?」
「だれがそんなこと言ったんだい?」
四人の間に緊張が走った
「今夜はガキ使っすよね?」
「紅白の間違いだろう?」
「まさか、本気で紅白を見るとでも言うのでござるか?」
「もちろんですよ……」
バチンっと今度は火花が散った
ガキ使が見たいまた子、万斉の若者チームと紅白が見たい武市、似蔵の年長チームの二つの勢力が誕生した瞬間だった
*
「その後本気の番組の取り合いが始まったと、こういう訳だな……」
「そうっすね……」
オドオドとまた子が目を伏せながら返事する
「くっだらねぇな、そんなことでてめぇらマジになってあんなことしてやがったのか……」
シュンと高杉に叱られまた子がしょげる
「ごめんなさいっす……」
また子が悲しそうにするので高杉もこれ以上怒るのも気が引けた
「……はぁ」
怒りをため息に変えた
正座させた四人を見渡すと全員がすまなそうに首を竦めているので
もういいかと高杉は仁王立ちにしていた腰をおろす
「さっさと片付けしろ……もうすぐで陽が沈む」
ばっと似蔵とまた子が瞬時に立ちあがり
「了解っす!」
「わかったよ!」
声を揃えて返事をする
声が被ったことが気に食わないらしく互いに睨み合う
「ククッ……仲いいじゃねぇか」
高杉が喉を鳴らしてわらうと二人は互いにそっぽを向いた
「片付けをするのは当然ですが、結局大晦日、一体どの番組を観るのか決まってないのですが……」
「その通りでござる、決着は着いておらぬ」
素直な二人とは違い万斉や武市は今夜の番組は何を観るのかハッキリさせたいようだ
「そうっす!晋介様はどっちがいいっすか!?」
「紅白もガキ使も二人づつ、あんたの意見で決まるんだよ」
「拙者達はガキ使」
「私たちは紅白です」
「晋介様はどっちすか!?」
「……」
四人の期待に満ちた瞳が高杉を捉える
「……俺はナスD派だ」
「「は?」」
高杉の予想外の一言に四人は声を合わせる
「無人島生活見るんだよ今年は……」
「「「「無人島生活!?」」」」
「お前ら……仲いいじゃねぇか……」