【腐向け】河上万斉×岡田似蔵【短編】
こちらから名前を入力下さい
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「似蔵殿。」
夏祭りに行こう。
そう言われたって、似蔵が頷くわけがない。
「そう言わずに、楽しいでござるよ。」
「人混みは苦手だよ。」
「大丈夫でござる。拙者がどうにかする故に。」
「どうにかって何だい?斬り殺して減らしてくれるってのかい?」
「そんな事すれば祭りが中止になっちゃうでござろう?」
なんだかんだ嫌だ嫌だと言っていた似蔵だったが、結局は万斉に根負けして夏祭りに赴いた。
祭りは、鬼兵隊のアジトの割と近くで行われていた。
「本来であれば山奥故に人が滅多に来ぬのだが、祭りの時は違うようでござるな。」
出歩く二人の周りには、目的地が同じらしい一般人がぞろぞろと歩いている。
「おい、大丈夫なのかい。俺達は尋ねもんだよ。」
あまりに堂々と肩を並べて歩くものだから、似蔵は通報されまいかと心配になる
「案外他の者の顔など見ないものでござるよ。手配書も同様。見るのは交番勤めのお巡りか暇人か、猫くらいのもんでござろう。」
「そんなもんかねぇ……。」
それでも落ち着かない様子の似蔵。これではせっかくの祭りを心から楽しんではくれないだろう。
「そこまで不安であれば、この先に良い物が売っているでござるよ。」
「?」
それは一体何だろうか、と思案しながらも似蔵は案外万斉に大人しくついて来ていた。
いよいよ鳥居をくぐり、社までの石畳の道は人で一杯だ。人々の騒めきや子供特有の甲高い声、更にはアレを買ってくれとごねる幼子の泣き声まで。
(うるさいな。)
ほれみろ、と言いたくなった。
ここは人の気配が強すぎる。甘い匂いも、しょっぱい匂いも、全てがこんがらがって、臭ってきて、むかむかして、本当に不快だ。
この混雑の中、人の合間を縫うように、時には押しのけて駆け抜けていく子供たち。彼らが似蔵の脇を走りすぎるとき、後の方の男子に素足を思いっきり踏まれた。軽い外出のつもりだったので足袋を履いていない。地味にではあるが痛い。
(来るんじゃなかった。)
最悪の気分だ。
こんな最低の場所に連れてきてくれた万斉に一言悪態吐いてから帰ってやろうかと思った。
だが、彼はいなかった。隣にも、後ろには、前にも、どこにも。
「河上?」
返事はない。探そうにも、ここは人が多くて、うるさくて、彼の気配が分からない。
人の流れに乗れず、立ち止まった似蔵を人の波は避けていく。なんだか随分と独りになってしまったような気がした。
一瞬、ほんの一瞬、心細くなった。
「ばんさ__」
「いや、すまんすまん。」
ふと背後から声をかけられた。
「ぱぱっと行って買ってくるだけだと思ったのだが、なにせ人が多くてな。」
「勝手にいなくなるな。」
「すまぬ。ほら、」
そう言って万斉から手渡されたのは、
「面、かい?」
狐の形を模した面であった。
似蔵に渡されたのは黒い狐面。万斉は白い狐面であった。
「あぁ、主が気にするからな。これで隠せばなんの問題もなかろう。」
「面ってあんた、ガキじゃないんだから、」
「縁日でくらい童心に帰ってもよかろう。」
楽しもうぞ。
そう言って何かを口に突っ込まれる。
甘い。
「ふふ、イチゴ飴だ。」
「……こういうのって普通、林檎飴じゃないのかい?」
「あれはデカい上に味もいまいちであろう」
「そうかい?」
「流行りはイチゴ飴でござる。」
「ふーん。」
そのまま歩き出した似蔵。
後ろから手を掴まれた。不思議そうに万斉を見る。
「先ほどの拙者のようにどこかに行かれても困る。」
そう笑うとそのまま手をつないで肩を並べる。
「ガキじゃあるまいし。」
似蔵は嫌な顔をした。
「はぐれたら困る。」
口実だと分かっていた。
その手を振りほどかなかった。
2/2ページ