【夢】紅桜になって似蔵を救うお話
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男は一人。
自室にて新しく手に入れた鞘に入れられてた得物を眺めていた。
と言っても、盲目のこの男は鞘に施されている意匠も握り手の模様も見えない。
彼は紅桜の外装を眺めているわけではない。
人工知能を搭載されている刀ということで、人工知能とやらはどういう物なのか覗いてみようとしたのだ。
紅桜に集中してみると、ほんの僅かだが人間と同じものが感じられる。
「あんたも生きてんのかい。」
それは確かにそこらの生者と変わらぬ物だった。
しかし、それ以上に希薄ですぐにでも掻き消えてしまいそうな、そういう弱さがあった。
「科学ってのはすごいね。」
遂に人間は人間を創る事に成功したのか。
人間とするには専門的に言うと、幾つも条件が満たされてはいないが、彼にはどうでもよいことだった。
彼にとっての世界で、これは人間だという基準をこれは満たしていた。それに吠え声の煩い犬よりも静かな方を好む。
開け放った障子の先は、夜の海だ。中途半端に斬り落とされた月が暗闇に浮かんでいる。
すらりと刀身を鞘から抜き放つ。刀を月に掲げてみた。月明かりに受けて淡く紅色の光を彼に魅せてくる。紅桜に浮かぶ輝きはただ月の光を撥ね返しているだけだというのに。
確かにそれは、あの人に見る光と似ていた。
己の憧憬の象徴を見つめていると、ふと背後で誰かが身動く気配がした。
反射で抜身の刀を室内に向けた。
がらんどうの部屋に殺気を溢しながら構える男だけがいた。
紅桜が月光を反射するばかりで他に何も見えはしなかった。
確かに誰かの気配があった。
刀を構えたまま、一歩踏み出した。
ついさっき、確かに感じ取った気配はすっかり消えていた。
「気のせいかね……。」
首を傾げながら紅桜を鞘に納めた。部屋を照らしていた紅色は成りを潜める。