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キリ番・その他リクエスト

秋麗あきうららとした心地よい日が続く今日この頃。
目に鮮やかな紅葉を眺めていると、強く秋を感じる。そろそろ誰かが紅葉狩りをしようと言い出すかもしれない。
みんな宴が好きだから。

「主〜!」

取り留めのない思考をふき飛ばすように聞こえてきたのは、明るくよく通る声。

声のした方へ顔を向ければ、人懐っこい笑みを浮かべた陸奥守吉行が、目笊めざるを小脇に抱えてこちらへ歩いてくる。
近くまで来て気づいたが、陸奥守の顔は所々ところどころ汚れており、ふわりと土の匂いがした。

「見とうせ、このサツマイモ!まっこと立派なもんじゃ!」

そう言った陸奥守が差し出してきた手の中には、ふっくらとした大きなサツマイモがあった。

「本当だ!美味しそうなお芋だね〜」
「ほうじゃろ、ほうじゃろ?こじゃんと採れたちや!」

春に苗を植え、大切に育ててきたサツマイモは、どうやら今日が収穫日だったようだ。
審神者に見せるように傾けた目笊には、先ほど見せてもらったものと同様に、よく育った赤紫の芋がぎっしりと入っていた。

嬉しそうな笑顔につられるように笑いあっていると、あっと何かを思いついたように陸奥守が声をあげた。

「ほうじゃ、主!この芋で、前に言ってた菓子は作れんじゃろうか?」
「前に言ってた菓子?」

何だっただろうか。
以前の会話を思い出すように、頭を巡らせる。

「えぇと、確か、あれじゃ。すいーと…ぽてと?とかいう洋菓子じゃ!」
「あぁ、スイートポテト」

陸奥守がたどたどしく口にした言葉に合点がいく。


サツマイモの苗を植える時のことだ。
収穫したらどうやって食べようかと、畑の土をいじりながら皆で話していた。
やはり焼き芋じゃないか?という意見が多い中、スイートポテトとかも良いかもねと自分は言ったのだ。
その言葉に、それは一体何かと陸奥守が食いついてきたので、簡単に説明した記憶がある。


まさか、あれを覚えていたとは。


目の前の陸奥守は、あの時と同じようにきらきらと瞳を輝かせている。
こんなに期待に満ちた目をされたら、答えないわけにはいかないだろう。

「うん、いいよ。じゃあ、スイートポテト作ろうか」
「…!本当か、主!」

今、厨にある材料でスイートポテトは作れたはず。
レシピを思い出しながら頷いてみせれば、陸奥守は小躍りしそうな勢いで喜色を表した。

「ぃやったぁ!主の手作りすいーとぽてとじゃ!楽しみやにゃあ!」
「ふふっ。できるまで少し時間がかかるから、待っててね」
「わかった!わしはその間に片付けをしゆう」

そう言って芋の入った笊を審神者に手渡すと、陸奥守はまた畑の方へと駆けていった。

すぐに完成するわけではないのに、あんなに急がなくとも…。
そう思いながらも、その慌ただしい後ろ姿にどこか愛しさを感じていた。

彼は黄金色こがねいろの菓子を口に含んだら、一体どんな表情を見せてくれるだろう。
きっと眩しい笑顔を見せてくれるはず。

浮き立つ足取りで厨へと向かった。





ーーーーーーー。
芋が焼ける特有の甘い香り。
柔らかな甘みを連想させるその香りは、厨の中をたっぷりと満たしていた。
そろそろ良い頃合いだろう。

厨から座敷へ続くがりがまちには陸奥守が腰掛け、菓子が焼きあがるのを今か今かと待っていた。

かまどから出して焼き加減を確認する。
オーブンとは勝手が違うので少し心配だったが、どうやら問題なく焼けたようだ。

「よし、完成だよ」
「…!!」

その一言で陸奥守はすぐさま立ち上がり、調理台に置かれたスイートポテトを覗き込む。

「はぁ〜、これがすいーとぽてとか!ええ匂いがするのう!」

胸いっぱいに匂いを吸いこんだ後、そのまま吸い寄せられるように手を伸ばした陸奥守を慌てて静止した。

「まって!焼きあがったばかりだから、火傷しちゃうよ!」
「えぇ…、まだおあずけがか?」

芋のあく抜きから焼きあがりまで、調理の間ずっと待たされていた陸奥守としては、我慢の限界らしい。
こちらを見る目がどこか悲しげに見える。

流石にこれ以上待たせるのは可哀想か…。

「手掴みだと危ないから…」

食器棚からスプーンをとってきて、スイートポテトを割るようにすくう。
ふぅふぅと湯気を飛ばすように熱を冷ましてから、スプーンをそのまま陸奥守に差し出した。

「はい、これならどうぞ」
「…!いただきま〜す!」

陸奥守は大きく口を開けてスプーンにかぶりつき、何度か咀嚼して飲み込むと、ぱっと顔を輝かせた。

「ん〜!美味い!!こんなに美味い菓子を食うたのは初めてじゃ!」
「そんなに大したものじゃないよ?でも気に入ってくれたなら良かった」
「他のみんなにも食わせてやらんとのう!」

そう言いながらも、今度は自分でスプーンを持って食べかけのスイートポテトを平らげていく陸奥守。

そういえば、さっきのアレは世間で言うところの「あ〜ん」というやつだったのか。

今頃ぼんやりと自分が先程していたことに気づきはじめたが、目の前の美味しそうに頰張る笑顔を見ていたら、まぁいいかなと思えた。

「のう、主」
「ん?」
「またこの菓子を作ってくれるか?」

にこにこと満面の笑みで陸奥守は尋ねてくる。

「…うん、いいよ」

返事を返せば、笑みは一層深まった。



あぁ、やっぱりこの笑顔が好きだ。
手元にある黄金色の菓子のように、目に鮮やかで、心に優しく染み込んでくる。

あの笑顔が見られるなら、そう遠くないうちにまた作ろう。
そう心に決めて、そっと彼の笑顔に似た菓子を口にした。




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