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【羽とシーツと体温と】ドフロ、コラロ




地を這うようなおどろおどろしい低い声が、部屋の空気を一瞬にして重たくしながらローの耳に届いた。
途端、ローを拘束していた手が離れ、はっと目を開ける。

「ド―――」

突如現れた男の名を呼ぼうとした声が詰まる。
その男は、革の手袋を嵌めた手で背後からコラソンの口内に乱暴に指を突き入れて笑っていた。ゾッとした。男の纏う空気が、最早殺気に等しい怒りを放っているのだ。

「オイオイ…」

未だにローを狙おうと喉を鳴らして襲い来るコラソンに、ドフラミンゴはいとも容易く彼の片腕を捕えて背中に捻り、上体を起こして無理やり顔を上げさせた。

「何に向けて牙を剥いてるか分かっているんだろうなァ、コラソン?」

そう言いながら額に青筋を立てて笑うドフラミンゴの、なんと恐ろしい表情か。
しかしコラソンは、そんな兄の怒りなど意に介さず、息を荒げて口の中に突っこまれた指に容赦無く牙を立てていた。

「ただの獣に成り下がりやがって。だから最初から『食事』を摂れと言ったんだ」

ドフラミンゴは尚も足掻く弟の口から指を引き抜くと、独特な動きでその手を翻した。
すると、あれほど暴れていたコラソンが急にぎこちない動きで両腕を自分の背中に回し、そのままピタリと動かなくなってしまった。ドフラミンゴのイトの能力が、コラソンの体をきつく拘束したのだろう。
目の前の幼い獲物に狙いを定めながらも一応は大人しくなった弟に満足げに笑みを深くしたドフラミンゴは、改めてローに目を向けた。

「さて、と…。枕から頭も上がらねぇくらいの頭痛で寝込んでいた奴が、どうしてここにいるか。説明してもらおうじゃねぇか」
「っ、」

背筋がヒヤリと寒くなる。サングラス越しからローを見る男は依然として笑っているが、怒りを顕にしていることは一目瞭然だった。何か言わなければ。しかし、言葉が見つからない。ベッドを軋ませてゆっくりと近付いてくる大きな陰を、ただただ目を見張って見上げるしかできなかった。辛うじて上半身を起こしたまま硬直していると、男の目がローの体を滑るように見下ろしていることに気付き、慌てて足を閉じて首筋を手で覆い隠す。
その手首も掴み上げられ、僅かな抵抗も虚しく革手袋を纏った手で顎を捉えて無理やり上向かされてしまう。

「フッフッフッ…トロけたツラしやがって。すっかり吸血鬼の力に当てられちまってたようだなァ?」
「…力?」
「吸血鬼の目と牙には人間を性的に支配する能力がある。コラソンに血を吸われた時、気持ち良かっただろう?」
「っ、知ら…ねぇ…」
「なら、コイツはなんだ?」
「アッぅ…!」

突然急所を揉まれ、ローは体を丸めて悶えた。硬くなったそこを大きな手の平で容赦無くグニグニと揉まれ、ドフラミンゴの腕に縋って震える。

「やめっ…ゃ、ゃっ…ドフラミンゴっ…」
「どんな気分だ、え?仮病でファミリーの勤めを放棄して、こんなところをおっ勃てながら男に股を開いて善がるのは?」
「わるかっ…悪かったからっ…ひ、ぅっ、はなっ…」
「本来なら俺を騙した罪で殺してやるところだが、お前は将来の大事な右腕だ。だから、」

下着に手を掛けながら覆い被さってきた男が、耳元でねっとりと残酷に言い放った。

「お仕置きしてやらなきゃなァ…?」

脳髄に吹き込まれるような恐怖に体が震え、男の手によって下着を抜き去られてもただただじっと目の前のサングラスの冷酷な色を見詰めるしかできなかった。

「ひ、あああっ!」

空気に晒された小さなそれを握られ、布越しと比にならない感覚が体を突き抜ける。

「どうだ?他人の手に触ってもらうってのは。自分でもこうして弄ったことあるんだろう?」
「あ、ァ、知らな、分から、ね、ぇ」
「フフフ…ただのガキみてぇに振る舞ってんじゃねェよ」

難なく体を抱え上げられ、後ろから抱き竦められる。そのまま手袋を嵌めた手で幼いペニスの先端をきつく撫でられ、胡座をかいた男の膝の上でローは内腿を震わせていやいやと首を振った。

「やだっ、ぃやっ…ドフラミンゴっ…」
「何が嫌なんだ?ん?」
「そ、れ…ァっ…て、手…!」
「俺の手がどうした?」
「手袋っ…直接っ…さわっ…ひ、ん…」
「………………」

一瞬の沈黙がなにを意味しているのか、男の手に翻弄されているローには知る由も無い。

「フ…フッフッフッ!良いだろう、お前の望み通りにしてやるよ」

そう言うなり、ドフラミンゴは右手人差し指の先を噛んで手袋を脱ぎ去り、左手でローの膝裏を抱えて大きく開かせた。

「えっ…やっ、ぁ、ああああ!?」

親指の腹で唐突に皮を剝かれ、ビリッとした痛みと同時にそのまま先端を撫で付けられる。ヒリヒリとした痛みの奥から乱暴な快楽を引き上げられ、ローは助けを乞うように男の腕にしがみついた。

「分かるか?お前の、まだ小せえのに立派に勃起して先端からいやらしい汁を垂らしてやがる」
「やだっ…い、ぅ、な…!」

羞恥のあまり消えてなくなってしまいたかった。それでも尿道から止めどなく溢れる透明の液をペニス全体に塗りたくられ、ひどい音を立てながら扱かれる手の感触が気持ち良すぎて何も考えられなくなる。

「あの時お前は俺に聞いたな?吸血行為以外に、コラソンを正気に戻す方法を」
「は…フ…ん、んッ…?」
「フッフッフッ…前、見てみな」
「…ッ!?」

耳元で囁くドフラミンゴの声に誘われてゆるゆると顔を上げたローは瞠目した。
コラソンが。両腕を後ろ手で拘束された状態のまま膝立ちでじっと目の前のローの卑猥な姿を凝視しているのだ。
コラソンに見られている。カッと視界が赤く染まるような恥ずかしさに、頭の中が燃え上がりそうになった。

「お前のいやらしい姿、じっくりとコラソンに見てもらえ」
「やっ、やっ…見るなっ…見るなコラソン…あ、アッ、ひんんっ…!」

息を荒げるコラソンの鋭い眼光が突き刺さる。それなのにローのペニスは萎えることなく、寧ろひくりと震わせて先端から涙を零して喜んでいた。それを親指の腹で擦り込むようにして先端をくじかれ、背筋から中心にかけて電流のような甘く激しい衝撃が駆け抜けた。

「どうだ、コラソン?今のお前には堪らねぇよなァ?ついこの間精通を迎えたばかりの若い体だ」

ドフラミンゴの笑い声に煽られてか、コラソンの目付きが更に獰猛になる。
男の手によって苛められているローのペニスに釘付けになりながらグルルル…と喉を鳴らして歯を食いしばるコラソンのその迫力に恐怖を覚えると同時に、はっと気が付いた。

「ま、さか…!」
「ほゥ?察しが良いじゃねぇか」

ニタリと嗤う気配がした。
最悪だ。この男は、最初からこうなるよう仕向けていたのだ。

根本をきつく握りしめられ、悲鳴を上げて背中を丸める。小刻みに震えるローに、男は満悦に言い放つ。

「吸血鬼はなにもただ血を飲んで腹を満たしているわけじゃねェ。その中に凝縮された人間のエネルギーを食らってんだ。因みに、そいつは血液と限らず、人間の体液なら何でも良い。例えば、涙や汗、唾液と、そして…」

性器を戒めていた手が離れ、すっかり濡れそぼったそれを見せつけるように目の前に翳される。たまらず顔を背けようとするが、それより先にその手で顎を捉えられ、人差し指と中指を口の中へと捻じ入れられた。指に絡まった粘液を小さな舌に擦りつけられ、涙が溢れる。

「あ、はぁ、んぐぅぅ…」
「精液もそうだ。こいつぁまさに命の源みてェなもんだからな。分かるか?若ければ若いほど、コイツらにとっては最高のご馳走になるんだ」

そう嘯きながら、ドフラミンゴはもう片方の指先をクイッと動かした。
まるで引っ張られるようにコラソンが前へとつんのめる。ローの下半身へとその頭が近付き、すんでのところでまたイトによって動きを止められた。
すぐ眼前にあるローの勃起に、コラソンの息が荒くなる。
爛れるような熱い吐息を掛けられ、痛々しいほど腫れ上がったペニスがふるりと震えた。

「〜〜〜ッ、ゃめ…いやだっ…!ドフラミンゴっ…コラソンっ……ぁっ、」

必死の訴えも虚しく、ドフラミンゴの手によって両足を左右に大きく割り開かれる。

「フッフッフッ…おい、ロー。隠すんじゃねェよ。お前の浅ましい姿をコラソンに全部見てもらうんだ」
「やだっ…も、やぁっ……」

嫌な筈なのに、恥ずかしくてたまらないのに、ドフラミンゴの言葉一つで股間を隠そうとした両手がピタリと動きを止めてしまう。イトの能力ではない。男の、絶対的な支配力がローを忠実にしているのだ。しかしそれでも居たたまれなさは拭えず、ローは両手で顔を覆ってやめてくれと訴える。その姿がどれだけドフラミンゴという男の嗜虐心を煽ることか。
男は残酷なまでに笑みを深くした。

「可哀想になァ、ロー?だが、これはお前へのお仕置きだ。たっぷり反省するんだな」
「ドフラミンゴっ…待ッ、ああああああっ!」

思わず顔を覆い隠していた手を離してドフラミンゴを見上げようとした直後、外気に晒されていたペニスが何かぬるりとした熱い粘膜に覆われ、のけぞった。
神経を引きずり出すような生々しくも衝撃的な感覚に、目を白黒させながら視線を下ろしたローは絶望した。

「うっ、うそっ…うそだ…」
「嘘じゃねェさ。よーく見ろ、美味そうに食ってんだろ?」
「ぁぁぁっ…コラソ…コラソン…やめ、ぇ…離…」

大人の口がずるずると音を立ててローのペニスを吸い、かと思いきや幅の広い舌で裏筋全体を包みながら絞りとるように頭を前後に揺するコラソンに、ついにローは全身を震わせて泣いた。
ビクビクと内腿を震わせ、わけもわからず背中のドフラミンゴに擦りついてしがみつく。すると、ローの足を掴んでいた男の両手が幼い体をまさぐり、薄っぺらい胸を揉み上げてきた。頭上では実に楽しげに笑う男の声が聞こえたが、もうそれどころではない。下から上へと撫でつけ、爪先で乳首を強く抉られると、ピリッとした痛みに頭を振る。

「やぁァ、はっ、ぅぅ…ドフラミンゴっ…頼む、からぁぁ…!」
「ドフィだ、ロー」
「ふっ…ぇ…?」
「ドフィと呼べ」
「ど…ふぃ…」
「なんだ?」
「ドフィっ…ドフィっ…!おれっ…」

それまで冷徹に話していた男が、一変して優しい声でローの呼び掛けに応えてくれた。もうそれだけで止められなくなった。胸の奥から感情の塊が迫り上がってくるようで、何度も何度も男の愛称を呼ぶ。

「ドフィ、ンッ…ぅっ…」

顎を掴まれ、無理やり横向きに上向かされると、噛み付くように口付けられた。涎でてらてらと光る唇を一舐めされ、そのまま口の中へと舌が侵入してくる。
口いっぱいに入ってくる長い舌が上顎の裏をなぞり、びくりと肩が震える。

(な…ん、だ…これ…?)

口と口を合わせることがキスであることはローでも知っていた。フレバンスにいた頃は、父と母が「行ってきます」「行ってらっしゃい」の言葉と共にキスをしていたのを何度も見たことがあった。ロー自身も、学校で隣のクラスの女の子と一度だけ交わしたことがある。それは、挨拶や愛情表現の一つで、軽いリップ音で終わるソフトなものだと思っていた。
だが、今、ローがドフラミンゴと交わしているこれはなんだ?
ちゅ…ぴちゅ…と腰にクるような大人っぽい音を立てて唇を離されては閉じる前にまた吸い付かれ、まるでもてあそぶように舌でローの小さな舌を擽ってくる。溢れた唾液を掻き集め、啜るようにして飲み下された時は頭が痺れるようなショックを覚えた。
執拗で、生々しく、いやらしい。
こんな恥ずかしい行為もキスの一つなのか?
卑猥な音を立てて離れていく相手の舌が寂しくて、ローは我知らず舌を伸ばしてそれを追いかけた。目一杯出して拙い動きで男の舌を舐め、口を開けてそれを頬張りながらぴったりと唇を合わせる。

「ふぅ…ん、ん、んむ…はふ…」

気が付けば、目を閉じて夢中でドフラミンゴにキスを強請っていた。口の中で舌が擦れ合うのが気持ちよくてたまらなくて、ぴくんぴくんと体を震わせながら太い首に腕を回せば、唇を合わせたまま喉の奥で男が笑った。
そこでふと、下半身の刺激が止んでいることに気付き、ぼんやりと霞む視界で視線を下ろす。

「ッ!?」

研ぎ澄まされた鋭利な刃物のような目で、コラソンがこちらを睨みあげていたのだ。
言葉を失うローに、コラソンは見せ付けるように口を大きく開けて再びペニスに食い付いてきた。

「ッ、ぁあああっーーーー!」

先程の口淫とは比べ物にならない強さで吸い付かれ、ドフラミンゴの腕の中で身悶える。太腿でコラソンの頭を挟み、絡みつく粘体から逃れようとするが、きつく腰を捕まれてしまえば抗う術が無い。
淫らな音を立てて小さなそれから溢れるカウパーを啜り舌先でグリグリと尿道を刺激され、ローの視界に火花が散った。

「アッ、ぁ、だめっ、だめっ、コラソンッ…出っ…離しっ…」

必死の訴えも虚しく、先端をきつく吸われた瞬間頭の中が真っ白になった。大きく体を仰け反らせ、痙攣しながらコラソンの口の中に精液を放つ。
コラソンはまるで熟れた果実から果汁を啜るように喉を鳴らしてそれを飲み下し、更に一滴も残すまいと舌を這わせる。
果てたばかりでその刺激にすら敏感に拾い上げてしまう繊細な体が、男の舌の動きに合わせてひくりと震えてしまう。

「う…ん、ん、はぁ…は、は…ぁ…んむっ」

すっかり緩くなった唇をドフラミンゴが労るように舐め、可愛らしい音を立てて吸う。
朦朧とした意識の中、ローもそれに応えて互いの唇を食むようなキスを繰り返した。
胸元を這う手の平の感触が心地良い。
射精の余韻と触れ合う気持ちよさにうっとりとしながら目を閉じた。このまま眠ってしまいそうだ。そう思ったのも束の間、再び下半身に与えられた強い刺激に、ローはビクリと体を硬直してコラソンを凝視した。
あろうことか、男は再び唇でローのペニスを扱き始めたのだ。

「アッ、あアッ、やめっ、こらそんっ…やだッ、もういい!もういいからぁ…!」

力無い手でコラソンの髪を掴み、ローは声を上げた。睾丸を揉みながらじゅるじゅると耳を塞ぎたくなるような淫靡な音を立てて食われ、幼くか弱い性器を苛めぬかれる。睾丸を刺激していた長く無骨な指先が、唾液と精液で濡れた尻の奥へと潜り込むと、密やかなそこをぐいぐいと揉んでいく。
ペニスへの刺激が強過ぎて、尻の奥にまで与えられる感覚まで気にする余裕が無い。

「ひぃぁっ、あ、アッ…コラソ、ン、やめろっ…や、めっ……やめ、ろって……言ってんだろうがッ!!!」

左足でコラソンの胸を押し、肩に乗せていた右足を振り上げて思い切りその脳天にかかとを落とした。
見事にクリンヒットしたローの渾身の一撃に、コラソンはベッドに蹲って声も無く (もともと声は出ないが) のたうちまわった。

(ザマァ見ろ!)

荒げた息を整えながら一笑するローだったが、突然何かの力に体を引かれ、気が付けば仰向けでベッドに押し倒されていた。
え…?と、目を見開いて見上げた先には、笑顔を消し、ゾッとするほど表情の無いドフラミンゴの顔があった。

「な、に…ッ、」

布擦れの音を立ててドフラミンゴの体がローの上に覆いかぶさり、首筋に顔を埋められる。熱い吐息と共に舌が這うのは、先程コラソンに噛まれた傷跡だった。まるで既視感しかない展開に、ローは青くなった。

(コイツ…!)

否が応でも、昨日のドフラミンゴの言葉を思い出す。


『フッフッ…俺はただ、お前が血まみれの傷口を自分で塞いでいるところが見たかっただけだ』


コラソンが吸血鬼だと知らされて、どうして直ぐに気付かなかったのか。その実兄であるドフラミンゴもまた、吸血鬼であると。
ならば、ドフラミンゴだけが発作に狂わなかった理由は。簡単だ。なにも、集めた血液が弟の為だけでない事くらい、考えずとも分かる。 化物であることを拒絶し続けていた弟と違い、兄の方は残酷の化身(けしん)なのだから。
それにしたって、何故、今になって突然こんなことになったのか。
噛み痕を舌先で弄られ、滲み出る血を嬲られる。

「待っ…待てドフラミンゴ…!やめっ、ぅあっ…」
「……キスの時でも思っていたが、」

僅かな血を飲み、男は恍惚と息を吐き出した。

「アァ…ロー。お前の命は甘いなァ…?」
「――ッ、」

全身が、本物の恐怖に打ち震えた。
これは、だめだ。
目一杯力を振り絞り、男の体を押してうつ伏せになる。シーツの上を這うようにして必死に逃げようと試みるが、逆に首を捕まれて押さえつけられてしまう。
頭のすぐ横に腕を置き、密やかな音を立ててゆっくりと男が再び覆い被さってくる。愉悦にまみれた吐息が項を撫でつけ、唇が触れる甘ったるい感触に身震いがした。

「ぅ、ぃ…ドフラミンゴっ…ぃ、やだっ…いやだ!」

テイスティングでもするようにうっそり頸を舐められ、全身に戦慄が走る。
そして、僅かな間を置いてガリッ…と牙が皮膚に食いこんだ直後、体に掛けられていた体重が消えた。
何が起きたのか。恐る恐る顔を上げ、上体を捻って見上げる。

「コラ…ソン…?」

目を疑った。
ローが見ている前で、コラソンがドフラミンゴの胸倉を掴み上げていた。
つい先ほどまで、正気を失いローを被食対象として見ていた男が、まるでそのローを守るようにして自分の兄に牙を剥いて睨んでいるのだ。

「……この手を離せ、コラソン」
「…………」
「ローは俺のものだ。どう扱おうが俺の、」

振り抜かれた拳によって、男の言葉は掻き消された。
あまりの光景に言葉を失う。
コラソンは確かに渾身の力で兄の頬を殴った筈だった。しかし、肝心の兄には大した衝撃にはならなかったらしい。

「フッフッフッ…それで終いか?」

頬に拳を押し付けられたまま、ドフラミンゴが笑う。その額に明らかな殺気が浮かび上がり、たまらずローは起き上がった。

「な…に、してんだよお前ら!やめろ!」
「……あ?」

ドフラミンゴの胸元に飛び込み、スーツの襟を掴む。

「おいおい、ロー。そいつァ…誰を庇っての行動だ?」
「誰も庇ってなんかしてねぇよ!こんなとこで兄弟喧嘩なんておっ始めんじゃねェって言ってんだ!」
「喧嘩だァ?フッフッフッ…!何を勘違いしているか知らねぇが、」

またもやドフラミンゴの言葉が途中で断ち切られた。突然、糸の切れた操り人形のようにコラソンが兄の上に倒れ込んできたのだ。あまりに不意のことにバランスが崩れ、ドフラミンゴに掴み掛かっていたローもろとも三人一緒にベッドの上に沈んだ。
ボフンッと勢い良く羽が舞い上がる。

「っ、おい!なんなんだ一体!コラソンはどうした!?」

体の上に乗るドフラミンゴの腕に藻掻きながらローが怒鳴る。

「…これまで絶食し続けた反動だ。急に良質な食事を摂って、体がついていけてねェんだろ」

ローの体から腕を上げ、ドフラミンゴは上半身を起こしながら興が冷めたといった顔付きで言った。

「良質って…コイツどうなったんだ?死んだのか?」
「いや、寝ている」
「は?」
「発作が起きている一週間、ろくに睡眠もとれていなかったようだからなァ。目を覚ましたら発作もおさまって元に戻っているだろ」
「……………」

ローは心底呆れた。そして猛烈に疲れた。
なんて面倒な体質なんだ。
うつ伏せでシーツに顔を埋めたままぴくりともしないで寝息を立てるコラソンに、脱力する。

「……おい、ロー。なにしてるんだ」

この大人たちの手によって放り捨てられた下着やハーフパンツを無言で履き、そのままコラソンに倣って勢い良くベッドに横になるローに、ドフラミンゴは怪訝な声を上げた。

「なにって、寝るんだよ。今夜は散々だった」
「…………」
「おいドフラミンゴ、お前のモコモコ貸せ。この馬鹿が人のシャツを駄目にしてくれたせいで寒いんだ」
「………フ、フッフッ!服なら新しく買ってやろう」
「良いって、こんなの縫えば充分だ。それより、それ!貸してくれねぇならお前が来い」
「ピロートークにしちゃァ色気もなにもねぇなァ?」
「うるさい。早くしろよ、俺は眠いんだ」

話はもう終いだという意を込めて丸くなる。
それを見たドフラミンゴは、ネクタイを引き抜きスーツとシャツをおざなりに脱ぎ捨てると、上半身裸のままローを真ん中にして二人の隣に横になった。

「…寒くねぇのか?」
「俺は元々この格好で寝る」
「裸族っていうやつか」
「フッフッフッ…ベッドでのマナーだ」
「なんだそれは」
「お前にはまだ早ェな」
「?」
「おい、ロー。もっとそっち寄れ」

言われた通りコラソンにぴったりとくっつくまで移動すると、ドフラミンゴがその長い腕で二人を収めるようにして抱いてきた。

「…狭苦しい」
「この方が温まるだろう?」
「…………ドフィ、」
「なんだ?」
「おやすみ」
「………ああ」

強い鼓動を感じる体温に挟まれて、ローは目を閉じた。
まったくもって、散々な夜だった。きっとこの先、今夜のことを思い出すたびに恥ずかし過ぎて身悶えるような思いをするだろうが、残り僅かな寿命の中で、こんな濃い記憶があっても良いかもしれないと、ほんの少しだけ思った。
とりあえず、明日起きたらコラソンにシャツの仕返しをしてやろう。

そんな他愛無い決意を込めて、また訪れる明日に向けて目を閉じたのだった。








【羽とシーツと体温と】
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