01:溢れる時の砂
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
ホグワーツ。懐かしのホグワーツ。何年振りだろうか。
31歳の誕生日を迎えたばかりのステラ・ウォーカーは、卒業後闇払いとして、魔法省に勤めていたのだが、嬉しい勧誘を受けて、ホグワーツ特急に乗る事になったのだ。
「お邪魔しても?」
空いていそうなコンパートメントに声を掛けると、顔立ちの整ったハッフルパフ生が、礼儀正しく頭を下げ、荷物を退けてくれた。
「ありがとう。私はステラ・ウォーカー。今年度から、魔法薬学の補助教員よ。よろしくね?」
「セドリック・ディゴリーです。⋯⋯魔法薬学の補助⋯⋯ですか」
「スネイプの態度は相変わらず? 彼、生徒に嫌われる様に、最大限の努力を惜しまない人よね〜」
ステラは、どかりと腰を下ろし、鞄から新聞を取り出した。しかし、眼前の生徒が気になって、視線を上げた。
「一人? 友達がいないタイプには見えないんだけど」
「友達は──」
瞬間、バーーンと音が鳴り響いた。一気に火薬の臭いが充満する。
セドリックは肩を竦めて見せた。
「”遊んで”います」
「減点してやりたいけれど、学期が始まっていないのよね。残念だわ」
ポケットから杖を出し、一振りすると空気が晴れた。新聞に目を戻す。
(ブラックは、まだ捕まっていないのね⋯⋯)
「あの⋯⋯先生もホグワーツの卒業生ですか?」
「そうよ。⋯⋯残念ながら、同世代に、著名人はいないわね。所謂”不作”世代。幸い死喰い人になった子もいないけれど」
「寮はどちらに?」
訊かれると思った。
就職の面接でも、ホグワーツ出身者の組み分けは重要視された。誰もが一番に気にする。だから私は、訊かれるまで教えないのだけれど。
「スリザリンよ」
セドリックは、困惑していた。本当に、良い子なのだろう。少なくとも、嫌悪や、憎悪はしていない。どちらかと言えば、気の毒そうにしている。
「あのねぇ」
私は幾度目かの説明を繰り返す。
「スリザリンは、狡猾さを持った人間の入る寮よ。悪人の寮じゃない。狡猾な人間の中に、偶々悪人が多かっただけのことよ。私はマグル出身だし、純血主義じゃない。魔法省の闇払いで、去年、秘密の部屋の事件が解決しなければ、私が調査する予定だったの」
「違うんです! ⋯⋯先生を⋯⋯その⋯⋯悪く思ったりしたわけでは──」
「分かっているわ。でも、他のスリザリン生にも言える事だから。お願いだから、スリザリンがスニッチを取った瞬間に、ブーイングを飛ばしたりしないでよ? ⋯⋯どうでも良いけど、カエルチョコ、食べない? 誤配送で大量にあるの」
「いただきます」
セドリックは、素直に受け取って、パッケージを開けた。一応カードの種類を確認して、顔を顰める。アルバス・ダンブルドアだ。
カエルチョコのおまけの、八割がダンブルドアなのでは、と思うほど、遭遇率は高い。大抵の子供は、10枚以上持っているだろう。
「ダンブルドアが、私の推薦状を書いてくださったの。そのおかげで、闇払いになれたわ」
「それなのに、どうして補助教員になったのですか?」
「⋯⋯当分、ホグワーツが、杖を必要としているからよ」
新聞の一面を突き付けると、セドリックは納得した様子を見せた。
(シリウス・ブラックが何故⋯⋯)
私は窓の外に目をやりながら、考えた。彼のことを、知っていた。
スネイプと同年代で、みんなの人気者。ジェームズ・ポッターの親友だった。それなのに、何故、彼はヴォルデモートに加担したのか⋯⋯。
そして、ダンブルドアは、何故このタイミングで、二人の親友であった、リーマス・ルーピンを教員として迎えたのか。
闇の魔術に対する防衛術の教員枠は、呪われている。ルーピンも、恐らく一年で去る事になるだろう。
(ルーピンとブラックがグルだった......とか?呪いを利用して、悪事を暴くつもり?)
実際、去年のペテン師・ロックハートは、報いを受けて、聖マンゴに入院中である。
悩みが多過ぎた。昨日も遅くまで薬の調合をしていたせいで、眠気が差して来た。
徐々に瞼が重くなり、暗闇に吸い込まれて行った。
静かな眠りに、突然鮮烈な夢が割り込んで来た。
幼い頃、隠れ住んでいた家に、死喰い人がやって来たのだ。
魔法を使えないマグルの母は、銃を乱射して応戦した。
その隙に、父が私を連れて、姿くらまししたのだ。
後日、母は遺体となって見つかった。
その光景を見ていた。
「──っ──先生!!」
肩を揺さぶられ、急速に意識を引き上げられて目を開けると、青ざめたセドリックと、ハッフルパフ生の顔が視界に入ってきた。
第六感が異常を察知し、素早く杖を抜く。
冬でも無いのに、窓ガラスが徐々に凍って行き、部屋の温度が下がった。
「ディメンターよ!!」
咄嗟に立ち上がり、杖を構えた。通路を徘徊している黒い影に向かって、強力な呪文を放つ。
「エクスペクト・パトローナム!!」
白銀色のフクロウが現れ、辺りは光に包まれた。黒い影は、弾かれるように遠ざかり、辺りは暖かさを取り戻した。
「みんな、大丈夫?」
返事は無い。全員が全員、恐怖に身を竦めていた。
「ディメンターについては知っている? アズカバンの監獄の看守。多分、シリウス・ブラックが徘徊しているせいで、警護に雇われたんだろうけど⋯⋯奴ら襲う相手を選ばないからね。チョコレートをあげる。取り敢えず、食べて落ち着いて」
カバンの中から、カエルチョコを取り出し、3人の生徒に押し付けた。
「私は車内を見て来る。確かルーピン⋯⋯新しい、闇の魔術に対する防衛術の先生が、どこかにいるはずだから。⋯⋯今年の授業は期待して良いわよ」
席を立ってから、一応思い出して振り返る。
「私の鞄から、お菓子を出して食べて良いわ。でも、その他の物には触れないように。特に財布に触ったりしたら、爪が永遠に伸び続ける呪いが掛かるからね。オーケー?」
「「はい、先生」」
全員が声を揃えて返事をしたので、ステラはコンパートメントを出た。
何処の席でも、生徒たちは怯えた表情で縮こまっている。
(ふくろうを飛ばすべきだったかしら?)
そう思い直し、杖を構えた。手紙を書くよりも、守護霊に伝言を託した方が早い。
もう一度、白銀のふくろうを杖先から出し、それが汽車の壁をすり抜けて飛んで行くのを確認してから、再び歩き出した。
車両の後ろへ向けて進んで行くと、途中で“彼”がやって来た。
「ルーピン先生!」
顔の傷のお陰で、一目で分かった。
「やあ、ミス・ウォーカー」
ルーピンは愛想良く会釈をしてみせた。ステラは、ビックリして目を見開いた。
ルーピンは、ジェームズ・ポッターの取り巻きの一人で、比較的有名な存在だったが、ステラは、成績優秀なこと以外、至って普通の生徒だった。
「どうして、私のことを?」
「この列車に載っている教員は、私を除いて、君一人と聞いている。⋯⋯いや、それ以前に、リリー・エバンズがセブルスを庇わなくなってから、虐め撲滅同盟を設立しようとした子のことは、良く知っていた。何故なら私は、君の意志に賛同していたからね」
「それなら、どうして手を貸してくださらなかったのですか」
ステラは、責めるような口調で言い返していた。当時、ポッターに逆らってまで、スネイプを庇おうとした子などおらず、彼女の試みは、空回りの大失敗に終わったのだ。
ルーピンは肩を竦めて見せた。
「正しさよりも、友情を取ったからだ。愚かな決断だった。セブルスが私の薬に毒を盛ったとしても、恨むつもりは無い。⋯⋯それより、さっきの守護霊は君が出したものか?」
「ええ。ダンブルドアに伝言を託しました」
「私はふくろうを送ったよ。ハリーが⋯⋯ジェームズの子が倒れてね。無理もない。彼は両親の死を目の当たりにしている。もし、その記憶が呼び起こされたのだとしたら──」
「どんな子ですか?」
ステラは、興味本位で訊ねた。ルーピンは、なんとも言えない、物悲しげな微笑みを浮かべた。
「ジェームズの生き写しだ。目は⋯⋯目の色だけは、リリーのものだ。礼儀正しい、ごく普通の子に見えたよ」
「スネイプは、目の敵にしているんでしょうね。可哀想に。多分、ジェームズ・ポッターの悪事なんか、誰も話していないでしょう? 不当な扱いを受ける理由すら、知らずにいるのね。⋯⋯あ⋯⋯ごめんなさい。故人を悪く言うなんて⋯⋯」
「もし私が君の言葉に気を悪くしたとすれば、それは、その言葉が真実だからだ。私も共犯者だしね。⋯⋯ミス・ウォーカー。君と少し話がしたい。良いかな?」
「勿論です。コンパートメントを探しましょう」
ステラは、頷いた。彼女はルーピンの正体を知っていたから、彼がどんな風に生きて来たのか知りたかった。
31歳の誕生日を迎えたばかりのステラ・ウォーカーは、卒業後闇払いとして、魔法省に勤めていたのだが、嬉しい勧誘を受けて、ホグワーツ特急に乗る事になったのだ。
「お邪魔しても?」
空いていそうなコンパートメントに声を掛けると、顔立ちの整ったハッフルパフ生が、礼儀正しく頭を下げ、荷物を退けてくれた。
「ありがとう。私はステラ・ウォーカー。今年度から、魔法薬学の補助教員よ。よろしくね?」
「セドリック・ディゴリーです。⋯⋯魔法薬学の補助⋯⋯ですか」
「スネイプの態度は相変わらず? 彼、生徒に嫌われる様に、最大限の努力を惜しまない人よね〜」
ステラは、どかりと腰を下ろし、鞄から新聞を取り出した。しかし、眼前の生徒が気になって、視線を上げた。
「一人? 友達がいないタイプには見えないんだけど」
「友達は──」
瞬間、バーーンと音が鳴り響いた。一気に火薬の臭いが充満する。
セドリックは肩を竦めて見せた。
「”遊んで”います」
「減点してやりたいけれど、学期が始まっていないのよね。残念だわ」
ポケットから杖を出し、一振りすると空気が晴れた。新聞に目を戻す。
(ブラックは、まだ捕まっていないのね⋯⋯)
「あの⋯⋯先生もホグワーツの卒業生ですか?」
「そうよ。⋯⋯残念ながら、同世代に、著名人はいないわね。所謂”不作”世代。幸い死喰い人になった子もいないけれど」
「寮はどちらに?」
訊かれると思った。
就職の面接でも、ホグワーツ出身者の組み分けは重要視された。誰もが一番に気にする。だから私は、訊かれるまで教えないのだけれど。
「スリザリンよ」
セドリックは、困惑していた。本当に、良い子なのだろう。少なくとも、嫌悪や、憎悪はしていない。どちらかと言えば、気の毒そうにしている。
「あのねぇ」
私は幾度目かの説明を繰り返す。
「スリザリンは、狡猾さを持った人間の入る寮よ。悪人の寮じゃない。狡猾な人間の中に、偶々悪人が多かっただけのことよ。私はマグル出身だし、純血主義じゃない。魔法省の闇払いで、去年、秘密の部屋の事件が解決しなければ、私が調査する予定だったの」
「違うんです! ⋯⋯先生を⋯⋯その⋯⋯悪く思ったりしたわけでは──」
「分かっているわ。でも、他のスリザリン生にも言える事だから。お願いだから、スリザリンがスニッチを取った瞬間に、ブーイングを飛ばしたりしないでよ? ⋯⋯どうでも良いけど、カエルチョコ、食べない? 誤配送で大量にあるの」
「いただきます」
セドリックは、素直に受け取って、パッケージを開けた。一応カードの種類を確認して、顔を顰める。アルバス・ダンブルドアだ。
カエルチョコのおまけの、八割がダンブルドアなのでは、と思うほど、遭遇率は高い。大抵の子供は、10枚以上持っているだろう。
「ダンブルドアが、私の推薦状を書いてくださったの。そのおかげで、闇払いになれたわ」
「それなのに、どうして補助教員になったのですか?」
「⋯⋯当分、ホグワーツが、杖を必要としているからよ」
新聞の一面を突き付けると、セドリックは納得した様子を見せた。
(シリウス・ブラックが何故⋯⋯)
私は窓の外に目をやりながら、考えた。彼のことを、知っていた。
スネイプと同年代で、みんなの人気者。ジェームズ・ポッターの親友だった。それなのに、何故、彼はヴォルデモートに加担したのか⋯⋯。
そして、ダンブルドアは、何故このタイミングで、二人の親友であった、リーマス・ルーピンを教員として迎えたのか。
闇の魔術に対する防衛術の教員枠は、呪われている。ルーピンも、恐らく一年で去る事になるだろう。
(ルーピンとブラックがグルだった......とか?呪いを利用して、悪事を暴くつもり?)
実際、去年のペテン師・ロックハートは、報いを受けて、聖マンゴに入院中である。
悩みが多過ぎた。昨日も遅くまで薬の調合をしていたせいで、眠気が差して来た。
徐々に瞼が重くなり、暗闇に吸い込まれて行った。
静かな眠りに、突然鮮烈な夢が割り込んで来た。
幼い頃、隠れ住んでいた家に、死喰い人がやって来たのだ。
魔法を使えないマグルの母は、銃を乱射して応戦した。
その隙に、父が私を連れて、姿くらまししたのだ。
後日、母は遺体となって見つかった。
その光景を見ていた。
「──っ──先生!!」
肩を揺さぶられ、急速に意識を引き上げられて目を開けると、青ざめたセドリックと、ハッフルパフ生の顔が視界に入ってきた。
第六感が異常を察知し、素早く杖を抜く。
冬でも無いのに、窓ガラスが徐々に凍って行き、部屋の温度が下がった。
「ディメンターよ!!」
咄嗟に立ち上がり、杖を構えた。通路を徘徊している黒い影に向かって、強力な呪文を放つ。
「エクスペクト・パトローナム!!」
白銀色のフクロウが現れ、辺りは光に包まれた。黒い影は、弾かれるように遠ざかり、辺りは暖かさを取り戻した。
「みんな、大丈夫?」
返事は無い。全員が全員、恐怖に身を竦めていた。
「ディメンターについては知っている? アズカバンの監獄の看守。多分、シリウス・ブラックが徘徊しているせいで、警護に雇われたんだろうけど⋯⋯奴ら襲う相手を選ばないからね。チョコレートをあげる。取り敢えず、食べて落ち着いて」
カバンの中から、カエルチョコを取り出し、3人の生徒に押し付けた。
「私は車内を見て来る。確かルーピン⋯⋯新しい、闇の魔術に対する防衛術の先生が、どこかにいるはずだから。⋯⋯今年の授業は期待して良いわよ」
席を立ってから、一応思い出して振り返る。
「私の鞄から、お菓子を出して食べて良いわ。でも、その他の物には触れないように。特に財布に触ったりしたら、爪が永遠に伸び続ける呪いが掛かるからね。オーケー?」
「「はい、先生」」
全員が声を揃えて返事をしたので、ステラはコンパートメントを出た。
何処の席でも、生徒たちは怯えた表情で縮こまっている。
(ふくろうを飛ばすべきだったかしら?)
そう思い直し、杖を構えた。手紙を書くよりも、守護霊に伝言を託した方が早い。
もう一度、白銀のふくろうを杖先から出し、それが汽車の壁をすり抜けて飛んで行くのを確認してから、再び歩き出した。
車両の後ろへ向けて進んで行くと、途中で“彼”がやって来た。
「ルーピン先生!」
顔の傷のお陰で、一目で分かった。
「やあ、ミス・ウォーカー」
ルーピンは愛想良く会釈をしてみせた。ステラは、ビックリして目を見開いた。
ルーピンは、ジェームズ・ポッターの取り巻きの一人で、比較的有名な存在だったが、ステラは、成績優秀なこと以外、至って普通の生徒だった。
「どうして、私のことを?」
「この列車に載っている教員は、私を除いて、君一人と聞いている。⋯⋯いや、それ以前に、リリー・エバンズがセブルスを庇わなくなってから、虐め撲滅同盟を設立しようとした子のことは、良く知っていた。何故なら私は、君の意志に賛同していたからね」
「それなら、どうして手を貸してくださらなかったのですか」
ステラは、責めるような口調で言い返していた。当時、ポッターに逆らってまで、スネイプを庇おうとした子などおらず、彼女の試みは、空回りの大失敗に終わったのだ。
ルーピンは肩を竦めて見せた。
「正しさよりも、友情を取ったからだ。愚かな決断だった。セブルスが私の薬に毒を盛ったとしても、恨むつもりは無い。⋯⋯それより、さっきの守護霊は君が出したものか?」
「ええ。ダンブルドアに伝言を託しました」
「私はふくろうを送ったよ。ハリーが⋯⋯ジェームズの子が倒れてね。無理もない。彼は両親の死を目の当たりにしている。もし、その記憶が呼び起こされたのだとしたら──」
「どんな子ですか?」
ステラは、興味本位で訊ねた。ルーピンは、なんとも言えない、物悲しげな微笑みを浮かべた。
「ジェームズの生き写しだ。目は⋯⋯目の色だけは、リリーのものだ。礼儀正しい、ごく普通の子に見えたよ」
「スネイプは、目の敵にしているんでしょうね。可哀想に。多分、ジェームズ・ポッターの悪事なんか、誰も話していないでしょう? 不当な扱いを受ける理由すら、知らずにいるのね。⋯⋯あ⋯⋯ごめんなさい。故人を悪く言うなんて⋯⋯」
「もし私が君の言葉に気を悪くしたとすれば、それは、その言葉が真実だからだ。私も共犯者だしね。⋯⋯ミス・ウォーカー。君と少し話がしたい。良いかな?」
「勿論です。コンパートメントを探しましょう」
ステラは、頷いた。彼女はルーピンの正体を知っていたから、彼がどんな風に生きて来たのか知りたかった。
1/1ページ