01:出会い編
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「ホメロス様」
エトワールは紅茶と白パンの乗ったオーバルトレイを手に、ホメロスの部屋の扉を叩いた。
「入れ」
中からは、すこぶる不機嫌そうな声が返って来た。何時もの事で慣れているエトワールは、遠慮なく中へ入った。
「お茶を用意いたしました。アールグレイのやや渋めを」
「休日に仕事をするなと言ったはずだ。それに、何時からメイドになった?」
「今日に限っては、メイドよりは良い仕事をした自信があります」
エトワールは、嫋やかに微笑み、カップをテーブルに置くと、紅茶を注いだ。それから、自慢の一品バンデルフォンの白パン。
ホメロスはそれを見て、目を丸くした。
「オレの好みを話した記憶は無いが⋯⋯」
「グレイグ様が教えてくださいました。⋯⋯ホメロス様。少しお休みください。いくらなんでも働き過ぎです」
「何処かの誰かが“悪魔の子”を逃さなければ、もう少し手が空いたかもしれんな」
ホメロスは無愛想に答えながらも、白パンに手を伸ばした。彼が食べる姿を見て、エトワールは安心したのと同時に、少し可笑しく思えて笑った。
それを見たホメロスは、怒るどころか寧ろ機嫌を良くした様子で、口元を緩めた。
「意外に思うか? オレの好物について」
「はい。正直、最初に聞いた時には驚きました。何時も辛口のワインを良く飲まれているので、甘いものが好きというのは可愛いな、と⋯⋯あっ」
エトワールは、慌てて両手で口を覆った。
普段、男にも勝るキビキビとした動きをしているだけに、女性的な仕草は、ホメロスをドキリとさせた。
「申し訳御座いません!」
エトワールが謝ると、ホメロスは首を横に振った。
「謝る必要は無い。自分自身でも、おかしいと思っている。⋯⋯お前は、甘い物を食べないのか?」
「はい。たまに騎士の食事にデザートが付けば食べる程度で、自分で買ってまでは⋯⋯」
「そうか」
ホメロスは徐に立ち上がり、エトワールの顎を親指で持ち上げると、突然口づけをした。ほんの少し舌を絡めて解放し、彼はクスリと笑った。
「少しは味わえたか?」
「あっ⋯⋯あ⋯⋯あのっ」
「これしきの事で狼狽えるな」
ホメロスは機嫌良く笑い、座り直した。残りのパンを頬張り、紅茶を一口飲んで顔を上げた。
「完璧な仕事だ。礼を言う。日頃の功績も踏まえて、何か褒美をくれてやる。欲しい物はあるか?」
「先日失敗をしたばかりですが」
「ほんの気まぐれだ。⋯⋯何を望む?」
「貴方の安全を」
エトワールは、迷いなくそう答えた。
「なによりも、貴方の安全を望みます」
ホメロスは、大きく目を見開き、言葉に詰まった。妙齢の女性は、大抵衣類や、アクセサリーなどを欲するものだ。もしくは、ホメロスを望む。
彼は妙な苛立ちを覚えた。エトワールの目に、自分が男として写っていない事に、何故か腹が立った。その理由は分からない。
「安全か⋯⋯。お前が盾となってオレを護るのなら、保証されるだろう。その望みは既に叶っている。他に何か考えろ」
エトワールは、天井を見上げて考え込んだ。彼女は貴族の娘が着る様な服を望んではいなかったし、金銭的に困ってもいなかった。
「時間を⋯⋯貴方の時間をください。期日の近い書類はありませんよね?文官に任せて、これから、少しお付き合いいただけませんか?」
「分かった」
ホメロスはすぐに頷き、席を立った。書類の束を急いで仕分けし、羊皮紙を二巻きエトワールに押し付けた。
「学者のエニアスに届けてくれ。その間に着替える」
「かしこまりました」
エトワールは、美しい礼の姿勢をとり、踵を返して部屋の外へ消えた。
(なんのつもりだ?)
ホメロスは重苦しい仕事着を脱ぎながら、考えた。
(床へつくには、早すぎる。そもそも、そういった事を望む性分でも無い)
白いシャツを着て、ふと窓の外へ目をやった。あと二時間もすれば、西日が眩しくなる頃だ。
「オレは何を考えているんだ⋯⋯」
ホメロスは、思わず言葉を漏らし、自己嫌悪に顔を歪めた。
エトワールは紅茶と白パンの乗ったオーバルトレイを手に、ホメロスの部屋の扉を叩いた。
「入れ」
中からは、すこぶる不機嫌そうな声が返って来た。何時もの事で慣れているエトワールは、遠慮なく中へ入った。
「お茶を用意いたしました。アールグレイのやや渋めを」
「休日に仕事をするなと言ったはずだ。それに、何時からメイドになった?」
「今日に限っては、メイドよりは良い仕事をした自信があります」
エトワールは、嫋やかに微笑み、カップをテーブルに置くと、紅茶を注いだ。それから、自慢の一品バンデルフォンの白パン。
ホメロスはそれを見て、目を丸くした。
「オレの好みを話した記憶は無いが⋯⋯」
「グレイグ様が教えてくださいました。⋯⋯ホメロス様。少しお休みください。いくらなんでも働き過ぎです」
「何処かの誰かが“悪魔の子”を逃さなければ、もう少し手が空いたかもしれんな」
ホメロスは無愛想に答えながらも、白パンに手を伸ばした。彼が食べる姿を見て、エトワールは安心したのと同時に、少し可笑しく思えて笑った。
それを見たホメロスは、怒るどころか寧ろ機嫌を良くした様子で、口元を緩めた。
「意外に思うか? オレの好物について」
「はい。正直、最初に聞いた時には驚きました。何時も辛口のワインを良く飲まれているので、甘いものが好きというのは可愛いな、と⋯⋯あっ」
エトワールは、慌てて両手で口を覆った。
普段、男にも勝るキビキビとした動きをしているだけに、女性的な仕草は、ホメロスをドキリとさせた。
「申し訳御座いません!」
エトワールが謝ると、ホメロスは首を横に振った。
「謝る必要は無い。自分自身でも、おかしいと思っている。⋯⋯お前は、甘い物を食べないのか?」
「はい。たまに騎士の食事にデザートが付けば食べる程度で、自分で買ってまでは⋯⋯」
「そうか」
ホメロスは徐に立ち上がり、エトワールの顎を親指で持ち上げると、突然口づけをした。ほんの少し舌を絡めて解放し、彼はクスリと笑った。
「少しは味わえたか?」
「あっ⋯⋯あ⋯⋯あのっ」
「これしきの事で狼狽えるな」
ホメロスは機嫌良く笑い、座り直した。残りのパンを頬張り、紅茶を一口飲んで顔を上げた。
「完璧な仕事だ。礼を言う。日頃の功績も踏まえて、何か褒美をくれてやる。欲しい物はあるか?」
「先日失敗をしたばかりですが」
「ほんの気まぐれだ。⋯⋯何を望む?」
「貴方の安全を」
エトワールは、迷いなくそう答えた。
「なによりも、貴方の安全を望みます」
ホメロスは、大きく目を見開き、言葉に詰まった。妙齢の女性は、大抵衣類や、アクセサリーなどを欲するものだ。もしくは、ホメロスを望む。
彼は妙な苛立ちを覚えた。エトワールの目に、自分が男として写っていない事に、何故か腹が立った。その理由は分からない。
「安全か⋯⋯。お前が盾となってオレを護るのなら、保証されるだろう。その望みは既に叶っている。他に何か考えろ」
エトワールは、天井を見上げて考え込んだ。彼女は貴族の娘が着る様な服を望んではいなかったし、金銭的に困ってもいなかった。
「時間を⋯⋯貴方の時間をください。期日の近い書類はありませんよね?文官に任せて、これから、少しお付き合いいただけませんか?」
「分かった」
ホメロスはすぐに頷き、席を立った。書類の束を急いで仕分けし、羊皮紙を二巻きエトワールに押し付けた。
「学者のエニアスに届けてくれ。その間に着替える」
「かしこまりました」
エトワールは、美しい礼の姿勢をとり、踵を返して部屋の外へ消えた。
(なんのつもりだ?)
ホメロスは重苦しい仕事着を脱ぎながら、考えた。
(床へつくには、早すぎる。そもそも、そういった事を望む性分でも無い)
白いシャツを着て、ふと窓の外へ目をやった。あと二時間もすれば、西日が眩しくなる頃だ。
「オレは何を考えているんだ⋯⋯」
ホメロスは、思わず言葉を漏らし、自己嫌悪に顔を歪めた。