03:ダーハルーネ編
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ダーハルーネに着くと、ホメロスは部下達を動かし、街の中を虱潰しに捜索させた。しかし、悪魔の子について、なんの情報も得られず、ホメロスは落胆し、エトワールは安堵した。
(お願いだから、私達の前に現れないで!)
彼女は宿のバルコニーから海を見詰めて、祈った。
(何処か遠くの、知らない街で幸せになって⋯⋯)
「何をしている?」
不意に背後から声が聞こえ、振り返ると、不機嫌そうなホメロスが、腕を組んで立っていた。エトワールは、眉を吊り上げた。
「ノックもしないで、女の部屋に入るのは、どうかと思いますよ」
「鍵を掛けていないお前の責任だ。⋯⋯それより、出掛けるから付き合え」
「今日は非番なのですが」
「奇遇だな。オレもだ」
そう答えると、ホメロスは視線を逸らして手を差し出した。
「⋯⋯その⋯⋯買い物をしたい⋯⋯から、手伝え」
「え?」
エトワールは、目を見開き、そして微笑んだ。
「喜んで」
彼女は急いで部屋に戻り、クローゼットを開けた。小さな鞄と、ゴールドの詰まった袋を用意し、ハンカチと一緒に押し込んで、肩に掛けた。
「行きましょう、ホメロス様」
「ああ」
ホメロスは、さり気なくエトワールの背中に手を当てて、歩き出した。
海風の吹く街へ出て、太陽の光を浴びた瞬間、エトワールの心は、ポっと温かくなった。隣を歩くホメロスにチラリと視線をやり、また前を向く。
(こんな、穏やかな時間が、ずっと続きますように⋯⋯)
「えっと⋯⋯ホメロス様は、何をお探しなのですか?」
「忘れたのか? 勿論白パンだ」
「そうでした!」
エトワールは、胸の前でパチンと手を合わせた。
「でも⋯⋯パンを売っているお店は、沢山あるようですね⋯⋯。何処が1番なんでしょう?」
「全部回れば良い。ついでに悪魔の子の手配書も配れば、部下の手間も省ける。⋯⋯それから⋯⋯」
ホメロスは少し躊躇い、エトワールの肩に手を置いた。
「お前の服を駄目にしてしまったからな。欲しい物を揃えてやる」
「⋯⋯嬉しい」
エトワールの口からは、思わず本音が零れていた。彼女はホメロスの手に頬を寄せ、笑った。
「嬉しいです、ホメロス様」
「エトワール」
ホメロスは、素早く彼女を抱き寄せて、唇に触れるだけのキスをした。
「行くぞ」
彼はエトワールの腰に手を回し、恋人の様に歩き出した。
その日1日は、エトワールの人生で、最も素晴らしい日となった。
ホメロスは、普段彼女が着ない様な服を面白がって勧め、その度に口論になったが、二人とも笑っていた。
夕暮れの頃、結局エトワールは、白と生成の無難なローブを何枚か手に入れ、ホメロスは白パンの入った紙の箱を手に提げていた。
楽しい気持ちを抱えたまま、大通りを歩いていると、ふと、エトワールは足を止めた。静かな佇まいの店のガラスの奥で、不思議な力を放っている宝石達が煌めいていた。
「ホメロス様、ちょっとここでお待ちいただけますか?」
「宝石に興味があったのか? それならオレが──」
「いいえ! ここで待っていてください! すぐに戻りますから!!」
エトワールは早口に言うと、素早く店の中に身体を滑り込ませた。
店内は、しんと静まり返っており、ホコリの匂いがする。
「あの!」
エトワールが声を上げると、店の奥から女性が現れた。青みがかった黒髪に、エメラルドグリーンの瞳を持った、不思議な雰囲気の女性だ。
「いらっしゃいませ。お気に召した品がありましたか?」
「あ⋯⋯いえ、あの⋯⋯贈り物を探しているんです! 男性用のピアスはありますか? 私⋯⋯こういう物に疎くて⋯⋯」
「あらあら」
女性はクスクスと笑った。
「大切な人への贈り物なのね? それなら、こちらがおすすめだわ」
「コレは⋯⋯?」
「赤珊瑚。宝石言葉は、聡明、幸福。想像力と実行力を高める、魔法の力が込められているのだけれど⋯⋯どうかしら?」
「ピッタリだわ! あ⋯⋯でも、どうして⋯⋯」
エトワールが驚いて立ち尽くすと、女性はゆっくりと彼女の周りを歩いて眺め回した。
「⋯⋯不思議ね。本当に⋯⋯あの人にそっくり。⋯⋯座ってくれるかしら?お茶をいれるわ」
「え? あ、でも、一緒に来ている人が──」
「あの金髪の人なら、何処か他所へ行ったわよ。何か用事があるみたいね」
「ええ?!」
エトワールは、驚いて店の外へ飛び出した。確かに、幾ら見回してもホメロスの姿は無い。
(信じられない! 誘ってくれたのはあの人なのに!!)
彼女は怒りと呆れを半分ずつ感じながら、店の中へ戻った。他に用も無いので、女性の話に付き合おうと思ったのだ。
「私は人魚なの」
唐突に、女性はそんな事を言った。エトワールは即座に否定しなかったが、信じられない気持ちで、用意された椅子に掛けた。
女性はティーセットをテーブルに置き、ニコリと微笑んだ。
「まだ名乗っていなかったわね。私はエステル。人魚というのは、本当。貴女の事を、ずっと見ていたわ」
彼女が指した先にある水晶には、エトワールの顔がハッキリと映っていた。
「エステル⋯⋯さん、ですか。でも、人魚って、足が無いはずですよね?」
混乱しつつもエトワールが訊ねると、エステルは肩を竦めた。
「それは、海の底にいる人魚の姿。陸に上がった人魚は、人間と同じ姿になれるの。⋯⋯もっとも、海へ戻れば泡となって消えてしまうけれど⋯⋯。ねえ、貴女は命の大樹の話を信じる?その葉の一枚一枚がすべて命であり、生命は死した後にこの大樹に送られふたたび芽吹く⋯⋯」
「えっと⋯⋯あんまり信じていないです⋯⋯ね。だって、前世の記憶なんてありませんし、葉っぱ一枚が私の命だなんて⋯⋯風に吹かれれば消えてしまうほど、自分が儚い存在だなんて思えませんし」
「あははは」
エステルは快活な笑い声を上げた。
「やっぱり、貴女は変わらない。⋯⋯私は信じているの。人魚は長寿だから、中々死ねないけれど、愛した人は皆、先に逝ってしまう。あの水晶で見守っているの。何度生まれ変わっても、必ず探し出して、隣にいたいから。⋯⋯でも、まさか女の子になっちゃうなんて、予想外だったわ! そういう可能性がある事を、覚えておくべきだった。お茶をどうぞ」
「ありがとうございます」
エトワールは素直に受け取り、口を付けた。渋みの少ない、好みの味だった。
エステルは、身を乗り出して、じーっとエトワールを見つめた。
「⋯⋯ねえ、貴女はあの人じゃないと駄目なの? あの金髪の綺麗な人」
「ホメロス様のことですか? ⋯⋯はい。他に心から想える人はいません。あの人の力になりたいんです!」
「⋯⋯そう」
エステルは表情を曇らせた。
「そうなのね⋯⋯。それなら、今の私には祈る事しか出来ない。⋯⋯幸せになって! 貴女が次に散るその時まで、もう貴女の姿を求めはしません。だから⋯⋯幸せに生きて!!」
彼女は強い口調で言い、エトワールをギュッと抱きしめた。
その時、理由もなくエトワールの瞳から涙が零れた。
「⋯⋯あれ? なんでしょう? 悲しくもないのに⋯⋯どうして涙が⋯⋯」
いくら考えても、答えは浮かばなかった。しかし、エステルの言葉が真実だとしたら⋯⋯。
(頭や......心が忘れても、魂が覚えている? ⋯⋯そんな事、あるのかしら?)
「ありがとうございます」
エトワールは、努力して、明るい声を振り絞った。
「幸せになります。貴女も。⋯⋯何時か産まれてくる私を、待っていてください」
「優しい子ね。でも、私の事は忘れて良いの。あの人の事を想って生きて。次の人生でも愛し合いたいと思えるくらいに、幸せになって!」
エステルは、エトワールを解放し、ニコリと笑った。
「お代は5000ゴールドよ」
「はい! ちょっと待ってくださいね!」
かなり高額の品だったが、エトワールはそのくらい余裕で持ち合わせていた。それをも見越して勧めて来たのなら、エステルは本当にエトワールを見守っていたのだろう。
「ちょうどです」
「ありがとうございました」
エステルは丁寧に金貨を数え、宝箱にしまった。
「さようなら、エトワール」
その声があまりにも儚げで、エトワールは不安になった。
「あの! ⋯⋯貴女はこれらからもお店を?」
「ええ。⋯⋯貴女が言いたいことは分かる」
エステルは苦笑した。
「死ぬのは怖いわ。出来たら、とっくに海に足をつけている。愛する人と同じ長さの命を貰って生きたいと願って。でも⋯⋯私は今の自分の気持を無くしてしまうのが怖いの。あの人を好きだった私を、死なせたくないの! ⋯⋯私は弱い“半人間”だわ⋯⋯」
「エステルさん」
エトワールは、手を差し出した。
「お友達になりませんか? 私、デルカダールという国に住んでいます。珍しい宝石を仕入れて、ここへ持って来ます! だから、私とお友達になってください」
その言葉を聞き、エステルは目を大きく見開いた。そして、柔らかく微笑んだ。
「ええ、喜んで。私⋯⋯友達はみんな、海の底に置いて来ちゃったから」
「ありがとう! また来ますね」
エトワールは、エステルの表情を見て安堵し、手を振りながら店を出た。
(お願いだから、私達の前に現れないで!)
彼女は宿のバルコニーから海を見詰めて、祈った。
(何処か遠くの、知らない街で幸せになって⋯⋯)
「何をしている?」
不意に背後から声が聞こえ、振り返ると、不機嫌そうなホメロスが、腕を組んで立っていた。エトワールは、眉を吊り上げた。
「ノックもしないで、女の部屋に入るのは、どうかと思いますよ」
「鍵を掛けていないお前の責任だ。⋯⋯それより、出掛けるから付き合え」
「今日は非番なのですが」
「奇遇だな。オレもだ」
そう答えると、ホメロスは視線を逸らして手を差し出した。
「⋯⋯その⋯⋯買い物をしたい⋯⋯から、手伝え」
「え?」
エトワールは、目を見開き、そして微笑んだ。
「喜んで」
彼女は急いで部屋に戻り、クローゼットを開けた。小さな鞄と、ゴールドの詰まった袋を用意し、ハンカチと一緒に押し込んで、肩に掛けた。
「行きましょう、ホメロス様」
「ああ」
ホメロスは、さり気なくエトワールの背中に手を当てて、歩き出した。
海風の吹く街へ出て、太陽の光を浴びた瞬間、エトワールの心は、ポっと温かくなった。隣を歩くホメロスにチラリと視線をやり、また前を向く。
(こんな、穏やかな時間が、ずっと続きますように⋯⋯)
「えっと⋯⋯ホメロス様は、何をお探しなのですか?」
「忘れたのか? 勿論白パンだ」
「そうでした!」
エトワールは、胸の前でパチンと手を合わせた。
「でも⋯⋯パンを売っているお店は、沢山あるようですね⋯⋯。何処が1番なんでしょう?」
「全部回れば良い。ついでに悪魔の子の手配書も配れば、部下の手間も省ける。⋯⋯それから⋯⋯」
ホメロスは少し躊躇い、エトワールの肩に手を置いた。
「お前の服を駄目にしてしまったからな。欲しい物を揃えてやる」
「⋯⋯嬉しい」
エトワールの口からは、思わず本音が零れていた。彼女はホメロスの手に頬を寄せ、笑った。
「嬉しいです、ホメロス様」
「エトワール」
ホメロスは、素早く彼女を抱き寄せて、唇に触れるだけのキスをした。
「行くぞ」
彼はエトワールの腰に手を回し、恋人の様に歩き出した。
その日1日は、エトワールの人生で、最も素晴らしい日となった。
ホメロスは、普段彼女が着ない様な服を面白がって勧め、その度に口論になったが、二人とも笑っていた。
夕暮れの頃、結局エトワールは、白と生成の無難なローブを何枚か手に入れ、ホメロスは白パンの入った紙の箱を手に提げていた。
楽しい気持ちを抱えたまま、大通りを歩いていると、ふと、エトワールは足を止めた。静かな佇まいの店のガラスの奥で、不思議な力を放っている宝石達が煌めいていた。
「ホメロス様、ちょっとここでお待ちいただけますか?」
「宝石に興味があったのか? それならオレが──」
「いいえ! ここで待っていてください! すぐに戻りますから!!」
エトワールは早口に言うと、素早く店の中に身体を滑り込ませた。
店内は、しんと静まり返っており、ホコリの匂いがする。
「あの!」
エトワールが声を上げると、店の奥から女性が現れた。青みがかった黒髪に、エメラルドグリーンの瞳を持った、不思議な雰囲気の女性だ。
「いらっしゃいませ。お気に召した品がありましたか?」
「あ⋯⋯いえ、あの⋯⋯贈り物を探しているんです! 男性用のピアスはありますか? 私⋯⋯こういう物に疎くて⋯⋯」
「あらあら」
女性はクスクスと笑った。
「大切な人への贈り物なのね? それなら、こちらがおすすめだわ」
「コレは⋯⋯?」
「赤珊瑚。宝石言葉は、聡明、幸福。想像力と実行力を高める、魔法の力が込められているのだけれど⋯⋯どうかしら?」
「ピッタリだわ! あ⋯⋯でも、どうして⋯⋯」
エトワールが驚いて立ち尽くすと、女性はゆっくりと彼女の周りを歩いて眺め回した。
「⋯⋯不思議ね。本当に⋯⋯あの人にそっくり。⋯⋯座ってくれるかしら?お茶をいれるわ」
「え? あ、でも、一緒に来ている人が──」
「あの金髪の人なら、何処か他所へ行ったわよ。何か用事があるみたいね」
「ええ?!」
エトワールは、驚いて店の外へ飛び出した。確かに、幾ら見回してもホメロスの姿は無い。
(信じられない! 誘ってくれたのはあの人なのに!!)
彼女は怒りと呆れを半分ずつ感じながら、店の中へ戻った。他に用も無いので、女性の話に付き合おうと思ったのだ。
「私は人魚なの」
唐突に、女性はそんな事を言った。エトワールは即座に否定しなかったが、信じられない気持ちで、用意された椅子に掛けた。
女性はティーセットをテーブルに置き、ニコリと微笑んだ。
「まだ名乗っていなかったわね。私はエステル。人魚というのは、本当。貴女の事を、ずっと見ていたわ」
彼女が指した先にある水晶には、エトワールの顔がハッキリと映っていた。
「エステル⋯⋯さん、ですか。でも、人魚って、足が無いはずですよね?」
混乱しつつもエトワールが訊ねると、エステルは肩を竦めた。
「それは、海の底にいる人魚の姿。陸に上がった人魚は、人間と同じ姿になれるの。⋯⋯もっとも、海へ戻れば泡となって消えてしまうけれど⋯⋯。ねえ、貴女は命の大樹の話を信じる?その葉の一枚一枚がすべて命であり、生命は死した後にこの大樹に送られふたたび芽吹く⋯⋯」
「えっと⋯⋯あんまり信じていないです⋯⋯ね。だって、前世の記憶なんてありませんし、葉っぱ一枚が私の命だなんて⋯⋯風に吹かれれば消えてしまうほど、自分が儚い存在だなんて思えませんし」
「あははは」
エステルは快活な笑い声を上げた。
「やっぱり、貴女は変わらない。⋯⋯私は信じているの。人魚は長寿だから、中々死ねないけれど、愛した人は皆、先に逝ってしまう。あの水晶で見守っているの。何度生まれ変わっても、必ず探し出して、隣にいたいから。⋯⋯でも、まさか女の子になっちゃうなんて、予想外だったわ! そういう可能性がある事を、覚えておくべきだった。お茶をどうぞ」
「ありがとうございます」
エトワールは素直に受け取り、口を付けた。渋みの少ない、好みの味だった。
エステルは、身を乗り出して、じーっとエトワールを見つめた。
「⋯⋯ねえ、貴女はあの人じゃないと駄目なの? あの金髪の綺麗な人」
「ホメロス様のことですか? ⋯⋯はい。他に心から想える人はいません。あの人の力になりたいんです!」
「⋯⋯そう」
エステルは表情を曇らせた。
「そうなのね⋯⋯。それなら、今の私には祈る事しか出来ない。⋯⋯幸せになって! 貴女が次に散るその時まで、もう貴女の姿を求めはしません。だから⋯⋯幸せに生きて!!」
彼女は強い口調で言い、エトワールをギュッと抱きしめた。
その時、理由もなくエトワールの瞳から涙が零れた。
「⋯⋯あれ? なんでしょう? 悲しくもないのに⋯⋯どうして涙が⋯⋯」
いくら考えても、答えは浮かばなかった。しかし、エステルの言葉が真実だとしたら⋯⋯。
(頭や......心が忘れても、魂が覚えている? ⋯⋯そんな事、あるのかしら?)
「ありがとうございます」
エトワールは、努力して、明るい声を振り絞った。
「幸せになります。貴女も。⋯⋯何時か産まれてくる私を、待っていてください」
「優しい子ね。でも、私の事は忘れて良いの。あの人の事を想って生きて。次の人生でも愛し合いたいと思えるくらいに、幸せになって!」
エステルは、エトワールを解放し、ニコリと笑った。
「お代は5000ゴールドよ」
「はい! ちょっと待ってくださいね!」
かなり高額の品だったが、エトワールはそのくらい余裕で持ち合わせていた。それをも見越して勧めて来たのなら、エステルは本当にエトワールを見守っていたのだろう。
「ちょうどです」
「ありがとうございました」
エステルは丁寧に金貨を数え、宝箱にしまった。
「さようなら、エトワール」
その声があまりにも儚げで、エトワールは不安になった。
「あの! ⋯⋯貴女はこれらからもお店を?」
「ええ。⋯⋯貴女が言いたいことは分かる」
エステルは苦笑した。
「死ぬのは怖いわ。出来たら、とっくに海に足をつけている。愛する人と同じ長さの命を貰って生きたいと願って。でも⋯⋯私は今の自分の気持を無くしてしまうのが怖いの。あの人を好きだった私を、死なせたくないの! ⋯⋯私は弱い“半人間”だわ⋯⋯」
「エステルさん」
エトワールは、手を差し出した。
「お友達になりませんか? 私、デルカダールという国に住んでいます。珍しい宝石を仕入れて、ここへ持って来ます! だから、私とお友達になってください」
その言葉を聞き、エステルは目を大きく見開いた。そして、柔らかく微笑んだ。
「ええ、喜んで。私⋯⋯友達はみんな、海の底に置いて来ちゃったから」
「ありがとう! また来ますね」
エトワールは、エステルの表情を見て安堵し、手を振りながら店を出た。