01:出会い編
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エトワールは、複雑な気持ちでいた。
玉座の間に現れた少年は、想像していた“悪魔の子”と、全く違う印象だった。
絹糸の様にサラサラの髪に、意志の強さを兼ね添えた瞳。純朴で優しそうな目付きの少年だった。
ホメロスは、王の命令を受け、少年が語ったイシの村の人間を、殲滅するべく城を出て、エトワールもそれに従った。
しかし、実際にのどかな村に辿り着き、人々の慎ましやかな生活を目にして、初めて疑問を抱いた。
“本当の悪魔は、誰?”
ホメロスを怖いと思った。彼は、丸腰の民の腕を乱暴に掴み、広場に引き摺り出す事に、良心の呵責すら見せなかった。当たり前の事の様に、淡々と同じ“作業”を続ける。
周りの兵たちも、ヒソヒソと不満の声を漏らしていた。中にはもっと酷い目に遭わない様、大人しく従う様に村人を説得する者も現れた。
「出て行って!」
押し入った家の中で、エトワールは金髪の少女に怒りのこもった声をぶつけられた。
「イレブンが悪魔の子ですって?! そんなの嘘に決まっているわ! 私は幼馴染よ?! 彼がそんなじゃないって、私は誰よりも知っている!!」
「お願い、言う事をきいて!!」
エトワールは、思わず本音を叫んでしまった。幸いこの家を担当しているのは彼女一人で、目の前の少女以外に聞いている者はいなかった。
「この家に⋯⋯火を点けられる前に、私の言う事をきいて!」
エトワールは、少女の腕を掴んで、建物の外へ引きずり出した。別の兵が既に火を放っており、これ以上手こずっていたら、危ないところだった。
「そんな......」
少女は、打ち壊された村の建物を目にして、顔色を失った。
「私たちが⋯⋯私たちが何をしたって言うの?!」
「こっちへ」
エトワールは、少女の腕を引っ張り、他の村人たちの所へ連れて行った。彼女を解放すると、村長が抱き寄せた。
「これで“全部”か?」
ホメロスが冷ややかな声で訊ねた。
「“全員”の様です」
エトワールは、敢えて言い回しを変えて答えた。
「それではお前たちに罰を与えるとしよう」
ホメロスの一言で、村人たちは震え上がった。しかし、先ほどの少女だけが気丈に立ち上がった。
「罰ですって?! 私たちが何をしたと言うの?!」
「この世界を滅ぼす“悪魔の子”を匿い、育てた。故に全員皆殺しとする」
「お待ちください!!」
反射的に、エトワールは声を上げていた。彼女は斬られる覚悟でホメロスの前に立ちはだかり、両手を広げた。
「エトワール⋯⋯。自分のやっている事が分かっているのか?!」
「解っています!」
エトワールは、血を吐く様な声色で訴え掛けた。
「殺す必要はありません!! この人たちは、あの少年が“悪魔の子”だとは、知らなかったのです!!」
「しかし、ユグノアの首飾りを見せる様、指示した者がいるはずだ」
「ならば、その者だけを斬れば良いではありませんか!! 何故全員を殺す必要があるのですか?! これでは⋯⋯これでは、貴方が悪魔になってしまいます!!」
「黙れ!!」
ホメロスは、思い切りエトワールの頬を張り飛ばした。
「お前を解任する。私に異を唱えるならば、この村人どもと、運命を共にするが良い!!」
「お待ちくだ──」
「待て、ホメロス!!」
想定外の声が響き、ホメロスは、サッと振り返った。愛馬リタリフォンから飛び降りたグレイグが、怒りの形相で歩み寄って来たのだ。
「何故、皆殺しにする必要がある? ⋯⋯何故お前は笑っている?!」
「笑って⋯⋯?」
ホメロスは驚き、そして笑みを深めた。彼は自分が想像以上に残酷になれていた事に、喜びを隠しきれなかった。これでまた一つ、彼は、彼の真の主人に近付けたのだ。
「笑うなと言う方がおかしいだろう。よもや、ユグノアの悲劇を忘れたとは言うまいな? 全てを狂わせた“悪魔の子”を匿った罪は重い!!」
「では、皆に問おう」
グレイグは、村人たちに向き直った。
「あの青年⋯⋯イレブンが悪魔の子であると知っていた者は手を挙げろ!!」
村人は、誰一人として手を挙げ無かった。次に、グレイグは、デルカダールの騎士たちを見た。
「お前たちの中で、村人の口から悪魔の子について聞いた者はいるか?!」
こちらも、挙手は無かった。
グレイグは、気分を害された様子のホメロスと向き合い、意識して声を落ち着かせた。
「村は焼き討ちに。村人は地下牢に捕えておけ。⋯⋯悪魔の子を始末した後、解放すれば良い」
「⋯⋯勝手にしろ!」
ホメロスは、くるりと踵を返し、村の入り口へ向かって行った。数人の騎士が慌てて後を追ったが、エトワールは動けなかった。
「全員縄で括って捕えろ」
グレイグが簡単に命じると、残った騎士たちは、ホッと胸を撫で下ろして指示に従った。
「エトワール、大丈夫か?」
「逆に訊きますが、大丈夫に見えます?」
「⋯⋯鼻血が出るほど殴られてまで、ホメロスを止めてくれた事に、感謝する」
グレイグは回復呪文を唱え、エトワールに手を貸して立たせた。
「お前が止めに入っていなければ、何人かここで犠牲になっていたかもしれん」
「でも、お陰で無職になりました」
「心配するな。ホメロスも冷静さを取り戻せば、己のおかしさに気付くだろう」
「そうでしょうか」
エトワールは、身震いした。焼き討ちと、関係者の抹殺は、事前に王から指示されていたのだろう。
驚いたのは、ホメロスが殺戮を面白がっていたことだ。彼は確かに笑っていた。
「あの⋯⋯」
不意に声を掛けられ、エトワールは顔をあげた。先ほど無理矢理引っ張り出した少女が、後ろ手に縛られ立ち止まっていた。
「私、エマです。あの⋯⋯ありがとうございました」
エトワールは、何も言えなかった。
火の手はあっという間に広がり、村を灰に変えてしまった。
玉座の間に現れた少年は、想像していた“悪魔の子”と、全く違う印象だった。
絹糸の様にサラサラの髪に、意志の強さを兼ね添えた瞳。純朴で優しそうな目付きの少年だった。
ホメロスは、王の命令を受け、少年が語ったイシの村の人間を、殲滅するべく城を出て、エトワールもそれに従った。
しかし、実際にのどかな村に辿り着き、人々の慎ましやかな生活を目にして、初めて疑問を抱いた。
“本当の悪魔は、誰?”
ホメロスを怖いと思った。彼は、丸腰の民の腕を乱暴に掴み、広場に引き摺り出す事に、良心の呵責すら見せなかった。当たり前の事の様に、淡々と同じ“作業”を続ける。
周りの兵たちも、ヒソヒソと不満の声を漏らしていた。中にはもっと酷い目に遭わない様、大人しく従う様に村人を説得する者も現れた。
「出て行って!」
押し入った家の中で、エトワールは金髪の少女に怒りのこもった声をぶつけられた。
「イレブンが悪魔の子ですって?! そんなの嘘に決まっているわ! 私は幼馴染よ?! 彼がそんなじゃないって、私は誰よりも知っている!!」
「お願い、言う事をきいて!!」
エトワールは、思わず本音を叫んでしまった。幸いこの家を担当しているのは彼女一人で、目の前の少女以外に聞いている者はいなかった。
「この家に⋯⋯火を点けられる前に、私の言う事をきいて!」
エトワールは、少女の腕を掴んで、建物の外へ引きずり出した。別の兵が既に火を放っており、これ以上手こずっていたら、危ないところだった。
「そんな......」
少女は、打ち壊された村の建物を目にして、顔色を失った。
「私たちが⋯⋯私たちが何をしたって言うの?!」
「こっちへ」
エトワールは、少女の腕を引っ張り、他の村人たちの所へ連れて行った。彼女を解放すると、村長が抱き寄せた。
「これで“全部”か?」
ホメロスが冷ややかな声で訊ねた。
「“全員”の様です」
エトワールは、敢えて言い回しを変えて答えた。
「それではお前たちに罰を与えるとしよう」
ホメロスの一言で、村人たちは震え上がった。しかし、先ほどの少女だけが気丈に立ち上がった。
「罰ですって?! 私たちが何をしたと言うの?!」
「この世界を滅ぼす“悪魔の子”を匿い、育てた。故に全員皆殺しとする」
「お待ちください!!」
反射的に、エトワールは声を上げていた。彼女は斬られる覚悟でホメロスの前に立ちはだかり、両手を広げた。
「エトワール⋯⋯。自分のやっている事が分かっているのか?!」
「解っています!」
エトワールは、血を吐く様な声色で訴え掛けた。
「殺す必要はありません!! この人たちは、あの少年が“悪魔の子”だとは、知らなかったのです!!」
「しかし、ユグノアの首飾りを見せる様、指示した者がいるはずだ」
「ならば、その者だけを斬れば良いではありませんか!! 何故全員を殺す必要があるのですか?! これでは⋯⋯これでは、貴方が悪魔になってしまいます!!」
「黙れ!!」
ホメロスは、思い切りエトワールの頬を張り飛ばした。
「お前を解任する。私に異を唱えるならば、この村人どもと、運命を共にするが良い!!」
「お待ちくだ──」
「待て、ホメロス!!」
想定外の声が響き、ホメロスは、サッと振り返った。愛馬リタリフォンから飛び降りたグレイグが、怒りの形相で歩み寄って来たのだ。
「何故、皆殺しにする必要がある? ⋯⋯何故お前は笑っている?!」
「笑って⋯⋯?」
ホメロスは驚き、そして笑みを深めた。彼は自分が想像以上に残酷になれていた事に、喜びを隠しきれなかった。これでまた一つ、彼は、彼の真の主人に近付けたのだ。
「笑うなと言う方がおかしいだろう。よもや、ユグノアの悲劇を忘れたとは言うまいな? 全てを狂わせた“悪魔の子”を匿った罪は重い!!」
「では、皆に問おう」
グレイグは、村人たちに向き直った。
「あの青年⋯⋯イレブンが悪魔の子であると知っていた者は手を挙げろ!!」
村人は、誰一人として手を挙げ無かった。次に、グレイグは、デルカダールの騎士たちを見た。
「お前たちの中で、村人の口から悪魔の子について聞いた者はいるか?!」
こちらも、挙手は無かった。
グレイグは、気分を害された様子のホメロスと向き合い、意識して声を落ち着かせた。
「村は焼き討ちに。村人は地下牢に捕えておけ。⋯⋯悪魔の子を始末した後、解放すれば良い」
「⋯⋯勝手にしろ!」
ホメロスは、くるりと踵を返し、村の入り口へ向かって行った。数人の騎士が慌てて後を追ったが、エトワールは動けなかった。
「全員縄で括って捕えろ」
グレイグが簡単に命じると、残った騎士たちは、ホッと胸を撫で下ろして指示に従った。
「エトワール、大丈夫か?」
「逆に訊きますが、大丈夫に見えます?」
「⋯⋯鼻血が出るほど殴られてまで、ホメロスを止めてくれた事に、感謝する」
グレイグは回復呪文を唱え、エトワールに手を貸して立たせた。
「お前が止めに入っていなければ、何人かここで犠牲になっていたかもしれん」
「でも、お陰で無職になりました」
「心配するな。ホメロスも冷静さを取り戻せば、己のおかしさに気付くだろう」
「そうでしょうか」
エトワールは、身震いした。焼き討ちと、関係者の抹殺は、事前に王から指示されていたのだろう。
驚いたのは、ホメロスが殺戮を面白がっていたことだ。彼は確かに笑っていた。
「あの⋯⋯」
不意に声を掛けられ、エトワールは顔をあげた。先ほど無理矢理引っ張り出した少女が、後ろ手に縛られ立ち止まっていた。
「私、エマです。あの⋯⋯ありがとうございました」
エトワールは、何も言えなかった。
火の手はあっという間に広がり、村を灰に変えてしまった。