02:旅立ち編
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人の動く気配を感じ、エトワールは薄目を開けた。まだ部屋の中は暗い。
ゆっくり体を起こし、ホメロスがいない事に気が付いた。急いで立ち上がり、何時の間にかキチンと畳まれていた服を身に付け、外へ出る。
潮風が頬を撫で、波の音は静かに響き、エトワールの胸に涼しい風を送り込んだ。
ホメロスは船縁に寄り掛かり、ぼんやりと月を眺めていた。
「ホメロス様?」
エトワールが駆け寄ると、彼は穏やかに微笑み手を差し出した。
「起こしてしまったか」
エトワールの身体を支える様に抱き寄せ、自分の上着の中に入れてやった。
「寝て、目が醒めれば、全て夢になっているのではなかろうかと、怖くてな」
「夢ではありません。私は、貴方が望むのなら、何度でもご一緒いたします」
「⋯⋯では、口付けをしてもよろしいでしょうか、姫君?」
ホメロスの改まった口調に、エトワールは視線を逸らした。
「⋯⋯ご命令でしたら」
苦し紛れに彼女がそう応えると、ホメロスは苦笑した。
「命令ではない。嫌なら、その気になるまで──」
皆まで言い終わらぬ内に、エトワールは背伸びをして、ホメロスの唇に触れるだけのキスをした。
「おやすみなさい、ホメロス様」
エトワールは穏やかに囁き、踵を返した。ホメロスは、慌ててその肩を掴んだ。
「待て」
彼自身、自分の想いを上手く言葉に出来ず、戸惑った。こんな体験は初めてだ。
「え?」
エトワールは、キョトンとした表情で振り返った。ホメロスは、小さな体を抱き寄せ、言葉を探す。
「⋯⋯その⋯⋯なんだ⋯⋯こういう時は、普通、朝まで共に過ごすものだ!!」
「そ⋯⋯そうだったのですね! 申し訳ございません!! ご一緒させていただきます!!」
「いや、強制では無い。嫌なら嫌と言って構わないが──」
「一緒にいたいです!!」
エトワールは、ホメロスの腕に抱きついて叫んでいた。そのままの体勢で続ける。
「これからも、ずっと貴方のお側にいたいです! ⋯⋯し⋯⋯しっかりお伝えする前に、あんな事になってしまって、申し訳御座いません⋯⋯。私、ホメロス様の事が大好きです! ずっと前から、貴方の事が好きだったんです!!」
(嗚呼⋯⋯)
ホメロスは、胸を打たれて言葉が出なかった。エトワールは、ホメロスの地位には興味などなく、ただ直向きに愛情を向けた。打算も、義務感も無い愛情を、彼は生まれて初めて知ったのだ。
「え?! あ⋯⋯あの」
エトワールは、何度も口を開閉した。ホメロスは笑いながら、涙を零していた。
「ごめんなさい! 私、ハンカチを持っていない──」
「エトワール!」
ホメロスは、思い切り彼女に抱きつき、肩に顔を埋めた。
(オレの正体を知れば、こいつは軽蔑するだろう。決して許さない。せめて⋯⋯)
「何があっても、お前を守る。危険な目には遭わせない。⋯⋯側にいてくれ」
「はい。何時迄も」
エトワールは即答し、ホメロスの背を摩った。丸々1分が過ぎた頃、彼はようやくエトワールを解放し、何時もの不遜な笑みを浮かべた。
「せいぜい、その調子でオレに尽くせ。オレもお前が喜ぶ様に振舞おう」
エトワールの腰に腕を回し、歩き出した。彼女は男に触れられる事に慣れていないらしく、緊張している。
「こうやって、触れられるのは嫌か?」
「い⋯⋯いえ。だだ、その⋯⋯ひゃ?!」
突然背中に指を這わされ、エトワールは飛び上がってしまった。膝の力が抜けて、カクリとしゃがみ込みそうになり、ホメロスは慌てて支えた。
エトワールは頬を赤く染めて、顔を背けた。
「わ⋯⋯私、ホメロス様に触れられると、体がおかしくなってしまうんです! どうしてでしょう⋯⋯?」
「それをオレに訊くか」
ホメロスは、前髪をかきあげ、肩を揺らして笑ってしまった。
「純粋な癖に、身体は敏感なのか⋯⋯。これだけでは、不安だな」
彼はエトワールのピアスに触れ、唐突に彼女を壁に押し付けると、首筋に歯を立てた。
「痛い! ⋯⋯ホメロス様っ!!」
「この印があれば、誰も手出しはできんだろう。それに」
彼が横を向いた瞬間、船室の扉が開いた。
「まったく! なんで僕ばっかりこんな──」
空の酒瓶を持ったローランが、2人の姿を目にして立ち尽くした。
「あ⋯⋯え⋯⋯その⋯⋯」
「ローラン。今目にした事を、全力で吹聴して廻れ」
「はい! ⋯⋯ってはぁ?!」
ローランは、命令の意図を読み取れずに、仰け反った。ホメロスは意地悪く笑っている。
「間違った噂話が広がり、どうしたものかと悩んでいた所だ。⋯⋯私が愛せた女は“エトワールだけ”だ」
“だから、お前は手を出すな”と、彼は胸の内で完結させた。そして、立ち去ろうとした時。
「あの!」
ローランは、眉尻を下げながら、不安そうに声を振り絞った。
「良いのですか? ⋯⋯エトワールさん。もし⋯⋯もし」
彼は迷った挙句、喉をゴクリと鳴らし、剣に手を掛けた。
「無理矢理⋯⋯無理矢理従わされているんでしたら、言ってください!!」
「そうだと言ったら、どうするつもりだ?」
ホメロスは、スッと目を細めた。冷たい視線をローランに注ぎ、答えを促す。
ローランは怯えながら、ゆっくりと剣を抜いた。
「僕の上官が酷い目に遭わされているのなら、それを放っておくわけには行きません!」
「ローラン!」
エトワールは、胸がいっぱいになり、気付けば少年の首に抱きついていた。彼は、初めて会った時から、勇敢だった。上官に歯向かってまで、正義を貫き通したのだ。
「ありがとう。⋯⋯ありがとう、ローラン。貴方はとても勇敢な人だわ」
「はいぃぃ!!」
ローランは、硬直し、チラチラとホメロスを見ながら返事をした。ホメロスはピクリとも表情を変えずに、静観している。
「⋯⋯剣を収めて」
エトワールは、ローランの両肩に手を置いて、体を離した。
「私は、ホメロス様の欲する事なら、望んでなんでもするつもりよ。私自身の意思で。ホメロス様が望んでくださるのなら、私はずっとお側にいるわ。だから⋯⋯」
「分かりました」
ローランはコクリと頷き、剣を収めた。そして膝を床に着き、深々と礼の姿勢を取った。
「ご無礼をお許しください!」
「ウィスキーの空瓶を転がした横で、謝罪されてもな」
ホメロスは意地悪く言い返し、グッとエトワールの肩を自分の方へ引き寄せた。
「その勢いで、エトワールの周囲から虫ケラを排除しろ」
「はい!」
ローランが益々頭を下げたのを見て、ホメロスはゆっくり歩き出した。
そのまま自室にエトワールを連れ込み、ベッドではなくソファーに掛けた。
「隣へ来い。眠るのも惜しい」
「いいえ」
エトワールは、きっぱりと首を横に振った。
「夜更かしは体に良くありません。もう休みましょう、ホメロス様」
その言葉に、ホメロスは寂しげな笑みを浮かべた。
「お前の優しさは、痛いな⋯⋯。もう少し甘やかしてくれても良かろう?」
「駄目です。ベッドに戻りますよ」
「続きをしても良いということか?」
「違います!!」
エトワールは真っ赤になって言い返し、ホメロスの腕を掴んで引っ張った。
「眠るんです!!」
「⋯⋯まだ、続きがある事は知っているのか」
ホメロスがほくそ笑むと、エトワールは涙目になってしまった。
「いい加減にしてください! 明日も早いんです!! ほら!! 寝ますよ!!」
彼女は女性に不似合いな力を振り絞り、ホメロスをベッドに投げ飛ばすと、自分も隅の方に横たわり、彼に背を向けて丸まってしまった。
その背中を見て、ホメロスは思わず笑ってしまった。声を押し殺して肩を震わせ、そっとシーツを肩まで掛けてやった。
「何もしない。安心して休め」
返事は無かった。
ゆっくり体を起こし、ホメロスがいない事に気が付いた。急いで立ち上がり、何時の間にかキチンと畳まれていた服を身に付け、外へ出る。
潮風が頬を撫で、波の音は静かに響き、エトワールの胸に涼しい風を送り込んだ。
ホメロスは船縁に寄り掛かり、ぼんやりと月を眺めていた。
「ホメロス様?」
エトワールが駆け寄ると、彼は穏やかに微笑み手を差し出した。
「起こしてしまったか」
エトワールの身体を支える様に抱き寄せ、自分の上着の中に入れてやった。
「寝て、目が醒めれば、全て夢になっているのではなかろうかと、怖くてな」
「夢ではありません。私は、貴方が望むのなら、何度でもご一緒いたします」
「⋯⋯では、口付けをしてもよろしいでしょうか、姫君?」
ホメロスの改まった口調に、エトワールは視線を逸らした。
「⋯⋯ご命令でしたら」
苦し紛れに彼女がそう応えると、ホメロスは苦笑した。
「命令ではない。嫌なら、その気になるまで──」
皆まで言い終わらぬ内に、エトワールは背伸びをして、ホメロスの唇に触れるだけのキスをした。
「おやすみなさい、ホメロス様」
エトワールは穏やかに囁き、踵を返した。ホメロスは、慌ててその肩を掴んだ。
「待て」
彼自身、自分の想いを上手く言葉に出来ず、戸惑った。こんな体験は初めてだ。
「え?」
エトワールは、キョトンとした表情で振り返った。ホメロスは、小さな体を抱き寄せ、言葉を探す。
「⋯⋯その⋯⋯なんだ⋯⋯こういう時は、普通、朝まで共に過ごすものだ!!」
「そ⋯⋯そうだったのですね! 申し訳ございません!! ご一緒させていただきます!!」
「いや、強制では無い。嫌なら嫌と言って構わないが──」
「一緒にいたいです!!」
エトワールは、ホメロスの腕に抱きついて叫んでいた。そのままの体勢で続ける。
「これからも、ずっと貴方のお側にいたいです! ⋯⋯し⋯⋯しっかりお伝えする前に、あんな事になってしまって、申し訳御座いません⋯⋯。私、ホメロス様の事が大好きです! ずっと前から、貴方の事が好きだったんです!!」
(嗚呼⋯⋯)
ホメロスは、胸を打たれて言葉が出なかった。エトワールは、ホメロスの地位には興味などなく、ただ直向きに愛情を向けた。打算も、義務感も無い愛情を、彼は生まれて初めて知ったのだ。
「え?! あ⋯⋯あの」
エトワールは、何度も口を開閉した。ホメロスは笑いながら、涙を零していた。
「ごめんなさい! 私、ハンカチを持っていない──」
「エトワール!」
ホメロスは、思い切り彼女に抱きつき、肩に顔を埋めた。
(オレの正体を知れば、こいつは軽蔑するだろう。決して許さない。せめて⋯⋯)
「何があっても、お前を守る。危険な目には遭わせない。⋯⋯側にいてくれ」
「はい。何時迄も」
エトワールは即答し、ホメロスの背を摩った。丸々1分が過ぎた頃、彼はようやくエトワールを解放し、何時もの不遜な笑みを浮かべた。
「せいぜい、その調子でオレに尽くせ。オレもお前が喜ぶ様に振舞おう」
エトワールの腰に腕を回し、歩き出した。彼女は男に触れられる事に慣れていないらしく、緊張している。
「こうやって、触れられるのは嫌か?」
「い⋯⋯いえ。だだ、その⋯⋯ひゃ?!」
突然背中に指を這わされ、エトワールは飛び上がってしまった。膝の力が抜けて、カクリとしゃがみ込みそうになり、ホメロスは慌てて支えた。
エトワールは頬を赤く染めて、顔を背けた。
「わ⋯⋯私、ホメロス様に触れられると、体がおかしくなってしまうんです! どうしてでしょう⋯⋯?」
「それをオレに訊くか」
ホメロスは、前髪をかきあげ、肩を揺らして笑ってしまった。
「純粋な癖に、身体は敏感なのか⋯⋯。これだけでは、不安だな」
彼はエトワールのピアスに触れ、唐突に彼女を壁に押し付けると、首筋に歯を立てた。
「痛い! ⋯⋯ホメロス様っ!!」
「この印があれば、誰も手出しはできんだろう。それに」
彼が横を向いた瞬間、船室の扉が開いた。
「まったく! なんで僕ばっかりこんな──」
空の酒瓶を持ったローランが、2人の姿を目にして立ち尽くした。
「あ⋯⋯え⋯⋯その⋯⋯」
「ローラン。今目にした事を、全力で吹聴して廻れ」
「はい! ⋯⋯ってはぁ?!」
ローランは、命令の意図を読み取れずに、仰け反った。ホメロスは意地悪く笑っている。
「間違った噂話が広がり、どうしたものかと悩んでいた所だ。⋯⋯私が愛せた女は“エトワールだけ”だ」
“だから、お前は手を出すな”と、彼は胸の内で完結させた。そして、立ち去ろうとした時。
「あの!」
ローランは、眉尻を下げながら、不安そうに声を振り絞った。
「良いのですか? ⋯⋯エトワールさん。もし⋯⋯もし」
彼は迷った挙句、喉をゴクリと鳴らし、剣に手を掛けた。
「無理矢理⋯⋯無理矢理従わされているんでしたら、言ってください!!」
「そうだと言ったら、どうするつもりだ?」
ホメロスは、スッと目を細めた。冷たい視線をローランに注ぎ、答えを促す。
ローランは怯えながら、ゆっくりと剣を抜いた。
「僕の上官が酷い目に遭わされているのなら、それを放っておくわけには行きません!」
「ローラン!」
エトワールは、胸がいっぱいになり、気付けば少年の首に抱きついていた。彼は、初めて会った時から、勇敢だった。上官に歯向かってまで、正義を貫き通したのだ。
「ありがとう。⋯⋯ありがとう、ローラン。貴方はとても勇敢な人だわ」
「はいぃぃ!!」
ローランは、硬直し、チラチラとホメロスを見ながら返事をした。ホメロスはピクリとも表情を変えずに、静観している。
「⋯⋯剣を収めて」
エトワールは、ローランの両肩に手を置いて、体を離した。
「私は、ホメロス様の欲する事なら、望んでなんでもするつもりよ。私自身の意思で。ホメロス様が望んでくださるのなら、私はずっとお側にいるわ。だから⋯⋯」
「分かりました」
ローランはコクリと頷き、剣を収めた。そして膝を床に着き、深々と礼の姿勢を取った。
「ご無礼をお許しください!」
「ウィスキーの空瓶を転がした横で、謝罪されてもな」
ホメロスは意地悪く言い返し、グッとエトワールの肩を自分の方へ引き寄せた。
「その勢いで、エトワールの周囲から虫ケラを排除しろ」
「はい!」
ローランが益々頭を下げたのを見て、ホメロスはゆっくり歩き出した。
そのまま自室にエトワールを連れ込み、ベッドではなくソファーに掛けた。
「隣へ来い。眠るのも惜しい」
「いいえ」
エトワールは、きっぱりと首を横に振った。
「夜更かしは体に良くありません。もう休みましょう、ホメロス様」
その言葉に、ホメロスは寂しげな笑みを浮かべた。
「お前の優しさは、痛いな⋯⋯。もう少し甘やかしてくれても良かろう?」
「駄目です。ベッドに戻りますよ」
「続きをしても良いということか?」
「違います!!」
エトワールは真っ赤になって言い返し、ホメロスの腕を掴んで引っ張った。
「眠るんです!!」
「⋯⋯まだ、続きがある事は知っているのか」
ホメロスがほくそ笑むと、エトワールは涙目になってしまった。
「いい加減にしてください! 明日も早いんです!! ほら!! 寝ますよ!!」
彼女は女性に不似合いな力を振り絞り、ホメロスをベッドに投げ飛ばすと、自分も隅の方に横たわり、彼に背を向けて丸まってしまった。
その背中を見て、ホメロスは思わず笑ってしまった。声を押し殺して肩を震わせ、そっとシーツを肩まで掛けてやった。
「何もしない。安心して休め」
返事は無かった。