02:旅立ち編
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朝。エトワールは目を覚ますと、真っ先に自分の部屋に戻り、絹のローブを纏った。
何時もと同じ様に身なりを整え、何時も通り、自分の部下たちと食事を摂ろうと、食堂へ向かう。
途中で何度かメイドや、騎士たちとすれ違ったが、何故か一様に目を逸らされた。
(何かあったのかしら?)
不思議な気持ちのまま食堂へ辿り着き、ローランたちが座しているテーブルに着いた。
「おはよう、ローラン。お礼を言えなかったけれど、助けてくれてありがとう」
「へ?! ⋯⋯あ、はい!! その節はお世話になりました」
彼は他人行儀に応え、スープを飲むのに必死のフリをした。エトワールは堪り兼ね、彼の両の耳を掴むと、少し強めに引っ張った。
「痛い!!」
「何を隠しているの? みんな、今日は変よ。何か良くない事があったの? ⋯⋯あったのね! 言いなさい!!」
「し⋯⋯知らないんですか?!」
ローランは、顔面蒼白で口をパクパクさせた。エトワールが鋭い眼光を向け続けていると、彼は等々折れた。
「⋯⋯ホメロス様が、昨晩情婦と過ごしたそうで」
「え?」
エトワールの手から、スプーンが滑り落ちた。金属音が鳴り響き、周囲にいた騎士たちも視線を向け、それからヒソヒソと話し出した。
皆の様子を見れば、それが真実であると分かった。
「⋯⋯どう⋯⋯して? 誰を?」
エトワールは、声が震えない様、最大限の努力をしながら訊ねた。ローランは気まずそうに話しを続ける。
「理由は知りませんが、ジゼルという女性を⋯⋯。ジゼルさん自身が吹聴していますし、ホメロス様もそれを止めてはいな──エトワールさん?!」
彼は、あたふたと左右の仲間を見やった。しかし、誰もが困り果てている。
クラーゴンをも、ほぼ独力で倒した女が、静かに涙を零して泣いていた。
「ご⋯⋯ごめんなさい。わ⋯⋯私、まだ調子が⋯⋯」
エトワールは、いたたまれずに席を立ち、食堂を飛び出していた。
(どうして? どうして私を好いたと言った後に⋯⋯)
「どうして?」
思わず言葉に出すと、背後から笑い声が聞こえた。エトワールが振り返ると、そこに気の強そうな金髪の美しい娘が立っていた。
「初めまして、エトワール様。ジゼルと申します」
「貴女が⋯⋯ホメロス様と?」
「ええ」
ジゼルは、自信たっぷりに頷いた。
「ホメロス様は、もう、獣の様に情熱的に私を求めてくださったの。貴女は、私の為にもホメロス様を、悪しき魔物からお守りするのよ! 良いわね?」
「誰に向かって命令をしている?」
突然、曲がり角からホメロスが現れた。まだ髪も梳かしておらず、酷く不機嫌そうだ。
「エトワールは私の副官だ。命令出来るのは、私か陛下のどちらかだけ」
「で⋯⋯ですがホメロス様! 私はただ、騎士としての在り方を──」
「下級貴族の情婦が騎士道を語るな! 二度と私の前に姿を見せるな!! さっさと立ち去れ!!」
ホメロスの迫力に気圧され、ジゼルは素早くその場を後にした。
ホメロスは、エトワールに穏やかな表情を向け、彼女の頬に触れた。
「目覚めの口付けを許してくれるか?」
「あの人と⋯⋯一緒に過ごしたのですか」
「ああ」
ホメロスは悪びれもなく肯定した。
「情婦を情婦として利用しただけだ。それよりも──」
「触らないで!!」
エトワールは、反射的にホメロスの手を振り払っていた。湧き上がる嫌悪感と、深い失望。
「ごめんなさい⋯⋯私⋯⋯もう、貴方にお仕え出来ません。ごめんなさい⋯⋯ごめんなさい」
彼女は後退りながら、何度も謝った。その姿を見て、初めてホメロスは自分のしでかした事の重大さに目を向けた。
何の弁明の言葉も浮かばなかった。
「⋯⋯分かった」
ホメロスは、掠れた声で応えた。
「ダーハルーネで降ろす。それまでは、自由に過ごせ」
エトワールは、返事もせずにホメロスの脇をすり抜けて行ってしまった。
ホメロスは、全身が鉛の様に重く感じられ、その場に立ち尽くした。
まるで、走馬灯の様に、過ぎ去りし日々の記憶が蘇る。
グレイグの推薦で、エトワールがホメロスの副官となった日、挨拶に来た彼女を見て、ホメロスは美しいと思った。媚びた姿勢は一切見せず、ホメロスに説教をする事もしばしば。
人事に文句を言う兵がいれば、容赦なく投げ飛ばし、自分の実力を見せ付け、女々しく涙を見せる事など滅多に無い女だった。
(⋯⋯失いたく無いと思ったのは、オレの方だ)
ホメロスは、頬に涙が伝うのを感じた。
「エトワール⋯⋯」
彼は死人の様な顔色で、ふらふらとその場を去った。
何時もと同じ様に身なりを整え、何時も通り、自分の部下たちと食事を摂ろうと、食堂へ向かう。
途中で何度かメイドや、騎士たちとすれ違ったが、何故か一様に目を逸らされた。
(何かあったのかしら?)
不思議な気持ちのまま食堂へ辿り着き、ローランたちが座しているテーブルに着いた。
「おはよう、ローラン。お礼を言えなかったけれど、助けてくれてありがとう」
「へ?! ⋯⋯あ、はい!! その節はお世話になりました」
彼は他人行儀に応え、スープを飲むのに必死のフリをした。エトワールは堪り兼ね、彼の両の耳を掴むと、少し強めに引っ張った。
「痛い!!」
「何を隠しているの? みんな、今日は変よ。何か良くない事があったの? ⋯⋯あったのね! 言いなさい!!」
「し⋯⋯知らないんですか?!」
ローランは、顔面蒼白で口をパクパクさせた。エトワールが鋭い眼光を向け続けていると、彼は等々折れた。
「⋯⋯ホメロス様が、昨晩情婦と過ごしたそうで」
「え?」
エトワールの手から、スプーンが滑り落ちた。金属音が鳴り響き、周囲にいた騎士たちも視線を向け、それからヒソヒソと話し出した。
皆の様子を見れば、それが真実であると分かった。
「⋯⋯どう⋯⋯して? 誰を?」
エトワールは、声が震えない様、最大限の努力をしながら訊ねた。ローランは気まずそうに話しを続ける。
「理由は知りませんが、ジゼルという女性を⋯⋯。ジゼルさん自身が吹聴していますし、ホメロス様もそれを止めてはいな──エトワールさん?!」
彼は、あたふたと左右の仲間を見やった。しかし、誰もが困り果てている。
クラーゴンをも、ほぼ独力で倒した女が、静かに涙を零して泣いていた。
「ご⋯⋯ごめんなさい。わ⋯⋯私、まだ調子が⋯⋯」
エトワールは、いたたまれずに席を立ち、食堂を飛び出していた。
(どうして? どうして私を好いたと言った後に⋯⋯)
「どうして?」
思わず言葉に出すと、背後から笑い声が聞こえた。エトワールが振り返ると、そこに気の強そうな金髪の美しい娘が立っていた。
「初めまして、エトワール様。ジゼルと申します」
「貴女が⋯⋯ホメロス様と?」
「ええ」
ジゼルは、自信たっぷりに頷いた。
「ホメロス様は、もう、獣の様に情熱的に私を求めてくださったの。貴女は、私の為にもホメロス様を、悪しき魔物からお守りするのよ! 良いわね?」
「誰に向かって命令をしている?」
突然、曲がり角からホメロスが現れた。まだ髪も梳かしておらず、酷く不機嫌そうだ。
「エトワールは私の副官だ。命令出来るのは、私か陛下のどちらかだけ」
「で⋯⋯ですがホメロス様! 私はただ、騎士としての在り方を──」
「下級貴族の情婦が騎士道を語るな! 二度と私の前に姿を見せるな!! さっさと立ち去れ!!」
ホメロスの迫力に気圧され、ジゼルは素早くその場を後にした。
ホメロスは、エトワールに穏やかな表情を向け、彼女の頬に触れた。
「目覚めの口付けを許してくれるか?」
「あの人と⋯⋯一緒に過ごしたのですか」
「ああ」
ホメロスは悪びれもなく肯定した。
「情婦を情婦として利用しただけだ。それよりも──」
「触らないで!!」
エトワールは、反射的にホメロスの手を振り払っていた。湧き上がる嫌悪感と、深い失望。
「ごめんなさい⋯⋯私⋯⋯もう、貴方にお仕え出来ません。ごめんなさい⋯⋯ごめんなさい」
彼女は後退りながら、何度も謝った。その姿を見て、初めてホメロスは自分のしでかした事の重大さに目を向けた。
何の弁明の言葉も浮かばなかった。
「⋯⋯分かった」
ホメロスは、掠れた声で応えた。
「ダーハルーネで降ろす。それまでは、自由に過ごせ」
エトワールは、返事もせずにホメロスの脇をすり抜けて行ってしまった。
ホメロスは、全身が鉛の様に重く感じられ、その場に立ち尽くした。
まるで、走馬灯の様に、過ぎ去りし日々の記憶が蘇る。
グレイグの推薦で、エトワールがホメロスの副官となった日、挨拶に来た彼女を見て、ホメロスは美しいと思った。媚びた姿勢は一切見せず、ホメロスに説教をする事もしばしば。
人事に文句を言う兵がいれば、容赦なく投げ飛ばし、自分の実力を見せ付け、女々しく涙を見せる事など滅多に無い女だった。
(⋯⋯失いたく無いと思ったのは、オレの方だ)
ホメロスは、頬に涙が伝うのを感じた。
「エトワール⋯⋯」
彼は死人の様な顔色で、ふらふらとその場を去った。