03:救済
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ホメロスは、命の大樹での一件の後、すっかり抜け殻になった様に、遠くを眺めている事が多かった。
彼は、デルカダール王に取り憑いた、魔王ウルノーガの力を分け与えられ、この世界を魔王のモノとする為、暗躍していたのだ。
ところがホメロスは、致命的な悪事に手を染める直前に、邪悪な力を勇者に感じ取られ、剣を折られた。
主人であるウルノーガに命乞いをするも、彼は口封じの為に、有無を言わせず斬り殺されそうになった。それを寸手の所で遮ったのは、エトワールとグレイグだった。
二人は友としてホメロスを見捨てられず、盾となった。
それからしばらくの間、元凶の魔王が本性を現し、勇者一行に葬られるまで、地下牢で過ごしていた。
ホメロスは、正気に返ったデルカダール王に贖罪の機会を与えられ、再び将軍の位に戻った。
しかし、最初の内は以前よりも生気の無い表情で、出来るだけ部下の前に姿を見せる事なく、書類の束と向き合っていた。
勇者一行とグレイグ達が、新たな脅威ニズゼルファを倒して凱旋した時から、ようやく笑みを浮かべる様になった。
ホメロスの片腕として使えていたエトワールも、やっと穏やかな日々を送れる様になった。
そして一年。
ホメロスが本来の彼らしい皮肉な言葉や、軽はずみな行動を取り戻した事で、エトワールは胸の痛みを覚える様になった。
マルティナ姫の生誕祭。国を挙げての一大イベントに、世界中のあちこちの街から祝いの品が届き、貴族達はこぞってダンスパーティーに繰り出した。
一週間程の祭日の期間、エトワールに休日が与えられたのは、最終日だけ。
せっかくなので、空気だけでも楽しもうと、シンプルなブルーのドレスに着替えて、大広間へ。彼女は真っ先に、主人であり、親友でもあるマルティナ姫の元へ向かった。
「姫様」
エトワールが仰々しく膝を折ると、マルティナはクスクスと笑った。
「そんなに改まらないで。貴女は私の友達」
「姫様⋯⋯こちらを」
エトワールは絹の包みを取り出し、マルティナに差し出した。
「何かしら?」
マルティナは、ウキウキとした表情で、包みを開けた。中から現れたのは⋯⋯
「綺麗⋯⋯」
「ムウレアの水の羽衣を仕立て直した、水霊の羽衣です。これを纏っていれば、デルカダールで大火事が起こっても、姫様だけは無事に逃げられる事でしょう」
「まあ! 私はそんな事しないわよ!」
プンプンと腰に手を当てたマルティナを見て、エトワールはクスクス笑った。マルティナが民を置いて逃げ出す様な真似はしないと、彼女には十分分かっていた。
エトワールは立ち上がり、振り返った。今日は祝いの最終日だけあって、一段と盛り上がっている。
遠くには、セーニャとベロニカ、カミュと妹のマヤ、イレブンとシルビアの姿も。
「グレイグ様は大人気ですね」
「ホメロス程じゃないわ」
マルティナは、苦笑した。グレイグとホメロス。双頭の鷲は未だ未婚で、その地位も相まって、貴族娘には大人気だ。
しかし、最近片方は売約済みとなった。グレイグとマルティナの婚約が成立し、大々的に発表されたのだ。
流石に、国の次期トップになるマルティナの婚約者に手を出す強者はいない。
とすると、自ずとホメロスの方に人気が殺到するのは、ごく自然のこと。
「さあ、エトワール。貴女も楽しんで! しっかり見張っていないと、ホメロスを盗られるわよ?」
「あの方は、誰のものにもなりません。あの人が欲しいと思った人、以外には」
エトワールは悪戯っぽく返し、礼をして踵を返した。
雑踏の中に紛れ込み、見知った姿を探して、人の群れを避けて進む。
先日、デルカダールの地下で見つかった、古いレシピ集の内容について、イレブンと話したかったし、剣技について、シルビアにアドバイスを貰いたかった。
ホメロスの方は⋯⋯見ないようにした。彼は以前の彼らしさを取り戻し、ご婦人方の望む魅力的な言葉を囁き、多くの娘の胸に細やかな希望を与えている。
「あの!」
突然腕を捕まれ、エトワールは、反射的に反対の手で相手を引っ叩きそうになった。
「うわぁ!」
善良そうな青年は慌てて手を離し、後ずさった。
「ごめんなさい! でも、僕、絶対貴女に一番最初に話し掛けたくって⋯⋯」
「手を掴む前に、話し掛けてくれても良かったのに」
「何度も声を掛けましたよ! でも、気付いてくださらなかったし、暗い顔をしていたので⋯⋯つい」
青年に悪意がない事を認めると、エトワールは頭を下げた。
「ごめんなさい。⋯⋯それで、ええっと⋯⋯ヴェルナー君だったかな? 私に何の用?」
「え?! 何で僕の名前を?!」
「私はホメロス様の副官です。国内の兵士の事くらいは調べているの。なんなら貴方の三つ下の妹の名前も言いましょうか?」
「いいえ、結構です! でも⋯⋯」
ヴェルナーは口元に手を当てて笑った。
「ダンスフロアに来て、〝何の用?〟だなんて! 勿論、一曲お相手をお願いしたいのです」
「残念だけれど、私は踊りたい気分じゃないの」
「それじゃ、そんな気分にさせます」
ヴェルナーは、やや強引にエトワールの手を取った。彼女は仕方なしに、付き合う事にした。
「エトワール様。ホメロス様とは、実際どんな関係なんです?」
「下世話な事を聞くのね。多分、私をパンデルフォンの、案山子か何かだと思っているのでは無いかしら?」
「ぶはぁ! 案山子ですか! そんな風には見えませんが」
「じゃあ、どう見えるのかしら?」
「妙齢の、水準以上に美人な女性です」
「⋯⋯そう。貴方がワインに酔ってさえいなければ、その言葉をすぐに信じられたかも知れないわ」
「酔ってませんよ」
ヴェルナーは、真剣にエトワールの瞳を見つめた。この様なやりとりに慣れていない彼女は、抑えようもなく頬を赤く染めて、顔を背けた。
「嘘よ」
「そんな表情もされるのですね。今は、可愛らしいと思いました」
ヴェルナーは悪びれる事もなく、クスクスと笑い、華麗にステップを踏んだ。
「好きです」
「⋯⋯は?」
「ずっと遠くから見ていました。貴女の事を。貴女の強さも知っている!!」
「冗談はやめて」
今度はエトワールがクスクス笑った。
「貴方は私の強さを知りっこない。一度も剣を合わせた事が無いじゃない!」
「告白は無視、ですか」
「ちゃんと聞いたわ。でも、やめた方が良い。私はきっと、貴方が思っている様な女の子じゃないから。⋯⋯さあ、もうそろそろ離して」
エトワールは握られた手を振り解こうとしたが、上手くいかなかった。ヴェルナーは、思いの外力が強かった。
勿論魔法で筋力を上げれば、エトワールは簡単に振り解く事が出来るのだが、勢いあまって相手を傷付け兼ねない。
「ねえ、お願い。離して。私、もう疲れたの!」
「これから、庭で少し話しませんか?」
「⋯⋯っ⋯⋯ヴェルナー、離して。私⋯⋯あ」
エトワールは、人の群れの間に見知った姿を見つけた。その美しい人は、エトワールの方をチラリと見て、今まさに、貴族娘の手の甲にキスをしようとしていた。
「あ⋯⋯ホメロス様!!」
彼女は、思わず反射的に、かなり大きな声で叫んでいた。周りの人間が何事かと注目する中、剣を持つとは信じられない様な、細くて美しい腕を伸ばす。
まるで当たり前の様に、ホメロスはその手を取り、彼女を抱き寄せた。
「どうした? 急の報告か?」
「ちがっ⋯⋯違い⋯⋯ます。あの⋯⋯少し具合が悪くて⋯⋯私──」
エトワールの言葉は途中で途切れた。ホメロスが、彼女を抱き寄せ、唇を奪ったからだ。
すぐに周りの女性たちが、黄色い悲鳴を上げた。エトワールは慌てて彼の胸を押し返した。
「ホ⋯⋯ホメロス様! 何をっ⋯⋯」
ホメロスはエトワールの顎を持ち上げ、親指で唇をなぞった。
「もっとマシな誘い方を覚えた方が良い。そんなやり方では、一人も引っ掛けられんぞ」
「私、そんなつもりは──」
「どんな男が好みだ? 私の部下なら間を取り持ってやろう。⋯⋯聞かせろ」
低い声色で凄み、ホメロスはエトワールの体を益々引き寄せた。
「ああいう、優男が趣味か? お前ならもっと血筋の良い奴を狙えるだろう。このホメロスの片腕であり、同時にマルティナ姫様の親友。政治的地位も高い。⋯⋯さあ、聞かせろ」
彼の口調は、ゾッとするほど平坦だった。
エトワールは、なんとかホメロスから距離を取ろうとしたが、彼は許さなかった。それどころか視線を移す事も許さず、真っ直ぐ見詰め、再度問う。
「この私を差し置いて、誰を愛した?! 私の心を立て直すと誓い、誰に唇を許したいと思った?! 答えろ!!」
「ホメロス様!!」
エトワールは、帯刀したホメロスに斬られる覚悟で声を上げた。彼女は兵士として、深々と頭を下げた。
「どうか、声を⋯⋯。周りの者が案じております」
ホメロスは、しばらくの葛藤の後、エトワールの腕を無理矢理引っ張った。彼女はこれ以上大声を出せば、ダンスフロアにいる全員の注目を集めてしまうと思い、彼に身を任せた。
彼は、デルカダール王に取り憑いた、魔王ウルノーガの力を分け与えられ、この世界を魔王のモノとする為、暗躍していたのだ。
ところがホメロスは、致命的な悪事に手を染める直前に、邪悪な力を勇者に感じ取られ、剣を折られた。
主人であるウルノーガに命乞いをするも、彼は口封じの為に、有無を言わせず斬り殺されそうになった。それを寸手の所で遮ったのは、エトワールとグレイグだった。
二人は友としてホメロスを見捨てられず、盾となった。
それからしばらくの間、元凶の魔王が本性を現し、勇者一行に葬られるまで、地下牢で過ごしていた。
ホメロスは、正気に返ったデルカダール王に贖罪の機会を与えられ、再び将軍の位に戻った。
しかし、最初の内は以前よりも生気の無い表情で、出来るだけ部下の前に姿を見せる事なく、書類の束と向き合っていた。
勇者一行とグレイグ達が、新たな脅威ニズゼルファを倒して凱旋した時から、ようやく笑みを浮かべる様になった。
ホメロスの片腕として使えていたエトワールも、やっと穏やかな日々を送れる様になった。
そして一年。
ホメロスが本来の彼らしい皮肉な言葉や、軽はずみな行動を取り戻した事で、エトワールは胸の痛みを覚える様になった。
マルティナ姫の生誕祭。国を挙げての一大イベントに、世界中のあちこちの街から祝いの品が届き、貴族達はこぞってダンスパーティーに繰り出した。
一週間程の祭日の期間、エトワールに休日が与えられたのは、最終日だけ。
せっかくなので、空気だけでも楽しもうと、シンプルなブルーのドレスに着替えて、大広間へ。彼女は真っ先に、主人であり、親友でもあるマルティナ姫の元へ向かった。
「姫様」
エトワールが仰々しく膝を折ると、マルティナはクスクスと笑った。
「そんなに改まらないで。貴女は私の友達」
「姫様⋯⋯こちらを」
エトワールは絹の包みを取り出し、マルティナに差し出した。
「何かしら?」
マルティナは、ウキウキとした表情で、包みを開けた。中から現れたのは⋯⋯
「綺麗⋯⋯」
「ムウレアの水の羽衣を仕立て直した、水霊の羽衣です。これを纏っていれば、デルカダールで大火事が起こっても、姫様だけは無事に逃げられる事でしょう」
「まあ! 私はそんな事しないわよ!」
プンプンと腰に手を当てたマルティナを見て、エトワールはクスクス笑った。マルティナが民を置いて逃げ出す様な真似はしないと、彼女には十分分かっていた。
エトワールは立ち上がり、振り返った。今日は祝いの最終日だけあって、一段と盛り上がっている。
遠くには、セーニャとベロニカ、カミュと妹のマヤ、イレブンとシルビアの姿も。
「グレイグ様は大人気ですね」
「ホメロス程じゃないわ」
マルティナは、苦笑した。グレイグとホメロス。双頭の鷲は未だ未婚で、その地位も相まって、貴族娘には大人気だ。
しかし、最近片方は売約済みとなった。グレイグとマルティナの婚約が成立し、大々的に発表されたのだ。
流石に、国の次期トップになるマルティナの婚約者に手を出す強者はいない。
とすると、自ずとホメロスの方に人気が殺到するのは、ごく自然のこと。
「さあ、エトワール。貴女も楽しんで! しっかり見張っていないと、ホメロスを盗られるわよ?」
「あの方は、誰のものにもなりません。あの人が欲しいと思った人、以外には」
エトワールは悪戯っぽく返し、礼をして踵を返した。
雑踏の中に紛れ込み、見知った姿を探して、人の群れを避けて進む。
先日、デルカダールの地下で見つかった、古いレシピ集の内容について、イレブンと話したかったし、剣技について、シルビアにアドバイスを貰いたかった。
ホメロスの方は⋯⋯見ないようにした。彼は以前の彼らしさを取り戻し、ご婦人方の望む魅力的な言葉を囁き、多くの娘の胸に細やかな希望を与えている。
「あの!」
突然腕を捕まれ、エトワールは、反射的に反対の手で相手を引っ叩きそうになった。
「うわぁ!」
善良そうな青年は慌てて手を離し、後ずさった。
「ごめんなさい! でも、僕、絶対貴女に一番最初に話し掛けたくって⋯⋯」
「手を掴む前に、話し掛けてくれても良かったのに」
「何度も声を掛けましたよ! でも、気付いてくださらなかったし、暗い顔をしていたので⋯⋯つい」
青年に悪意がない事を認めると、エトワールは頭を下げた。
「ごめんなさい。⋯⋯それで、ええっと⋯⋯ヴェルナー君だったかな? 私に何の用?」
「え?! 何で僕の名前を?!」
「私はホメロス様の副官です。国内の兵士の事くらいは調べているの。なんなら貴方の三つ下の妹の名前も言いましょうか?」
「いいえ、結構です! でも⋯⋯」
ヴェルナーは口元に手を当てて笑った。
「ダンスフロアに来て、〝何の用?〟だなんて! 勿論、一曲お相手をお願いしたいのです」
「残念だけれど、私は踊りたい気分じゃないの」
「それじゃ、そんな気分にさせます」
ヴェルナーは、やや強引にエトワールの手を取った。彼女は仕方なしに、付き合う事にした。
「エトワール様。ホメロス様とは、実際どんな関係なんです?」
「下世話な事を聞くのね。多分、私をパンデルフォンの、案山子か何かだと思っているのでは無いかしら?」
「ぶはぁ! 案山子ですか! そんな風には見えませんが」
「じゃあ、どう見えるのかしら?」
「妙齢の、水準以上に美人な女性です」
「⋯⋯そう。貴方がワインに酔ってさえいなければ、その言葉をすぐに信じられたかも知れないわ」
「酔ってませんよ」
ヴェルナーは、真剣にエトワールの瞳を見つめた。この様なやりとりに慣れていない彼女は、抑えようもなく頬を赤く染めて、顔を背けた。
「嘘よ」
「そんな表情もされるのですね。今は、可愛らしいと思いました」
ヴェルナーは悪びれる事もなく、クスクスと笑い、華麗にステップを踏んだ。
「好きです」
「⋯⋯は?」
「ずっと遠くから見ていました。貴女の事を。貴女の強さも知っている!!」
「冗談はやめて」
今度はエトワールがクスクス笑った。
「貴方は私の強さを知りっこない。一度も剣を合わせた事が無いじゃない!」
「告白は無視、ですか」
「ちゃんと聞いたわ。でも、やめた方が良い。私はきっと、貴方が思っている様な女の子じゃないから。⋯⋯さあ、もうそろそろ離して」
エトワールは握られた手を振り解こうとしたが、上手くいかなかった。ヴェルナーは、思いの外力が強かった。
勿論魔法で筋力を上げれば、エトワールは簡単に振り解く事が出来るのだが、勢いあまって相手を傷付け兼ねない。
「ねえ、お願い。離して。私、もう疲れたの!」
「これから、庭で少し話しませんか?」
「⋯⋯っ⋯⋯ヴェルナー、離して。私⋯⋯あ」
エトワールは、人の群れの間に見知った姿を見つけた。その美しい人は、エトワールの方をチラリと見て、今まさに、貴族娘の手の甲にキスをしようとしていた。
「あ⋯⋯ホメロス様!!」
彼女は、思わず反射的に、かなり大きな声で叫んでいた。周りの人間が何事かと注目する中、剣を持つとは信じられない様な、細くて美しい腕を伸ばす。
まるで当たり前の様に、ホメロスはその手を取り、彼女を抱き寄せた。
「どうした? 急の報告か?」
「ちがっ⋯⋯違い⋯⋯ます。あの⋯⋯少し具合が悪くて⋯⋯私──」
エトワールの言葉は途中で途切れた。ホメロスが、彼女を抱き寄せ、唇を奪ったからだ。
すぐに周りの女性たちが、黄色い悲鳴を上げた。エトワールは慌てて彼の胸を押し返した。
「ホ⋯⋯ホメロス様! 何をっ⋯⋯」
ホメロスはエトワールの顎を持ち上げ、親指で唇をなぞった。
「もっとマシな誘い方を覚えた方が良い。そんなやり方では、一人も引っ掛けられんぞ」
「私、そんなつもりは──」
「どんな男が好みだ? 私の部下なら間を取り持ってやろう。⋯⋯聞かせろ」
低い声色で凄み、ホメロスはエトワールの体を益々引き寄せた。
「ああいう、優男が趣味か? お前ならもっと血筋の良い奴を狙えるだろう。このホメロスの片腕であり、同時にマルティナ姫様の親友。政治的地位も高い。⋯⋯さあ、聞かせろ」
彼の口調は、ゾッとするほど平坦だった。
エトワールは、なんとかホメロスから距離を取ろうとしたが、彼は許さなかった。それどころか視線を移す事も許さず、真っ直ぐ見詰め、再度問う。
「この私を差し置いて、誰を愛した?! 私の心を立て直すと誓い、誰に唇を許したいと思った?! 答えろ!!」
「ホメロス様!!」
エトワールは、帯刀したホメロスに斬られる覚悟で声を上げた。彼女は兵士として、深々と頭を下げた。
「どうか、声を⋯⋯。周りの者が案じております」
ホメロスは、しばらくの葛藤の後、エトワールの腕を無理矢理引っ張った。彼女はこれ以上大声を出せば、ダンスフロアにいる全員の注目を集めてしまうと思い、彼に身を任せた。