03:救済
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エトワールが目を覚ましたのは、ホメロスと初めて身体を重ねた、翌日の昼前だった。何時の間にか服が脱がされ、薄手のタオルケットをかけられていた。
彼女は一先ずシャワーを浴びようと立ち上がり、前のめりになって転んでしまった。下腹部に鈍い痛みがはしり、関節が軋む様に悲鳴を上げている。
慌ててベホイミを唱え、なんとか身なりを整えて部屋を出た。
城の中は、何時も通りだった。人気の無い廊下を、気分に任せて進み、彼女はバルコニーに見知った姿を見つけ、駆け寄った。
「姫様!」
「あら?! エトワール!! 目が醒めたのね!」
マルティナは、優雅に紅茶を飲んでいた。
「貴女もいかが? 白パンもあるわよ」
「お邪魔します」
エトワールは、マルティナの前の席に大人しく座った。実際お腹が空いて、何か食べたいと思った。
マルティナは、どこか面白そうにエトワールを見詰めた。
「昨日の夜、ホメロスがお父様に会いに来たの。彼の方から来るなんて珍しいから、ビックリしたわ。しかもね、一週間も休暇が欲しいって!!」
「休暇⋯⋯ですか。お身体に負担が掛かったのでは──」
「酷い事を言う様だけど、それは無いわよ。ホメロスは、割と貴族の女性を相手にしていたから。⋯⋯ソルティコへ行きたいそうよ。流石に将軍が共も連れずに行くのは、不用心だとお父様もおっしゃったのだけれど、護衛として貴女を連れて行くから、問題無いって。⋯⋯ええ、ごめんなさい。私、昨日何があったかは、分かっているの。貴女が心配だったから、追って部屋へ行ったら⋯⋯その⋯⋯中から声が聞こえたから。邪魔をしない方が良いと思ったのだけれど、助けてあげた方が良かったかしら?」
「⋯⋯い⋯⋯いいえ。後悔はしていません。でも、ホメロス様のためを思えば、私がキチンとお断りするべきだったのだと⋯⋯思います」
エトワールは顔を赤らめて答えた。それを隠す様に、俯いてパンを頬張る。
「ねえ、エトワール。貴女は気を使い過ぎだと思うわ」
マルティナは、堪え切れずに口を開いた。
「貴女はホメロスを愛しているのでしょう? もっと甘えてみたらどうかしら? きっとホメロスも、それを望んでいると思うわ」
「そう⋯⋯でしょうか」
エトワールは、目を伏せた。自分の願いが、余りにも幼稚に思えた。優しく抱き締めて欲しい⋯⋯一緒に街を歩きたい⋯⋯他愛もない話をして、笑い合いたい。ホメロスには似つかわしく無い、”平凡な”望みだ。
「姫様は、グレイグ将軍とどんな風に過ごしているのですか?」
「そうね⋯⋯。ベッドにいる時以外は、同じものを見て笑ったり、手を繋いで歩いたり、武術の稽古をしているわ」
マルティナの言葉を聞き、エトワールは悲しそうに微笑んだ。
「ホメロス様は、私生活に干渉される事が嫌いなんです。私はあの人に嫌われたくないから、あの人が求める時だけ、側にいようと思うんです。⋯⋯私を⋯⋯私だけを情人として側に置いてくれると、仰いました。それだけで十分幸せです」
「幸せそうに見えないけれどね」
マルティナは紅茶を一気に飲み干した。
「ホメロスは、貴女と出会って甘える事を覚えたわ。だけど、それだけじゃ足りないのよ。⋯⋯貴女は誰かに頼られた時⋯⋯甘えられた時に、嬉しいと感じない?」
「嬉し⋯⋯かったです。ホメロス様が、私だけを側に置いてくださるとおっしゃった時、嬉しくて⋯⋯」
「つまり、そう言う事よ。⋯⋯パンをもう一つ食べなさいよ。それから、会いに行ったらどう?」
「はい」
エトワールは、素直に頷いて、出来るだけ急いでパンを飲み込んだ。一度心の鍵を開けた途端に、想いが止まらなくなってしまった。一刻でも早く、ホメロスの側へ行きたくなった。
「姫様、ありがとうございます!」
彼女は勢い良く席を立ち、駆け足になった。会いたいと言う気持ちが抑えられず、ホメロスの反応に想いを馳せる事もせず、彼の私室の前に辿り着いていた。
大きく深呼吸して、扉をノックする。
「ホメロス様、エトワールです」
「入れ」
素っ気ない返答が来るや否や、エトワールは扉を思い切り開けた。部屋の中に滑り込み、扉を閉めると、真っ直ぐホメロスの机へ向かった。彼は顔も上げずに、仕事に没頭している。
「安心しろ。お前は今日、非番にした。好きに過ごせ」
「お仕事を、お手伝いしても良いでしょうか」
エトワールの言葉を聞き、ホメロスは不思議そうに顔を上げた。エトワールは、ローブを強く握り、頬を上気させながら唇を開く。
「貴方の⋯⋯側にいたくて」
「⋯⋯好きにしろ」
突き放す様な言い方だった。しかし、ホメロスの口元には、笑みが浮かんでいた。
エトワールは勝手にソファーへ向かい、腰を下ろした。
「あの、ホメロス様。姫様からお話を聞きました。⋯⋯何故、ソルティコへ?」
返事は、すぐに返って来なかった。エトワールは、つい何時もの癖で、深く追求せずに黙り込んだ。
丸々三十秒が経った頃。
「⋯⋯観光用の白いローブが、お前に似合うと思った。料理も旨い。せめて彼処にいる間は、お前の事を⋯⋯その⋯⋯女として見たい。デルカダールの将軍ではなく、男としてお前に接したいと思った」
「ホメロス様」
エトワールは、素直に嬉しさを抱き締め、心からの笑みを浮かべた。
「私は今も、貴方の恋人です。例え貴方が否定しても、私は貴方を愛しています。公私混同で申し訳ありません。でも⋯⋯この気持ちを抑えられなくて!!」
「いや」
ホメロスは、わざわざ席を立って、エトワールの元へ歩み寄った。そっと頭を抱き寄せ、つむじの辺りにキスを落とした。
「やっとオレのモノになったな」
ホメロスの満足そうな声を聞き、エトワールはゆっくり目を閉じ、彼の背中に手を回した。
幸せだった。
エトワールが目を覚ましたのは、ホメロスと初めて身体を重ねた、翌日の昼前だった。何時の間にか服が脱がされ、薄手のタオルケットをかけられていた。
彼女は一先ずシャワーを浴びようと立ち上がり、前のめりになって転んでしまった。下腹部に鈍い痛みがはしり、関節が軋む様に悲鳴を上げている。
慌ててベホイミを唱え、なんとか身なりを整えて部屋を出た。
城の中は、何時も通りだった。人気の無い廊下を、気分に任せて進み、彼女はバルコニーに見知った姿を見つけ、駆け寄った。
「姫様!」
「あら?! エトワール!! 目が醒めたのね!」
マルティナは、優雅に紅茶を飲んでいた。
「貴女もいかが? 白パンもあるわよ」
「お邪魔します」
エトワールは、マルティナの前の席に大人しく座った。実際お腹が空いて、何か食べたいと思った。
マルティナは、どこか面白そうにエトワールを見詰めた。
「昨日の夜、ホメロスがお父様に会いに来たの。彼の方から来るなんて珍しいから、ビックリしたわ。しかもね、一週間も休暇が欲しいって!!」
「休暇⋯⋯ですか。お身体に負担が掛かったのでは──」
「酷い事を言う様だけど、それは無いわよ。ホメロスは、割と貴族の女性を相手にしていたから。⋯⋯ソルティコへ行きたいそうよ。流石に将軍が共も連れずに行くのは、不用心だとお父様もおっしゃったのだけれど、護衛として貴女を連れて行くから、問題無いって。⋯⋯ええ、ごめんなさい。私、昨日何があったかは、分かっているの。貴女が心配だったから、追って部屋へ行ったら⋯⋯その⋯⋯中から声が聞こえたから。邪魔をしない方が良いと思ったのだけれど、助けてあげた方が良かったかしら?」
「⋯⋯い⋯⋯いいえ。後悔はしていません。でも、ホメロス様のためを思えば、私がキチンとお断りするべきだったのだと⋯⋯思います」
エトワールは顔を赤らめて答えた。それを隠す様に、俯いてパンを頬張る。
「ねえ、エトワール。貴女は気を使い過ぎだと思うわ」
マルティナは、堪え切れずに口を開いた。
「貴女はホメロスを愛しているのでしょう? もっと甘えてみたらどうかしら? きっとホメロスも、それを望んでいると思うわ」
「そう⋯⋯でしょうか」
エトワールは、目を伏せた。自分の願いが、余りにも幼稚に思えた。優しく抱き締めて欲しい⋯⋯一緒に街を歩きたい⋯⋯他愛もない話をして、笑い合いたい。ホメロスには似つかわしく無い、”平凡な”望みだ。
「姫様は、グレイグ将軍とどんな風に過ごしているのですか?」
「そうね⋯⋯。ベッドにいる時以外は、同じものを見て笑ったり、手を繋いで歩いたり、武術の稽古をしているわ」
マルティナの言葉を聞き、エトワールは悲しそうに微笑んだ。
「ホメロス様は、私生活に干渉される事が嫌いなんです。私はあの人に嫌われたくないから、あの人が求める時だけ、側にいようと思うんです。⋯⋯私を⋯⋯私だけを情人として側に置いてくれると、仰いました。それだけで十分幸せです」
「幸せそうに見えないけれどね」
マルティナは紅茶を一気に飲み干した。
「ホメロスは、貴女と出会って甘える事を覚えたわ。だけど、それだけじゃ足りないのよ。⋯⋯貴女は誰かに頼られた時⋯⋯甘えられた時に、嬉しいと感じない?」
「嬉し⋯⋯かったです。ホメロス様が、私だけを側に置いてくださるとおっしゃった時、嬉しくて⋯⋯」
「つまり、そう言う事よ。⋯⋯パンをもう一つ食べなさいよ。それから、会いに行ったらどう?」
「はい」
エトワールは、素直に頷いて、出来るだけ急いでパンを飲み込んだ。一度心の鍵を開けた途端に、想いが止まらなくなってしまった。一刻でも早く、ホメロスの側へ行きたくなった。
「姫様、ありがとうございます!」
彼女は勢い良く席を立ち、駆け足になった。会いたいと言う気持ちが抑えられず、ホメロスの反応に想いを馳せる事もせず、彼の私室の前に辿り着いていた。
大きく深呼吸して、扉をノックする。
「ホメロス様、エトワールです」
「入れ」
素っ気ない返答が来るや否や、エトワールは扉を思い切り開けた。部屋の中に滑り込み、扉を閉めると、真っ直ぐホメロスの机へ向かった。彼は顔も上げずに、仕事に没頭している。
「安心しろ。お前は今日、非番にした。好きに過ごせ」
「お仕事を、お手伝いしても良いでしょうか」
エトワールの言葉を聞き、ホメロスは不思議そうに顔を上げた。エトワールは、ローブを強く握り、頬を上気させながら唇を開く。
「貴方の⋯⋯側にいたくて」
「⋯⋯好きにしろ」
突き放す様な言い方だった。しかし、ホメロスの口元には、笑みが浮かんでいた。
エトワールは勝手にソファーへ向かい、腰を下ろした。
「あの、ホメロス様。姫様からお話を聞きました。⋯⋯何故、ソルティコへ?」
返事は、すぐに返って来なかった。エトワールは、つい何時もの癖で、深く追求せずに黙り込んだ。
丸々三十秒が経った頃。
「⋯⋯観光用の白いローブが、お前に似合うと思った。料理も旨い。せめて彼処にいる間は、お前の事を⋯⋯その⋯⋯女として見たい。デルカダールの将軍ではなく、男としてお前に接したいと思った」
「ホメロス様」
エトワールは、素直に嬉しさを抱き締め、心からの笑みを浮かべた。
「私は今も、貴方の恋人です。例え貴方が否定しても、私は貴方を愛しています。公私混同で申し訳ありません。でも⋯⋯この気持ちを抑えられなくて!!」
「いや」
ホメロスは、わざわざ席を立って、エトワールの元へ歩み寄った。そっと頭を抱き寄せ、つむじの辺りにキスを落とした。
「やっとオレのモノになったな」
ホメロスの満足そうな声を聞き、エトワールはゆっくり目を閉じ、彼の背中に手を回した。
幸せだった。
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