マイエラ地方出身、マスター・ライラスの養女。
02:リーザス編
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
リーザス村は、のどかな村。そんな評価を、三人は一瞬で取り下げる事となった。
兜の勇ましい少年と、鍋を被ったぼーっとした表情の少年が、剣とヒノキの棒を構えて襲い掛かってきたのだ。
何とか兄さんの仇! などと捲し立てられたが、当然アンジェリカ達には、全く身に覚えの無い事。完全に濡れ衣だ。
勿論、アンジェリカ達が少年に負ける事など、天地がひっくり返ってもあり得ない。しかし、村の若年者を、ザバンと同じように斬り捨てるワケにも行かず、中途半端に武器を構えた。
ようやく助け舟が出たのは、二人が武器を振り上げた時だった。
「これ!!」
村の老婆が、彼らの頭をグーで殴った。
「ゼシカお嬢様に、用事を言いつけられていたんじゃないのかい?!」
一喝に、少年達は反抗的な目を向けて、走り去ってしまった。
老婆はため息を一つ零し、アンジェリカ達に向き直った。
「すまなかったねえ、旅人さんよ」
その瞳には、暗い影が差していた。
アンジェリカは、改めて村の様子を把握した。皆、何処か覇気がない。何か良からぬ事が起きている......そんな気がした。
「何かあったんですか?」
彼女の問いに、老婆は口元を震わせた。逡巡の後、首を横に振る。
「最近、不幸があってのう......。詳しくは村のもんに聞いて貰えんか?」
そう言い残し、老婆は立ち去ってしまった。余程口にしたくないらしい。
かと言って、アンジェリカ達の方から、村人に声を掛けるのは、難しい。皆一様に負のオーラを纏っており、沈んでいた。
「誰か、お亡くなりになったのかしら?」
「この様子だと、爺さん婆さんが天寿をまっとうしたって雰囲気じゃあ、ねえでげすよ」
ヤンガスの推測は、多分外れていない。エイトは、ざっと辺りを見渡し、肩を竦めた。
「村の人たちには、聞かない方が良さそうだね。......アンジェ、確かこの村には、アルバート家のお屋敷があるんだろう? 其処で何か分からないかな?」
「分からなくっても、行くしかないじゃない。だって他に方法が無いんですもの」
アンジェリカは、正直気が進まなかった。幼い頃、マイエラ修道院で、貴族の横柄な振る舞いを見ていたせいか、どうも権力者に良い印象がない。
勿論オディロ院長は優しかったし、騎士団員は親切にしてくれた。
しかし、礼拝に訪れる王侯貴族らは、孤児達を捨て子と揶揄し、侮蔑と憐みの入り混じった視線を投げ掛けて来たのだ。
アルバート家の者が、どんな人となりであるか、アンジェリカは欠片も知らないのだが、幾分気持ちが沈んでしまった。
それでも、ドルマゲスを追わなくてはいけない。
「行きましょう」
アンジェリカは、先頭に立って足を進めた。
村は至って平和だった。少なくとも、家屋が燃やされたり、茨の絡みついた家などは見当たらない。
小さな木の橋を渡ると、左手に登り坂があり、そのてっぺんに豪奢なお屋敷が佇んでいた。
庭に踏み入った所で、物音一つしない。屋敷の住人が、本当に暮らしているのか不安にある程、静まり返っていた。
「見て」
エイトが庭園の隅を指し、立ち止まった。立派な墓石に、メイドが花を供えている。きっと、亡くなったのは、アルバート家の誰かだ。
アンジェリカは、屋敷の扉の前に立つと、ベルを鳴らした。
ものの数秒も経たず、ドアが内側に開く。其処には、甲冑を身に纏った、頼りなさげな青年が立っていた。
「な......なんですか、貴女たち?!」
「トローデーン国から参りました。家長様とお話し出来ませんか?! 一刻を争う事態なのです!」
アンジェリカは、間髪入れずに捲し立て、相手の危機感を煽った。
アルバート家の衛兵も、これ以上の厄介ごとは御免被りたいと考えたのか、不審そうな表情のまま、道を開けてくれた。
「僕も、先日急遽雇われたばかりの人間なんです! くれぐれも、不審な動きをしないで下さいよ!」
そんな事を言うくらいなら、追い返せば良いのに、それも出来ぬ程気弱らしい。
ヤンガスは、階段に差し掛かった所で、小さな声で悪態を吐いた。
「ドルマゲスの野郎が、呼び鈴鳴らしてやって来たら、どうするつもりなんでがすかね?」
「ドルマゲスだったら、扉をぶち破って入るんじゃないかな」
エイトも苦笑い。アンジェリカは、首を横に振った。
「もしドルマゲスなら、屋敷の住人が気付かない内に、火を点けるんじゃないかしら?」
何れにせよ、あの衛兵が役に立たない事に、変わりは無い。
一行は無駄に長い階段を登り切り、一人の女性の姿を捉えた。ホワイエに一つだけポツンと置かれた丸テーブルの前に、石像よろしく無表情に腰掛けていた。
アンジェリカは、遠慮がちに歩み寄り、その女性と視線が絡んだ瞬間に膝を折った。
「初めまして。私は、トロデーン国領から参りました、アンジェリカと申します」
「......ようこそ」
女性は覇気の無い声で、そう応えた。
「私はアルバート家の家長、アローザと申します。......本日は、どういったご用件で?」
「殺人犯を追っています」
単刀直入にそう告げると、アローザはギクリと肩を揺らした。しかし、その厳格そうな瞳に、強い光が宿った。彼女は、まるで生まれて初めて、価値ある宝石を目にしたかの様に、アンジェリカを見据えた。
「殺人犯とは?」
「トロデーン国王に呪いを掛け、トラペッタの高名な魔法使いを殺した者です。道化師の姿をしていて、杖を持っているはずです。こちらの村の方角へ向かったと聞いたものですから、後を追って参りました。......最近、何か......ありませんでしたか?」
「............息子が」
アローザは、声を詰まらせながら、この村の悲劇を語った。
「アルバート家の跡継ぎであった、息子のサーベルトが、この村の近くにある塔で......殺されたのです。」
村が沈んでいた理由は、これだ。
しかし、まだドルマゲスがやったとは限らない。とはいえ、この近くに身を潜めている可能性がある。
アンジェリカは、気の毒な夫人の為にも、暫くこの村に留まるべきだと判断した。彼女が仲間の方に振り返った時だ。
「きゃーーーーーっ!!!」
絹を引き裂く様な、女の悲鳴が聞こえてきた。
「奥様は、こちらでお待ちください! 確かめて参ります!」
アンジェリカは、返答を待たずに、声の源に向かって走り出した。エイトとヤンガスも、それに従う。
三人が駆け込んだのは、倉庫らしき部屋だった。入り口近くの壁際で、メイドが震えている。
「どうしたんですか?!」
アンジェリカが訊ねると、彼女は樽の辺りを指した。ちょろちょろと、動き回る小さな影。
「ねずみ」
エイトは拍子抜けし、ガックリ肩を落とした。その背中をヤンガスが叩く。
「まあ、良かったでがすね。あっしはてっきり、あの道化師がいるもんだと思ったでげす」
「ちっとも良くないわよ!!」
メイドはヒステリックに叫んだ。
「私だって嫌いなのに、クジ引きで負けちゃったから!!」
どうやら鼠退治に挑んでいたらしい。大声にビックリしたのか、小さい影は樽の隙間へと消えてしまった。
「......まあ、どうしましょう! 彼処には小さい穴が空いていて......お隣はゼシカお嬢様のお部屋なのに!!」
その時だ。エイトのポケットから、小さな顔が覗き、スタッと地面に着陸した。茶色の可愛らしい鼠だ。当然、メイドは絶叫し、壁際に伸びてしまった。
「あれ、貴方のペット?」
(夢主)の問いに、エイトは頷く。
「うん、トーポって呼んで。何時からかは覚えていないんだけど、ずっと一緒にいたんだ。......でも、困ったなあ」
彼は倒れたメイドと、鼠の走り去った方向とを、交互に見遣った。
こんな時に、ヤンガスはまるで役に立たないらしく、捨てられた子犬のような目で、エイトとアンジェリカに助けを求めていた。
アンジェリカは、一瞬思考し、二人の男と向き合った。
「私は、メイドさんを何とか起こしてみるわ。このまま放って置いたら、私達が襲ったみたいになってしまうもの。二人は、ゼシカさんのお部屋に行ってみて」
「分かった」
エイトは、この短期間でアンジェリカを十分に信頼していた。彼女は冷静で、賢い。その判断に従った方が、懸命だと考えた。
デコボコの二人組みが走り去った所で、アンジェリカはメイドの肩を揺さぶった。しかし、うんともすんとも反応が無い。
やむなく蘇生呪文のザオリクを唱えると、ようやく彼女は薄目を開けた。ぼーっとした表情でアンジェリカを見返し、涙目になった。
「嗚呼......私、こんな所で死んじゃうのかと思ったわ!!」
大袈裟な言葉だったが、本人にとっては一大事だったのだろう。アンジェリカは手を差し伸べ、メイドを助け起こし、肩を竦めた。
「アローザ奥様が、貴女の悲鳴を聞いて驚いていらっしゃったわ」
「まあ! 何てお恥ずかしい!」
メイドは顔を真っ赤にして、口元を覆った。
「あ、そういえば、鼠は?! 鼠はどうしました?!」
「多分、まだ樽の陰に......。私が見て参ります。貴女はアローザ様の所へ」
「ええ、そうさせて頂きます!!」
メイドは、脱兎の如く部屋を出て行ってしまった。はぐれメタルもビックリのスピードだ。
丁度それを見計らっていた様に、小さな影がチョロチョロと駆け寄ってきた。エイトの飼っていた方だ。何やら自分の体より幾分大きな紙を咥えている。
アンジェリカがしゃがむと、その手のひらにスタッと乗り、紙を落とした。どうやら、手紙らしい。
悪いとは思いつつ、アンジェリカはそれを開いて目を通した。
「......ちょ......ちょっと、これ!!!」
血の気を失って駆け出す。ゼシカ・アルバートの遺書だった。
兜の勇ましい少年と、鍋を被ったぼーっとした表情の少年が、剣とヒノキの棒を構えて襲い掛かってきたのだ。
何とか兄さんの仇! などと捲し立てられたが、当然アンジェリカ達には、全く身に覚えの無い事。完全に濡れ衣だ。
勿論、アンジェリカ達が少年に負ける事など、天地がひっくり返ってもあり得ない。しかし、村の若年者を、ザバンと同じように斬り捨てるワケにも行かず、中途半端に武器を構えた。
ようやく助け舟が出たのは、二人が武器を振り上げた時だった。
「これ!!」
村の老婆が、彼らの頭をグーで殴った。
「ゼシカお嬢様に、用事を言いつけられていたんじゃないのかい?!」
一喝に、少年達は反抗的な目を向けて、走り去ってしまった。
老婆はため息を一つ零し、アンジェリカ達に向き直った。
「すまなかったねえ、旅人さんよ」
その瞳には、暗い影が差していた。
アンジェリカは、改めて村の様子を把握した。皆、何処か覇気がない。何か良からぬ事が起きている......そんな気がした。
「何かあったんですか?」
彼女の問いに、老婆は口元を震わせた。逡巡の後、首を横に振る。
「最近、不幸があってのう......。詳しくは村のもんに聞いて貰えんか?」
そう言い残し、老婆は立ち去ってしまった。余程口にしたくないらしい。
かと言って、アンジェリカ達の方から、村人に声を掛けるのは、難しい。皆一様に負のオーラを纏っており、沈んでいた。
「誰か、お亡くなりになったのかしら?」
「この様子だと、爺さん婆さんが天寿をまっとうしたって雰囲気じゃあ、ねえでげすよ」
ヤンガスの推測は、多分外れていない。エイトは、ざっと辺りを見渡し、肩を竦めた。
「村の人たちには、聞かない方が良さそうだね。......アンジェ、確かこの村には、アルバート家のお屋敷があるんだろう? 其処で何か分からないかな?」
「分からなくっても、行くしかないじゃない。だって他に方法が無いんですもの」
アンジェリカは、正直気が進まなかった。幼い頃、マイエラ修道院で、貴族の横柄な振る舞いを見ていたせいか、どうも権力者に良い印象がない。
勿論オディロ院長は優しかったし、騎士団員は親切にしてくれた。
しかし、礼拝に訪れる王侯貴族らは、孤児達を捨て子と揶揄し、侮蔑と憐みの入り混じった視線を投げ掛けて来たのだ。
アルバート家の者が、どんな人となりであるか、アンジェリカは欠片も知らないのだが、幾分気持ちが沈んでしまった。
それでも、ドルマゲスを追わなくてはいけない。
「行きましょう」
アンジェリカは、先頭に立って足を進めた。
村は至って平和だった。少なくとも、家屋が燃やされたり、茨の絡みついた家などは見当たらない。
小さな木の橋を渡ると、左手に登り坂があり、そのてっぺんに豪奢なお屋敷が佇んでいた。
庭に踏み入った所で、物音一つしない。屋敷の住人が、本当に暮らしているのか不安にある程、静まり返っていた。
「見て」
エイトが庭園の隅を指し、立ち止まった。立派な墓石に、メイドが花を供えている。きっと、亡くなったのは、アルバート家の誰かだ。
アンジェリカは、屋敷の扉の前に立つと、ベルを鳴らした。
ものの数秒も経たず、ドアが内側に開く。其処には、甲冑を身に纏った、頼りなさげな青年が立っていた。
「な......なんですか、貴女たち?!」
「トローデーン国から参りました。家長様とお話し出来ませんか?! 一刻を争う事態なのです!」
アンジェリカは、間髪入れずに捲し立て、相手の危機感を煽った。
アルバート家の衛兵も、これ以上の厄介ごとは御免被りたいと考えたのか、不審そうな表情のまま、道を開けてくれた。
「僕も、先日急遽雇われたばかりの人間なんです! くれぐれも、不審な動きをしないで下さいよ!」
そんな事を言うくらいなら、追い返せば良いのに、それも出来ぬ程気弱らしい。
ヤンガスは、階段に差し掛かった所で、小さな声で悪態を吐いた。
「ドルマゲスの野郎が、呼び鈴鳴らしてやって来たら、どうするつもりなんでがすかね?」
「ドルマゲスだったら、扉をぶち破って入るんじゃないかな」
エイトも苦笑い。アンジェリカは、首を横に振った。
「もしドルマゲスなら、屋敷の住人が気付かない内に、火を点けるんじゃないかしら?」
何れにせよ、あの衛兵が役に立たない事に、変わりは無い。
一行は無駄に長い階段を登り切り、一人の女性の姿を捉えた。ホワイエに一つだけポツンと置かれた丸テーブルの前に、石像よろしく無表情に腰掛けていた。
アンジェリカは、遠慮がちに歩み寄り、その女性と視線が絡んだ瞬間に膝を折った。
「初めまして。私は、トロデーン国領から参りました、アンジェリカと申します」
「......ようこそ」
女性は覇気の無い声で、そう応えた。
「私はアルバート家の家長、アローザと申します。......本日は、どういったご用件で?」
「殺人犯を追っています」
単刀直入にそう告げると、アローザはギクリと肩を揺らした。しかし、その厳格そうな瞳に、強い光が宿った。彼女は、まるで生まれて初めて、価値ある宝石を目にしたかの様に、アンジェリカを見据えた。
「殺人犯とは?」
「トロデーン国王に呪いを掛け、トラペッタの高名な魔法使いを殺した者です。道化師の姿をしていて、杖を持っているはずです。こちらの村の方角へ向かったと聞いたものですから、後を追って参りました。......最近、何か......ありませんでしたか?」
「............息子が」
アローザは、声を詰まらせながら、この村の悲劇を語った。
「アルバート家の跡継ぎであった、息子のサーベルトが、この村の近くにある塔で......殺されたのです。」
村が沈んでいた理由は、これだ。
しかし、まだドルマゲスがやったとは限らない。とはいえ、この近くに身を潜めている可能性がある。
アンジェリカは、気の毒な夫人の為にも、暫くこの村に留まるべきだと判断した。彼女が仲間の方に振り返った時だ。
「きゃーーーーーっ!!!」
絹を引き裂く様な、女の悲鳴が聞こえてきた。
「奥様は、こちらでお待ちください! 確かめて参ります!」
アンジェリカは、返答を待たずに、声の源に向かって走り出した。エイトとヤンガスも、それに従う。
三人が駆け込んだのは、倉庫らしき部屋だった。入り口近くの壁際で、メイドが震えている。
「どうしたんですか?!」
アンジェリカが訊ねると、彼女は樽の辺りを指した。ちょろちょろと、動き回る小さな影。
「ねずみ」
エイトは拍子抜けし、ガックリ肩を落とした。その背中をヤンガスが叩く。
「まあ、良かったでがすね。あっしはてっきり、あの道化師がいるもんだと思ったでげす」
「ちっとも良くないわよ!!」
メイドはヒステリックに叫んだ。
「私だって嫌いなのに、クジ引きで負けちゃったから!!」
どうやら鼠退治に挑んでいたらしい。大声にビックリしたのか、小さい影は樽の隙間へと消えてしまった。
「......まあ、どうしましょう! 彼処には小さい穴が空いていて......お隣はゼシカお嬢様のお部屋なのに!!」
その時だ。エイトのポケットから、小さな顔が覗き、スタッと地面に着陸した。茶色の可愛らしい鼠だ。当然、メイドは絶叫し、壁際に伸びてしまった。
「あれ、貴方のペット?」
(夢主)の問いに、エイトは頷く。
「うん、トーポって呼んで。何時からかは覚えていないんだけど、ずっと一緒にいたんだ。......でも、困ったなあ」
彼は倒れたメイドと、鼠の走り去った方向とを、交互に見遣った。
こんな時に、ヤンガスはまるで役に立たないらしく、捨てられた子犬のような目で、エイトとアンジェリカに助けを求めていた。
アンジェリカは、一瞬思考し、二人の男と向き合った。
「私は、メイドさんを何とか起こしてみるわ。このまま放って置いたら、私達が襲ったみたいになってしまうもの。二人は、ゼシカさんのお部屋に行ってみて」
「分かった」
エイトは、この短期間でアンジェリカを十分に信頼していた。彼女は冷静で、賢い。その判断に従った方が、懸命だと考えた。
デコボコの二人組みが走り去った所で、アンジェリカはメイドの肩を揺さぶった。しかし、うんともすんとも反応が無い。
やむなく蘇生呪文のザオリクを唱えると、ようやく彼女は薄目を開けた。ぼーっとした表情でアンジェリカを見返し、涙目になった。
「嗚呼......私、こんな所で死んじゃうのかと思ったわ!!」
大袈裟な言葉だったが、本人にとっては一大事だったのだろう。アンジェリカは手を差し伸べ、メイドを助け起こし、肩を竦めた。
「アローザ奥様が、貴女の悲鳴を聞いて驚いていらっしゃったわ」
「まあ! 何てお恥ずかしい!」
メイドは顔を真っ赤にして、口元を覆った。
「あ、そういえば、鼠は?! 鼠はどうしました?!」
「多分、まだ樽の陰に......。私が見て参ります。貴女はアローザ様の所へ」
「ええ、そうさせて頂きます!!」
メイドは、脱兎の如く部屋を出て行ってしまった。はぐれメタルもビックリのスピードだ。
丁度それを見計らっていた様に、小さな影がチョロチョロと駆け寄ってきた。エイトの飼っていた方だ。何やら自分の体より幾分大きな紙を咥えている。
アンジェリカがしゃがむと、その手のひらにスタッと乗り、紙を落とした。どうやら、手紙らしい。
悪いとは思いつつ、アンジェリカはそれを開いて目を通した。
「......ちょ......ちょっと、これ!!!」
血の気を失って駆け出す。ゼシカ・アルバートの遺書だった。